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2001年4 月27日 (金曜日)

【映画評】サトラレ~TRIBUTE to a SAD GENIUS (2000)

心の声が知らず知らずのうちに他人に悟られてしまう“サトラレ”の周りに起こる悲喜劇。

【満足度:★★】

 飛行機墜落事故の捜索に出動する自衛隊々員たち。絶望的なその現場で、隊員は男の子の声を聞く。その声を頼りに助け出された男の子は意識を失っていた。しかしそれでもなお声は聞こえてくる。その声は、少年の“心の声”だったのだ。
 こうして発見された国内七番目の乖離性意思伝播過剰障害者、通称“サトラレ”の彼、里見健一(安藤政信)は国の保護の下、自分がサトラレだと気付かないまま、成人して外科医師となっていた。
 国の機関・特能保全委員会から、その彼のもとに小松洋子(鈴木京香)が派遣される。彼女の使命は、健一をサトラレには向いていない外科医から新薬研究の道へと転職させること…。

 『踊る大捜査線 THE MOVE』の大ヒットがまだ記憶に新しい本広克行監督によるヒューマンファンタジー。
 結論から言うと、前評判通り、泣けます。観客を泣かすために作られていると言ってもいい。クライマックスにはこれでもかって感じの怒濤の涙腺攻撃が待ってます。

 しかしだな、それ以前に、これ映画か?
 監督には申し訳ないが、筆者としては、あの大ヒットした『踊る大捜査線 THE MOVE』の時にも思ったのだが、“映画”の体裁を成していないと思う。
 なにをもってして映画とするかなんて大げさな持論があるわけでないが、直感的に「違うだろ」って思っちゃうのよ。
 泣かそうとした演出にまんまとはまった筆者なのだから、監督の演出が下手くそだとかケチをつけるわけじゃない。そういう意味ではまっとうな正攻法で勝負できてるし、一応勝ってる。
 じゃ何が不満かは、ネタバレになるんで、もうちょっと後に書く。

 その前に役者さんについて。
 この作品が泣ける作品として一番の功労者は、サトラレ健一のおばあちゃん・キヨを演じた八千草薫さん。もう、素晴らしいですよ。とりたてて派手な演技をしているわけでもないのにその存在感たら、ありゃしない。この人なくして、クライマックスの涙腺攻撃は成立し得ない。本広監督の不甲斐なさをものともせずに、十二分にフォローしてます。
 その逆に監督の不甲斐なさのあおりをもろに食らったと思えるのが、先輩医師・東を演じた寺尾聰。演技は手堅くいいんですよ。けど、作品の中での位置付けが中途半端なもんだから、なんとも釈然としない。
 若い監督には若い子の方が合っていたか、サトラレに惚れられちゃう後輩の女の子・めぐみを演じた内山理名が、意外と言ってはなんだが、結構良かった。とりあえず、惚れられちゃうのも納得するかわいらしさ。
 で、肝心の主役ふたりなんだけど、鈴木京香はあんまりよくない。安藤政信くんはいいんだけど、印象が薄い。ただふたりとも同情するのは、演出の中途半端さがそうさせてるって要因も無視できないから。

 鈴木京香が主演女優、安藤政信が主演男優。これで間違いはないんだけど、作品として、キャラクターとしてはどっちがより主役としての位置付けなのかってのが、すごくどっちつかずなんだよ。
 題材を考えれば主役はサトラレである里見健一(安藤政信)と思いがちだけど、この作品の場合、彼のもとに送られた小松洋子(鈴木京香)が彼を前にしてどう感じるか、そしてどう行動するかって話なんだから、主役は洋子であるはず。彼女が目の前に現れて、サトラレ健一がどう反応するかって話にはなっていないんだもの。
 にもかかわらず、クライマックスは安藤政信演じるサトラレ7号が主役にすり変わってしまう。だから、それまでに積み上げてきた洋子に関ってきたエピソードが台無しになってる。
 泣かせるためだけに注力した末に、あざといを通り越して、的外れもはなはだしい。こんなだから、「監督、わかってんの?」と頭をよぎる。

 しかも、この作品の欠陥はこれだけにとどまらない。

この先ネタバレなので…

















































では続きをどうぞ

 結局ね、終わってみたらサトラレに関して何も解決しないんですよ。
 サトラレ健一はサトラレと悟らないままだし、国の体制が変わるわけでもないし、サトラレ健一の恋が誰かと成就するわけでもない。

 この話でサトラレ7号がサトラレと悟らないまま終わったら、どうやったってサトラレ7号自身は主役じゃないのよ。あくまで観察される側。サトラレ7号の周りで彼にどう反応するかって話にしかなりっこない。
 わざわざ1シークエンス使ってサトラレがサトラレと悟ってしまう悲劇を描いておきながら、「でも里見健一は…」っていうところが無いから、あのシークエンスって里見健一個人とはまったく遊離したエピソードで終わってる。

 一方洋子が国に異議申し立てはするけども、大それた異議申し立てをした割りには、結末に結びついていない。

 結局主役ふたりが互いを理解しているようで、サトラレという壁は越えられずにいるから、ファンタジーとしての夢物語になってない。中途半端に現実的な終わり方をしちゃったから、完結しないじゃない。
 この作品はファンタジーなんだからさ、現実以上の結末にしてくれなきゃ、そんなところで現実的になられても、夢から覚めるだけ。

 はっきり言えば、洋子が周りに知れちゃうことを承知で、サトラレの恋を受け入れてセックスしたっていいじゃない。洋子自身もサトラレの仲間になるって心づもりでさ。
 そんなこと現実にはあり得ないとしても、その現実にあり得ないことを見せてくれるのが夢物語としてのファンタジー映画じゃない。最後の最後で現実的になるから、絵空事で終わっちゃうのよ。
 そうじゃないでも、サトラレ健一が自分がサトラレだと悟った上で、でも健一は自暴自棄にならずにサトラレを治す研究を始めました、って終われば、ハッピーな気分で劇場を出られたはず。
 ハッピーエンドじゃないにしても、国の体制ひっくり返して悲劇的に終われば、それなりにカタルシスはあったでしょう。

 つまり、『サトラレ』という作品がサトラレという存在に、いかようにもひとつの結論を出せたはずなのに、それを出さないままで、違うところで涙誘って幕引きってのは、寿司屋やそば屋のあがりに紹興酒やワイン出されるぐらい納得いかないものだったの。
 それがどんなに旨くても、やっぱ違うでしょ。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】安藤政信/鈴木京香/内山理名/松重豊/小木茂光/深浦加奈子/田中要次/半海一晃/川端竜太/村井克行/鈴木一功/武野功雄/平賀雅臣/田中龍/甲本雅裕/高杉亘/小野武彦/黒部進/藤木悠/高松英郎/寺尾聰/八千草薫
  • 【監督】本広克行
  • 【製作総指揮】萩原敏雄
  • 【製作】横山茂幹/阿部秀司/鈴木敏夫/高井英幸/小野清司
  • 【企画】戸谷仁
  • 【プロデューサー】奥田誠治/井上健/堀部徹/安藤親広
  • 【原作】佐藤マコト『サトラレ』
  • 【脚本】戸田山雅司
  • 【音楽】渡辺俊幸
  • 【ラインプロデューサー】竹内勝一/羽田文彦
  • 【撮影】藤石修(J.S.C)
  • 【照明】水野研一
  • 【録音】芦原邦雄
  • 【美術】部谷京子
  • 【装飾】赤塚佳仁
  • 【編集】田口拓也(J.S.E)
  • 【監督補】羽住英一郎
  • 【サウンドデザイナー】百瀬慶一
  • 【キャスティングデザイナー】守屋圭一郎
  • 【主題歌】『LOST CHILD』 [唄]藤原ヒロシ+大沢伸一 feat.クリスタル・ケイ [作詞]西尾佐栄子 [作曲]藤原ヒロシ+大沢伸一
  • 【製作】「サトラレ対策委員会」/日本テレビ/ROBOT/スタジオカジノ/東宝/博報堂
  • 【制作プロダクション】ROBOT
  • 【配給】東宝
  • 【日本公開】2001年
  • 【製作年】2000年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】129分

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