【映画評】ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 (2003)
指輪を捨てる旅がついに終わる!
映画史を塗り替えるこの壮大な三部作がついに完結。
感無量で何を書いていいのかわからない。書き出せばきりがない。
映画好きな観客のひとりとして、映画作りに携わるひとりとして、あまりにも偉大過ぎる映画だ。
強大な悪に立ち向かいながら悪の源たる指輪を捨てにいくという、至極単純明快かつ壮大なファンタジー叙事詩三部作の完結編。
これ以上はストーリーについてここでは触れないので、以降はこの三部作に完全に魅了された者の戯言として読んでいただきたい。
まず判り易いところから。
技術面ではもう映画という媒体の完成形と言っていいんではないか。スクリーンという平面上にフィルムの影を映す表現メディアは、これでもう、現在の技術でなんでもできるんだと証明されたようなものだ。
主要キャストがほとんど特殊メイクの『猿の惑星』(1968年、フランクリン・J・シャフナー監督)、宇宙SFというジャンルを一般化させた『スターウォーズ』(1977年、ジョージ・ルーカス監督)、CG合成の可能性を開いた『ジュラシック・パーク』(1993年、スティーブン・スピルバーグ監督)と、映したいものをフィルム上の絵に描くための技術は年々進歩してきたが、それらが皆ここに極まったといっていい。
10年に一度のエポックメーキングな傑作と言うのは簡単だが、こと技術面において、これ以上何が必要と言うのか。
激しい戦闘シーンもどうやって撮影したのか想像がつかないくらい凄いのだが、ニュージーランドの山々を早朝に空撮したであろう美しい景色に、ノロシのCGが合成されているシーンで震えた。“早朝に空撮”だとわかり、“CG合成しかあり得ない”までは撮影現場を知っている人間として容易に想像つくのだが、“空撮のためのヘリコプターの揺れに合わせてCGを合成”するというのは暴挙としか思えない途方もない作業だ。
それでもライブ感にこだわって実際に空撮し、途方もない作業をいとわない。一事が万事そんな調子。この執念としか思えない徹底ぶりが素晴らしい。
この作品が筆者を魅了するのはそんな技術的なことだけではない。いろんな意味でヒューマンだからだ。
ストーリーはもちろん、抽象的だが、この作品に込められた情熱や愛情が有形無形で伝わってくることが、この三部作を愛さずにはいられない感動を確固なものとしている。
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ程の技術があるならフルCGでの映画化も充分可能だったはずだ。その方が映像化にあたっての自由度も高いだろう。それでもあえてジャクソン監督は人間の演技にこだわった。見た目は完全なデジタルクリーチャーであるゴラムにすら俳優(アンディ・サーキス)の演技を求めたのだ。
これはCG技術の可能性と限界の両方をわきまえた判断にほかならない。お化けや動物ならいざ知らず、人間や人間的なものの表情を捉えようと思ったら、人間の表情を目標にして表現するCGより人間自身の演技力の方が勝るのは当然だ。
今回の『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』の冒頭では、ゴラムがまだスメアゴルだった頃が語られる。このときのスメアゴルは醜い姿ではなくホビットの姿だ。それを演じるのはもちろんアンディ・サーキス。
“もちろん”と言ったが、ゴラムがもし純然たるCGだったならば、ここでスメアゴルを演じるのは誰でもいいということになるのだ。しかしジャクソン監督が俳優の演技にこだわったからこそ、“スメアゴル”と“ゴラム”の表情はまさしく同一で、さらにはそこに、アンディ・サーキスという俳優を画面に出そうとしたジャクソン監督の配慮が感じ取れるのだ。
また、今作のクライマックス以降の展開は一本の映画としてはかなり冗長な印象だ。今風の安易な娯楽映画としてまとめるなら指輪を捨てたところでスパッと終わる方が美しいといえる。しかし、原作を愛するジャクソン監督はそれを許さない。原作の持つ真の意味を見失わず、三部作としての結末を充分に時間を割いて描き切ってみせる。
この『ロード・オブ・ザ・リング』三部作によってフィクションという抽象化の行き着く先が神話だと体感し、そしてこの三部作がまさに現代の神話だと疑わない。
今や映画業界もデジタル化に突き進んでおり、魔法の時代を終えた中つ国の如く“フィルム”での撮影は終焉を迎えようとしている。しかし、デジタルビデオカメラでの撮影が一般化し、フィルムでの撮影が過去のものとなったとしても、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作を作り上げたスタッフ・キャストたちの偉業の重みは何ら変わらない。
この10時間にも及ぶ神話とともに、この神話を完成させた英雄たちの物語は、のちの映画人たちへ伝説として語り継がれるだろう。
フロドやサムたちが最後に見せる涙は、それを演じたイライジャ・ウッドやショーン・アスティンら自身の、共に戦った友との別れの涙にほかならず、筆者も眼前に繰り広げられる感動的なシーンと同時に、この壮大な作品との本当の別れが来たことを噛み締め、ひたすら泣けた。
10年に一度なんて言わない。生涯に一度逢えるかどうかの傑作。
作品データ - Film Data
- 【キャスト】イライジャ・ウッド/イアン・マッケラン/リヴ・タイラー/ヴィゴ・モーテンセン/ショーン・アスティン/ケイト・ブランシェット/ジョン・リス=デイヴィス/バーナード・ヒル/ビリー・ボイド/ドミニク・モナハン/オーランド・ブルーム/ヒューゴ・ウィービング/ミランダ・オットー/デヴィッド・ウェンハム/カール・アーバン/ジョン・ノーブル/アンディ・サーキス/イアン・ホルム/ショーン・ビーン
- 【監督】ピーター・ジャクソン
- 【脚本】フラン・ウォルシュ/フィリッパ・ボウエン/ピーター・ジャクソン
- 【原作】J.R.R.トールキン
- 【製作】バリー・M.オズボーン/フラン・ウォルシュ/ピーター・ジャクソン
- 【製作総指揮】マーク・オーデスキー/ボブ・ワインスタイン/ハーヴェイ・ワインスタイン/ロバート・シェイ/マイケル・リン
- 【撮影監督】アンドリュー・レスニー
- 【美術】グラント・メイジャー
- 【共同製作】リック・ポーラス/ジェイミー・セルカーク
- 【衣装】テイラ・ディクソン/リチャード・テイラー
- 【音楽】ハワード・ショア
- 【スペシャル・メイクアップ/SFX/クリーチャー/アーマー/ミニチュア】リチャード・テイラー
- 【特殊効果スーパーバイザー】ジム・リギエル
- 【コンセプチュアル・デザイナー】アラン・リー/ジョン・ハウ
- 【スーパーバイザー/アート・ディレクター】ダン・ヘナー
- 【ヘア・メイクアップ・アーティスト】ピーター・オーウェン/ピーター・キング
- 【製作】ニューライン・シネマ
- 【提供】日本ヘラルド映画/松竹/角川書店/電通/フジテレビジョン/ポニーキャニオン/丸紅
- 【配給】日本ヘラルド映画/松竹
- 【原題】THE LORD OF THE RINGS - THE RETURN OF THE KING
- 【日本語字幕】戸田奈津子
- 【字幕協力】田中明子/評論社
- 【日本公開】2004年
- 【製作年】2003年
- 【製作国】アメリカ
- 【上映時間】203分
- 【公式サイト】http://www.lotr.jp/


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