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2005年2 月 7日 (月曜日)

【映画評】L'amant ラマン (2004)

三人の男たちと一年間だけ愛人契約を結ぶ17歳の少女の一年間。

【満足度:★★☆】 (鑑賞日:2005/02/06)

 女子高生のチカコ(安藤希)は背中に天使の羽根のタトゥーを入れた。
 彼女はある洋館を訪れる。迎えたのは三人の男。三人は彼女をハナコと名付け、彼女は彼らをA(田口トモロヲ)、B(村上淳)、C(大杉漣)と呼ぶ。
 彼女は17歳になったのを機に、この三人の男たちと一年限りの愛人契約を結んだのだった…。

 やまだないとによる同名漫画の原作を、『ヴァイブレータ』が高く評価された廣木隆一監督が映画化、だそうだ。
 実のところ、この映画は鑑賞予定に入っていなかった。というか、まったく眼中になかった。
 そんな予備知識ではなく、偶然この『ラマン』が筆者お気に入りの安藤希の主演作だと知って、急遽劇場に駆けつけたのだ。
 そういうわけで、予備知識はほとんど無い状態、原作はもちろん予告編すらも未見での鑑賞。
 原作を知っている人や予告編を観た人ならおわかりだろうが、こんなミーハーな理由で観るにはあまりに衝撃的な内容でしたわ。

 映画は、なぜチカコがそんなことをするのか、三人の男たちは何者なのかといったことがまるで説明されないまま、一年間の“非日常的な日常”を断片的に描いていく。
 時間が経つにつれ少しづつそういった理由もほのめかされはするが、一方で、安藤希が二役でもう一人のハナコとして登場したり、突然大杉漣演じるCが何者かに刺されたりして、謎は深まるばかり。
 最終的にも説明されない謎が多く残る。だからといって謎解き映画ではなく、少女の成長物語、一応。
 結局のところ、謎は謎ではなく、チカコも含めた人々の側面を局所的に切り取って見せることこそが監督の狙いだったようだ。

 この映画で印象的なのは、繰り返される非日常と日常の対比。
 登場人物の名前すら匿名とし、それぞれの背景をあえて隠し、曲者揃いの役者陣には極力感情を抑えた芝居と、映画として成立しうるギリギリまで抽象化しておきながら、一方でごくありふれた日常を描いて物語を転がす。
 愛人たちとの密会の館で夏休みの宿題をするチカコなんてその際たるもの。男たちも援助交際などという俗な言葉では表現し切れない特殊な関係にもかかわらず、お兄さん、お父さんの如くその宿題を手伝う。
 中でも一番印象に残ったのは、学校近くの病院に入院した刺されたCを見舞ってチカコが花を届けるさり気ないシーン。このありえない状況下でのごく自然な振る舞いこそがこの映画の神髄のような気がする。
 四人で打ち上げ花火を観ているシーンで、チカコの「この男たちもかつて子供だったんだ」とのモノローグが入るが、そんな当たり前のことの再発見を、観客もことあるごとに追体験させられる映画なのだ。

 後になってしまったが、お目当てだった安藤希は体当たりの演技というほかない。セミヌードや濡れ場の多いこの役を引き受けた彼女の心意気に感服。
 一ファンとしては、観ていて複雑な心境にもなるが、業界に従事するひとりとして、私情抜きにチカコ役のキャスティングを考えても、アンニュイなたたずまいや主演としての演技力も含め、彼女に白羽の矢が立ったのは納得するし、結果的に“安藤希ありき”といえる、彼女の魅力が活かされた主演作になったのは嬉しい限り。
 時折見せるあどけなさを残した表情がまた、非日常性の中に封じ込められた日常を際立たせていて印象的だったと付け加えておく。

 ただ、映画としては過剰な抽象化がアダとなり、肝心のチカコの心境の変化が見えてこなかった。
 そこまでも抽象化し、観客それぞれに考えさせたかったのかもしれないが、最後ぐらいは、もう一歩だけでも観客側に歩み寄ってくれなければ、つかみどころのない映画との印象しか残らない。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】安藤希/田口トモロヲ/村上淳/大杉漣/前田綾花/遠藤雄弥/水橋研二/星遥子/大口広司/中村達也/秋桜子/ひふみかおり
  • 【監督】廣木隆一
  • 【原作】やまだないと『ラマン』
  • 【製作】川島晴男
  • 【製作統括】鈴木径男
  • 【企画】永田芳弘/成田尚哉
  • 【プロデューサー】東康彦/椋樹弘尚
  • 【脚本】七里圭
  • 【撮影】鈴木一博
  • 【照明】上妻敏厚
  • 【録音】岩丸恒
  • 【整音】深田晃
  • 【美術】金勝浩一
  • 【編集】菊池純一
  • 【助監督】宮城仙雅
  • 【製作担当】吉崎秀一
  • 【協力プロデューサー】田口聖
  • 【挿入曲】「光と影」Polaris [作詞/作曲]オオヤユウスケ
  • 【エンディングテーマ】「少女」辻香織 [作詞/作曲]五輪真弓
  • 【製作】ハピネット・ピクチャーズ
  • 【制作プロダクション】アルチンボルド
  • 【配給】スローラーナー
  • 【日本公開】2005年
  • 【製作年】2004年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】92分

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コメント (2)

TBどうもでした。
安藤希がお好きなんですね。
映画祭で本人が語っていたところによると、
彼女は昨年「ラマン」の他に3本の作品に出演したそうですよ。
たぶん今年立て続けに公開されるのでしょう。
楽しみですね。

コメントありがとうございます。
なかなかこの映画の感想を書いているブログが見つからなくて、紹介コーナーに苦労しました(笑)
これからもよろしくです。

安藤さんは、名前を見つけたら気にする程度だったんですが、先日、職業柄、偶然一緒の仕事をする機会がありまして、そのときに「こんなに好きだったんだぁ~」って再認識するぐらいにドキドキしちゃったんですよね(苦笑)
今では一番お気に入りの女優さんです。

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