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2005年6 月 7日 (火曜日)

【映画評】電車男 (2005)

ヲタク青年の恋をネット掲示板の“名無しさん”たちが応援するピュア・ラブストーリー。

【満足度:★★★☆】 (鑑賞日:2005/06/05)

 オドオドしてまるでパッとしないアキバ系ヲタクの青年(山田孝之)はある日電車の中で、暴れるおじさん(大杉漣)から奇麗な女性(中谷美紀)を助けた。
 この女性に恋してしまったヲタク青年は、その夜、自称“電車男”を名乗ってネット上の匿名掲示板に相談を書き込む。すると瞬く間に多くの匿名の名無しさんたちから、この恋を成就させるための助言が投稿されてきた。
 名無しさんたちの励ましに支えられ、電車男は彼女にふさわしい自分に変えていこうと頑張り、やがて“エルメス”と名付けられたその女性との関係は、順調な展開を見せはじめるのだが…。

 有名なネット掲示板「2ちゃんねる」(http://www.2ch.net/)上で繰り広げられた匿名の住人たちのやりとりをまとめて出版した書籍を原作とするラブストーリー。
 掲示板上でのやりとりだけに関して言えば紛れもない実話なので、そういった観点で解説されることが多いが、映画的に考えて、王道をゆきながらも現代的なとてもよくできた恋愛映画

 映画化にあたっては、不特定多数の名無しさんが出入りするネット掲示板の住人を、電車男自身を含め8人に絞って展開させ、また本来混沌として誹謗中傷や下ネタも絶えない書き込みを、性善説に則った真摯な投稿だけに絞ってある。
 当然それらによってスポイルされてしまった“ネット掲示板らしさ”もあるのだが、純愛映画としての方向性を正しく交通整理するためには必要な作業だったろうし、それは成功していると思う。
 絞りに絞った個々の名無しさんたちの映画版独自のキャラクター設定も、名無しさんゆえだろう、清いほどにあえて深く掘り下げていない。それでいて最後に気の効いたエピソードをそれぞれに添えて、映画の終幕の心地よさの一助としているあたり抜かりがない。

 山田孝之演じる主役の電車男は一見すると紋切り型のヲタク像なのだが、決して“不細工”でない山田孝之の計算ずくの大袈裟な好演が、彼を“モテナイ男”ではなく“自信のない男”に転じさせていて、この映画が描かんとする“応援”の対象としての電車男像を際立たせている。

 対する中谷美紀演じるエルメスはさらに象徴的。
 エルメスは電車男にとっては高嶺の花の理想的な女性像で、名無しさんたちにとっては、匿名の電車男から伝え聞くだけの、想像するしかない存在。演出的にも名無しさんたち以上にその背景や生活観を排した描き方で、ミステリアス。
 中谷美紀は、そんな彼女の“つかみ所のなさ”と同時に、クライマックスへとつながる、電車男とは一枚も二枚も上手な“大人の女性”を、山田孝之と対照的な抑えた芝居でうまく演じ切っている。
 ちなみに原作には、電車男からの「エルメスは中谷美紀似」との意味の投稿があり、そこからのなんのひねりもないキャスティングなんだろうが、結果的には原作からイメージされるエルメス像とは一味違った、しかも原作以上のエルメスになったと思う。
 彼女の存在感は圧倒的で、映画が終わって振り返ると、ただ微笑んでいるだけでも神々しくすらある

 正直、映画の中盤過ぎまで、山田孝之の電車男と中谷美紀のエルメスでは歳が離れ過ぎではないかと違和感を感じていたのだが、いやはやどうして、原作とは変えてあるクライマックス手前、電車男がひときわダメ男に落ち、エルメスが大人の切れ味を見せた辺りから、この二人だからこそのこの結末、それまでの成り行きと合点がいった

 とまあ、ここまで誉めてばかりなのだが、いくつか無視できない欠点もあって、大絶賛とはいかないのが惜しい。

 一つは、何度も出てくる戦場シーンの意味が、映画を観ただけでは理解しにくいこと。
 原作を読むと掲示板上の投稿にやはり戦場に模した描写が多くあり、それをイメージ映像として再現しているだけなのだと判るのだが、どうも勢いだけが先走っている感が否めない。
 これから映画を観る、元ネタを知らない人のために解説しておくと、彼女のいない彼らにとって、応援をしてはいても、電車男による順調な恋の展開の報告は、鬱になる“攻撃”ということらしいです。

 致命的なのが、台詞を聞き取れない箇所が多過ぎ。
 大勢の投稿が入り乱れるシーンなどは多少聞き取れないのはしょうがないというか、聞き取れないようにするのも演出だと認めるのだが、先の戦場シーンなどとくに、ただでさえ意味が判りにくいのにその上台詞も聞き取れないんじゃ、何が起こっているのかまったく判らなくて難儀した。

 あと、せっかく盛り上がってきたクライマックスで、画面の色彩がおかしくなっていったのはなんなの?
 この変な色調が、狙いなのか、予算的なシワ寄せなのか、単なるミスなのか、さっぱり判らないぐらい突拍子もなく、観ていてただ気持ち悪かった

 致命傷ではないんだが、始まってすぐから音楽がなんか薄っぺらい印象を受けた。
 『いま、会いにゆきます』のときにはうまくはまったORANGE RANGEの歌うエンディング曲も今回は外した気がする。

 そんなこんなで、いくつか難点も挙げたが、総じては後味のいい、良質な純愛映画だとまとめとく。
 随所に出てくるいわゆる「2ちゃん語」や「AA」(アスキーアート≒顔文字の類い)が判らない、あるいは受けつけない向きもあろうが、その辺は問題のない筆者的には、充分笑え、存分に感動させてもらった。
 そして一番の収穫は、これまでとりたててファンでもなかった中谷美紀さんでしたけど、彼女のエルメスには惚れた、もとい、萌えましたってことだなw。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】山田孝之/中谷美紀/国仲涼子/瑛太/佐々木蔵之介/木村多江/岡田義徳/三宅弘城/坂本真/寺泉憲/田島令子/松田悟志/菊池隆則/田中美里/白石美帆/田中幸太朗/西田尚美/大杉漣
  • 【監督】村上正典
  • 【原作】『電車男』中野独人
  • 【脚本】金子ありさ
  • 【撮影】北山善弘/村埜茂樹
  • 【映像】吉川博文
  • 【美術】柳川和央
  • 【照明】花岡正光
  • 【録音】田中靖志
  • 【音楽】服部隆之
  • 【主題歌】『ラヴ・パレード』ORANGE RANGE
  • 【製作】「電車男」製作委員会(東宝/フジテレビジョン/S・D・P/博報堂DYメディアパートナーズ)
  • 【配給】東宝
  • 【日本公開】2005年
  • 【製作年】2005年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】101分

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