« 【製作日誌】映画C:不安 | メイン | 【製作日誌】映画C:移動日 »

2005年7 月 2日 (土曜日)

【映画評】樹の海 Jyukai (2004)

自殺の名所として名高い青木ヶ原樹海を舞台に、真っ向から生と死について描いた佳作。

【満足度:★★★★☆】 (鑑賞日:2005/06/30)

 epsode1/公金横領に手を染め、挙句の果てに組織に“殺され”て、樹海に捨てられた男・朝倉正彦(萩原聖人)は、樹海をさまよううち、自殺しようとここに来た中年男・田中哲治(田村泰二郎)と遭遇する。
 epsode2/悪徳金融屋のタツヤ(池内博之)は、夜逃げした顧客・北村今日子(小嶺麗奈)からの電話に導かれ、樹海に足を踏み入れる。
 epsode3/探偵・三枝清(塩見三省)から呼び出された平凡なサラリーマン・山田敏男(津田寛治)は、新橋の酒場で一枚の写真を見せられる。その写真には、山田の横に若い女性(小山田サユリ)が微笑んで写っていた。山田には見覚えがないその女性・横山真佐子は、樹海で自殺したのだという。
 epsode4/駅の売店で働いていた手島映子(井川遥)は、樹海で一本のネクタイを木の枝に結んで首を吊ろうとするが…。

 微妙に絡み合いながら四つのエピソードが語られるオムニバス作品。
 常に薄暗い青木ヶ原樹海を舞台としていろいろな形で自殺を描く。“負の群像劇”ともいうべきエピソードの中から、ほのかに浮かび上がってくる生への賛歌が感動的な力作。
 監督はこれがデビュー作となる瀧本智行監督。脚本はプロデューサーも兼任する青島武と瀧本監督との共同執筆。
 断っておくと、筆者もこの作品の製作に関わってます。だからといって批評はマイペースのいつも通り。ちゃんとお金払って観てきましたし。(笑)

 ほぼ2時間の上映時間は、樹海と自殺というキーワードだけで組み立てられた一本の映画としては、少々長い気もするのだが、四つのエピソードが、うまく描き分けられていて、視点や表現方法も変えてくるので、なんとか飽きずに観ていられる。
 技巧的なことで述べれば、独立した四つのエピソードを絡めつつ、回想シーンも多用し、場所や時間軸が盛んに飛び回るのだが、構成や編集のうまさなんだろう、単調にならないよう適度に思考回路を刺激しながら、かといって話がわからなくなるということもない。

 ただ、裏を返せば、この手のオムニバス作品の宿命で、各々のエピソードそのものは比較的あっさりしており、派手なストーリー展開で魅せるという類いの作品ではない。
 携帯電話でのやりとりで説明台詞的に語られるタツヤのエピソードにしても、会話劇に終始する山田と三枝のエピソードにしても、あらすじだけで言ってしまうと他愛もない小話にすぎない。しかし、そこに凝縮された監督の人間観察の鋭さ、脚本家としての引き出しの多さには圧倒させられてしまう。
 死のうとする者、生きようとする者、普通の人々が自殺へ追い込まれる背景の一端が綴られた、まさに人間群像。
 人の生と死をさまざまな角度から描きながらも、すべてのベクトルは「あなたにも誰かがいてくれる」という確固たる主張に向かっており、遂には感動的な再生の結末へと収束する。
 「自殺はいけない」という実直なテーマの一方で、「自殺は悪だが、自殺者は悪人ではない」との信念が貫かれていることもまた、陰鬱になりかねないこの作品が、不思議と温かみのある良心の作品になっていることに一役買っているといえよう。

 台詞芝居が多い本作において、愚直なまでの名台詞には事欠かないのだが、井川遥演じる手島映子が最後に発する言葉が象徴的で印象に残った。
 それは誰も自分を必要としていないという恐れから自殺に走った彼女が立ち直り、彼女自身が誰かを見守っている一人だと気づいた言葉。
 人は人との関わり合いの中で、時に自殺に追い込まれるが、人との関わりこそがそこから救いもする。闇に閉ざされたような“樹の海”にも、確かな生命力は息づいている。

 エンターテイメント志向の娯楽作品というわけでもないし、一人芝居や会話劇など舞台演劇のような演出に抵抗を感じる向きもあるでしょう。そういう意味で万人受けする映画ではない気はしますが、地に足の着いた確かな語り口で訴えかけるこの力作は、多くの人に観ていただきたい、胸に熱いものがこみ上げてくる良作

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】萩原聖人/井川遥/池内博之/津田寛治/塩見三省/小嶺麗奈/小山田サユリ/中村麻美/宮本大誠/蟹江一平/北村栄基/鈴木淳評/古川貴稔/冷泉公裕/でんでん/田村泰二郎/田中要次/余貴美子/大杉漣
  • 【監督】瀧本智行
  • 【製作】高橋紀成/川島晴男/川崎代治
  • 【製作統括】安達武生/鈴木径男
  • 【プロデューサー】青島武/永田芳弘
  • 【協力プロデューサー】森重晃
  • 【脚本】青島武/瀧本智行
  • 【音楽】吉川忠英
  • 【音楽プロデューサー】石田光
  • 【主題歌】「遠い世界に」 [唄]AMADORI
  • 【撮影】柴主高秀
  • 【照明】渡部嘉
  • 【録音】吉田憲義
  • 【美術】金勝浩一
  • 【編集】高橋信之
  • 【スクリプター】山下千鶴
  • 【VFX&特殊メイク】岡野正広
  • 【製作】『樹の海』製作委員会(シー・アイ・エー/ハピネット・ピクチャーズ/メモリーテック)
  • 【配給】ビターズ・エンド
  • 【日本公開】2005年
  • 【製作年】2004年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】119分

他のブログの批評・感想・レビュー - Reactions

コメント (5)

TBありがとうございました。
私はこの映画が「自殺はいけない」というメッセージであることは分かりましたが、説得力に欠けるように思えました。もうひとつ踏み込んで展開してほしかったです。
仮に自殺願望者がこの映画を観て自殺を思いとどまるかと考えたとき、それは微妙に思えます。

初めまして、トラックバック有り難うございましたm(__)m
この、映画制作に携わっている方だとは、恐縮いたしました。
最後は、ホントにジーンときてしまい涙がでてきました。良い映画でした!!
もっと、上映する映画館を増やして戴けたらと、思います。

はじめまして。
TBいたします。
昨日観て来ました。
比較的淡々と進む感じでしたが、
じわじわと入り込んでいき、、
井川遥さんのお話で静かに感動をしました。

コメントありがとうございます。
お返事遅くてすみません。

>cultyさん
ナイーブな問題だけに自殺を真剣に描こうとすればするほど、一筋縄でいかなくなりますよね。
cultyさんの考える“説得力”が描けたとしても、必ずほかの人にも通用するかという気もします。
すべての自殺願望者に当てはまる決定的な言葉など存在し得ないのが現実ではないでしょうか。
そんな中で、この作品は、瀧本監督がかけることのできる、一つの“言葉”だとは思います。

>いのちゃんさん
僕は恐縮されるような人間ではありませんよ(笑)
たまたま現場に居合わせた一労働者に過ぎません。
そして、できあがった作品を観て、素直に感動できた観客のひとりです。
一関係者、一観客として、いのちゃんさんと同様に、できるだけ多くの人に観てほしいとは願っています。

>ふるふるさん
TBコメントありがとうございます。
手前味噌な感じになってしまいますが、心に染み入る映画でしたよね。
ここだけの話(笑)、監督たちもここを読むと思うんで、こういう観客からの声は喜ばれるんじゃなかろうかと思います。

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック (8)

この記事のトラックバックURL: ※承認制
http://www.typepad.com/services/trackback/6a0128762d7a9d970c0128762d880b970c

この記事へのトラックバック一覧: 【映画評】樹の海 Jyukai:

» NO.131「樹の海」(日本/瀧本智行監督) (サーカスな日々)
樹海に眠る想いから、 新人監督も僕たちも自由ではない。 富士山北西麓。「青木ヶ原樹海」とよばれる暗鬱とした溶岩流と原生林におおわれた一帯が、この映画の主人公のようなものだ。年間自殺者3万数千人に達する日本において、「自殺」の名所として、一番にあげられるのが、この地だ。 若手の瀧本監督は、4つの「死」をめぐる群像劇として、この映画を成立させた。映画は独立したオムニバスのようでありながら、連関するシ... [続きを読む]

» 樹の海(じゅかい) (チラシコレクション1 (あ〜そ))
表「この森で生命(いのち)に出会う。」 裏「生命が青々と生い茂る富士山麓・アオキヶ原樹海。 自殺の名所と名高いその場所で織り成される「生きる」ための物語。」 監督 瀧本智行  (2004年 日本) {/hiyo_face/} 出演 萩原聖人 、井川遥 、池内博之 、津田寛治 、塩見三省 ★富士山麓に広がる青木が原樹海を舞台に4つのエピソードが繰り広げられる群像劇。 富士山麓に広がる青木ケ原樹海。夜逃... [続きを読む]

» 樹の海 (泥海ニ爆ゼル)
やっと「スターウォーズ エピソード3」を観てきました。けど「NANA」と合わせで観てきたのがあるのでそっちから。 「樹の海」 2004年に東京国際映画祭の日本映画・ある視点部門で作品賞・特別賞を受賞という鳴り物付きで現れたこの作品では、富士の樹海を舞台に「死」に向かい合う人々の話が4編綴られる。富士の樹海が自殺の名所だというのはあまりに有名。キャストに井川遥、萩原聖人、津田寛治、大杉漣、塩見三省などを迎える。 死が物語の中で織り込まれる作品は数限りなくありますが、これは死を主題にし... [続きを読む]

» 樹の海(きのうみ) JYUKAI (ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!)
生きていればいつか必ず いいことがあるはず。 もう一度あなたの 大切な人の顔を 思い出してみましょう。 青木ヶ原樹海を舞台に4つのエピソードからなりストーリーが交差する。PG-12指定映画。 生と死をテーマにした、なんか不思議な感じのする映画でした。 青木... [続きを読む]

» 樹海 (*orange.kee*)
「樹の海」を見てきました。 富士の樹海は行った事無いんですけどね・・・単純に怖いなぁと思った 死について考えさせられる映画でした。 自殺について考える人にはぜひ見て欲しい映画やなぁ。 年間何人もの人が樹海で自殺してるらしいけど・・・本当に死にたくなく...... [続きを読む]

» 樹の海 (spoon::blog)
暴力団組織にそそのかされて5億円もの公金を横領、その後口封じのために殺され、樹海... [続きを読む]

» 「樹の海」を観ました。 (ふるふる好楽)
サリュのインストアの後、 ご飯を食べながら、1人だったら 映画に行く気だったと言ったところ、 付き合ってくれるという。 ありがたや。 結構重いテーマの映画ですが。 [続きを読む]

» 樹の海/JYUKAI (単館ロードーショーを追え!)
"樹の海/JYUKAI" こう暑い日々が続くと清涼感がありそうな映画を観てみたくなる。そこでこの樹の海。「樹海」ということばの響きは実に涼しげだ。 しかしこの映画は、青木ヶ原樹海を舞台にした自殺に関する4つのエピソードものだった。特に強烈なメッセージが用意されてい... [続きを読む]

このページについて - About This Page

  •  『未完の映画評』は、映像業界で働く現役現場製作スタッフかみぃによる個人的な映画サイトです。
     “自戒としての映画批評”と銘打ち、映画館まで足を運んで観た劇場公開最新作の批評・感想・レビューをメインに、リアルタイムに進行する製作日誌、映画にとどまらない業界全般にまつわる雑談・裏話なども掲載しています。
     詳しくはこのサイトについてをご覧ください。

最近のコメント - Comments

2012年度 満足度評価 - Rating 2012

  • 2011年12月11日(日)~ 公開作品
  • ★★★★★ ≒ 溺愛
  • ★★★★☆ ≒ 秀逸
    | 最強のふたり | おおかみこどもの雨と雪 | アーティスト |
  • ★★★★ ≒ 満悦
    | 崖っぷちの男 | 捜査官X |
  • ★★★☆ ≒ 良好
    | 映画 ひみつのアッコちゃん | HOME 愛しの座敷わらし | バトルシップ | ドラゴン・タトゥーの女 |
  • ★★★ ≒ なかなか
    | トータル・リコール | 幸せへのキセキ | テルマエ・ロマエ | ももへの手紙 |
  • ★★☆ ≒ まあまあ
    | アベンジャーズ | ダークナイト ライジング | BRAVE HEARTS 海猿 | 臨場 劇場版 | 外事警察~その男に騙されるな | ブライズメイズ~史上最悪のウェディングプラン | ライアーゲーム-再生- | はやぶさ 遙かなる帰還 |
  • ★★ ≒ いまいち
    | エイトレンジャー | Another アナザー | ヘルタースケルター | ダーク・シャドウ |
  • ★☆ ≒ つまらん
    | Black&White/ブラック&ホワイト |
  • ★ ≒ ダメダメ
    | プロメテウス | 幸せの教室 |
  • ☆ ≒ ふざけんな
    |

最近のつぶやき - Twitter