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2005年11 月27日 (日曜日)

【映画評】大停電の夜に (2005)

クリスマス・イヴの夜、大停電に見舞われた東京の片隅で繰り広げられる群像劇。

【満足度:★★★】 (鑑賞日:2005/11/24)

 クリスマス・イヴの夜更け、東京の片隅のとある裏路地。今夜限りで店を畳む木戸晋一(豊川悦司)のジャズ・バーで、ビル・エヴァンスの名盤『ワルツ・フォー・デビー/Waltz For Debby』が流れ始める。
 華やかなイルミネーションで彩られたこの大都会は、空から降ってきた“それ”により、関東全域を巻き込む大停電に。
 神から与えられたとても素敵な一夜が今始まる…。

 『東京タワー』が記憶に新しい源孝志監督の贈る、美しい映像と心温まるエピソードで彩られたちょっと小粋な群像ストーリー。

 結論から言えば、ハッタリの効いた壮大な設定は実に映画的で好きなのだが、個々のエピソードが小粒過ぎて物足りない。多過ぎる登場人物とエピソードをもう少し整理すべきではなかったのか。
 それぞれのエピソードは微妙に絡み合って、どこかを切ればどこかが成立せずという、その点だけ見ればよく練られた脚本なのだが、その実、蛇足が蛇足を呼んで収拾がつかなくなってしまったのじゃなかろうかという気もしてしまうのだ。

 主要登場人物だけでも、ジャズ・バーの店主・豊川悦司。その向かいでキャンドル・ショップを営む田畑智子。妻・原田知世との関係がギクシャクしているサラリーマン・田口トモロヲ。田口の不倫相手のOL・井川遥と共にエレベーターに閉じ込められる中国人ホテルマン・阿部力。仕事の定年を迎えた宇津井健とその伴侶・淡島千影。刑務所から出所したばかりのチンピラ・吉川晃司と、その元恋人で人妻・寺島しのぶ。“それ”が空から落ちてくるのを目撃する天体マニアの中学生・本郷奏多とワケありげな入院患者・香椎由宇
 とまあ、これだけのそうそうたる面々が様々な逸話を紡いでいく。もうこれを2時間強の上映時間の中に押し込むこと自体が相当な苦労というか、暴挙に近い試みだと思う。
 そしてその試みはまあまあ成功しており、確かにどのエピソードもそれなりにいい話なので、観賞後の心象も悪くない。
 ただ一方で、ちょっといい話を詰め込んだだけの、数で勝負の薄っぺらい印象もあって、その点がこの映画に満足するかどうかの境目だろう。筆者としては残念ながら食い足りなさの方が勝った。

 まず全体の展開の軸といえる豊川悦司の過去にまつわるエピソードに、あまり現実味、親近感を感じられなかったのが残念。対する田畑智子が“普通の女の子”を魅力たっぷりに演じて、非常に親近感が湧くだけに余計に際立ってしまった。二人の掛け合いは、他のワケありの重いエピソードと違って楽しく、作品の潤滑油になっていて必要だと思うが、豊川の役も田畑と同様の進行役に徹して、“そんな過去のあるマスター”で充分。彼自身のクライマックスを無くせば、もっと映画全体を整理できたはずだ。
 映画の中で大停電そのものに一番近い位置に感じられる天体マニアの本郷奏多君が、映画の中で一番孤立したエピソードの香椎由宇としか絡まないのも整理不足といえる。本郷君の解説(?)はあった方がいいのはわかるが、香椎のエピソードは蛇足に思えるがゆえに無駄に長い。
 宇津井健が家を飛び出すのも、結局は淡島千影に次の展開を与えるための御都合主義かよと思ってしまった。宇津井が留守中の淡島のエピソードもいいにはいいが、こんな違和感を残すぐらいなら思い切って切るべき。宇津井の心境の変化だけでこの夫婦のエピソードは成立させられる。

 全体像が見えている観客にしてみれば、田口トモロヲと豊川悦司や宇津井健との関係性が無視されている点などにも違和感を感じるだろう。
 ただ、そもそもの発想自体が、本来個々のエピソード内で完結している逸話を無理繰りに関連付けて、その偶然性を「こんな夜だから」で片付けてしまおうという御都合主義が大前提の映画なので、こんなツッコミどころが満載なのはしかたないのかもしれない。それは手法として認めるにしても、ちょっと詰めが甘い。

 またトータルで考えて、この映画が導入部で広げた大風呂敷は実に映画的だと言えるのに、終わってみると小粒な印象しか残らない。これはそのオープニングにふさわしい映画的な大団円を伴っていないからだ。なんだか最後にまとまりそうで、でも結局まとまらないまま解散してしまったという印象。
 本来そういったところにこそ映画人としての職人芸が必要なはずなのに、本作はそこを「こんな映画だから」で放棄してしまったかのようだ。それなら一話完結にしてNHKの銀河テレビ小説にでもしたほうが企画として見合っていると思うが、いかがだろう。

 総じて何か素敵なことが起こっても不思議でないと思える作品の持つ世界観や空気感は素晴らしいのに、まとまりの悪さが非常に惜しまれる今一歩な佳作。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】豊川悦司/田口トモロヲ/原田知世/吉川晃司/寺島しのぶ/井川遥/阿部力/本郷奏多/香椎由宇/田畑智子/淡島千影/宇津井健
  • 【監督】源孝志
  • 【脚本】カリュアード(源孝志/相沢友子)
  • 【音楽】菊地成孔
  • 【撮影監督】永田鉄男
  • 【プロデューサー】荒木美也子
  • 【美術監督】都築雄二
  • 【照明】和田雄二
  • 【録音】深田晃
  • 【VFXスーパーバイザー】石井教雄
  • 【音楽プロデューサー】安井輝
  • 【ライン・プロデューサー】鈴木嘉弘
  • 【アシスタント・プロデューサー】今村景子
  • 【アソシエート&宣伝・プロデューサー】谷島正之
  • 【エグゼクティブ・プロデューサー】椎名保
  • 【製作】『大停電の夜に』フィルム パートナーズ(アスミック・エース エンタテイメント/ホリプロ/IMAGICA/住友商事/WOWOW)
  • 【プロダクション】アスミック・エース エンタテイメント
  • 【配給】アスミック・エース
  • 【特別協賛】AGF Blendy
  • 【支援】文化庁
  • 【協力】NORAD(北米航空宇宙防衛司令部)
  • 【協賛】ANA
  • 【日本公開】2005年
  • 【製作年】2005年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】132分

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コメント

シキシマ博士

はじめまして。
そしてTBありがとうございます。

確かに、個々のエピソードが小粒過ぎて物足りないという感は否めないですね。
幾つかは共感できるエピソードもあるのですが、それもこちら側に似たような事情があって、イメージを膨らませられたから。
そうでないエピソードには退屈なものもありました。
田畑智子さんの親しみやすさが、この映画を救っていますね。

kano

はじめして。
かなりつっこみどころ満載の映画でしたが、
観終えたあとあったかくさせられるのは
やはりクリスマスイブの「こんな夜」だからなんですかね(笑)でもいい作品だったなぁ~と♪
自分も田畑智子さんが一番好きなキャラだったなぁ~と‥

かみぃ@管理人

> シキシマ博士さん
この作品みたいに全世代向けオムニバス風だと、どこかには共感し易い反面、ハズレのエピソードも結構あったりするんですよね。
どうもそんな“数打ちゃ当たる”的軽薄さを感じてしまったんです。
世間の評判は悪くないようで、僕みたいな意見は少数派みたいですけど。

> kanoさん
コメントありがとうございます。
クリスマスらしい、後味のいい作品でしたよね。
登場人物の多くが切実な問題を抱えているのに作品の雰囲気は暖かで良かったです。
中でも田畑智子さんは終始楽しませてくれましたね。
クリスマス本番が近づいてくると、さらに盛り上がってくるんでしょう。

any

かみぃさん、こんばんは。
突っ込みだせばキリがないような作品ではありましたが、クリスマスのおとぎ話として、すごく楽しめました。
僕はすごく好きな作品になったものの、観終わった後は、もっと好き嫌いのある作品かなぁと思っていたんですが、どちらかという好評な意見が多くて、逆にビックリしております。

かみぃ@管理人

> anyさん
こんばんは。
そう、おとぎ話なんですよね。
だから多少のツッコミどころは大目に見るんですけど、それにしては吹っ切れていないかなぁって印象なんですよね、僕は。
最後にもう一つ、おっきな大ホラを吹いて欲しかったかな。
口あたりのいい映画なんで、そんなに「大っ嫌い」っていう人は少ないと思ってましたけど、思いのほか世間の評判はいいようで。みんな、夢見たい季節なんですね(^^)

chishi

お伽話として許せるかどうかが
この作品の評価の分かれ目みたいですね(笑)
私は楽しめたんですけど、
でも最後の雄叫びと音楽がイマイチだったなぁと思いますです…(汗)

かみぃ@管理人

> chishiさん
いつもコメントありがとう。
なんか、世間の評判はそんなに悪くないようなんですけど、個人的にはどうも御都合主義が御都合主義にしか見えなくて、おとぎ話に成りそこねた印象でした。
そんな中で、おとぎ話だなぁと思えたのは田畑智子ちゃんでした。
“普通の女の子”を演じているんだけど、よくよく考えたら、こんな子、そこら辺にいやしない(笑)これぞ、男にとってのファンタジーですよ(爆)

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