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2005年11 月14日 (月曜日)

【映画評】カーテンコール (2004)

昭和の映画黄金期に客席を沸かせた幕間(まくあい)芸人の半生を追う旅を通して描かれる家族の絆。

【満足度:★★★★★】 (鑑賞日:2005/11/12)

 東京の出版社の契約記者・橋本香織(伊藤歩)は、やっとつかんだスクープがあだとなり、実家のある下関に近い福岡のタウン誌に異動させられてしまう。
 ある日、その編集部に一通の葉書が届く。それは昭和30年代の映画の黄金期から40年代中ごろにかけて、下関のある映画館で映画と映画の合間に素朴な芸で客席を喜ばせていた幕間芸人を探してほしいというもの。これに興味を持った香織はさっそく下関に赴き、その映画館「みなと劇場」で取材を始めるのだが…。

 『チルソクの夏』、『半落ち』の佐々部清監督が生まれ故郷・下関を舞台に日本版『ニュー・シネマ・パラダイス』を目指して思い入れたっぷりに挑んだ人間ドラマ。
 一本筋の通った物語に添えられたさりげないエピソードに幾度も涙を誘われ、何の飾りっ気もないストレートなラストには感動で涙が止まらない、そんな良心に満ちた秀作だ。

 「お父さん、あなたの昭和は幸せでしたか?」とのキャッチ・コピーが入った劇場ポスターの印象から、先ごろ公開されてヒット中の『ALWAYS 三丁目の夕日』と同じ路線の映画かと思って観始めたら、かなり趣きが違っていて驚いた。しかし、結果的にいい意味で予想を裏切られ、ある種の緊張感を持って観ることができた。

 簡単に比較しておくと、『ALWAYS 三丁目の夕日』がちょっと昔を舞台としたプチ時代劇なのに対し、この『カーテンコール』は回想シーンで昭和時代のエピソードもふんだんに登場するが、あくまで現在を軸に話が進む現代劇。
 しかしそれ以上に違う印象を受けさせるのは、両作品が近い年代を扱いながらも、『ALWAYS 三丁目の夕日』の山崎貴監督が未来への希望に満ちた陽の時代として当時を描いているのに対し、佐々部監督は映画産業の衰退に象徴されるような陰の昭和史から目を背けていない点だ。
 また見方を変えると、昭和39年生まれの山崎監督が自身の知らない時代の物語を一種のおとぎ話として昇華させたのに対し、昭和33年生まれの佐々部監督は見てきた時代の一端に思いをはせ、地に足の着いた作品に仕上げたといえる。

 話を一本の映画としての『カーテンコール』に戻そう。

 幕間芸人の安川修平(藤井隆、井上堯之)の半生を通して語られる映画黄金期の末路、貧困や差別、そしてかけがえのない親子の絆。
 筆者自身、意外性を感じながら観れたのであまり具体的なストーリー展開は明かさずにおくが、様々な要素を内包しながら描かれる人情話。『カーテンコール』とはそんな人間ドラマだ。
 現代と過去を盛んに行き交う複雑な構成ながらも、揺らぐことのない家族の絆というテーマ。予想外の展開に翻弄されたが、振り返ってみればものすごく単純な話とその結末。ほつれた記憶の糸がほどけたような思いがした。

 役者も皆いい。
 若いころの修平を演じた藤井隆はさすが吉本芸人だけあって、舞台上で活き活きとしているのが伝わってくる。しかしそれにとどまらず、舞台の外側での芝居も堂に入っており、観ていて不安を感じさせない。
 一方、老後の修平を演じた元ザ・スパイダースの井上堯之。筆者はさすがにザ・スパイダース全盛期は知らないのだが、この人はものすごく表情がいい。この味はそうそう出せるもんじゃないだろう。そして彼もまた、舞台に立つと貫禄がにじみ出て、昔を知らない筆者でも単なる素人俳優とは違うオーラを感じずにはいられない。

 そして忘れられないのが、修平の娘・美里を演じた鶴田真由。
 筆者はこれまでの作品での彼女の芝居は、台詞回しにどこかぶっきらぼうな印象があってあまり好きではなかったのだが、ここではそれが美里の頑なさにうまくはまっていて予想外によかった。
 しかしひときわ強烈だったのは、ラストに見せる感極まった表情!
 もう、たまらんです。一撃でノックアウト、一本取られた、試合終了って感じ。
 生意気なこと言っててすみませんでした。貴女はすばらしい女優さんです、はい。
 うーん、思い出すだけでも泣けてくる。

 ここまで『カーテンコール』についてうだうだと書いてきたけれど、この映画の評価を決定付けたのは、もうこの美里=鶴田真由の最後の表情に尽きる。まさに大団円。
 もうちょっと頑張って書きますと、いい映画ってのは、必ず落としどころってのがあって、すべての展開、伏線はそこを目指して組み立てられてるわけですよ。それがうまくいくと深い深いツボに突き刺さって感動を沸き起こすわけ。
 この『カーテンコール』においても、冒頭からなんか予想と違うなって始まり方をして、いろいろ紆余曲折を経てですね、なんだか遠回りをしたようだけれども、けど気がつけばこの多くを語らずとも表情だけで納得してしまうラストへ向かってまっすぐと伸びた道だったわけですよ。
 映画の中で、伊藤歩扮する香織が「遠かったぁ」と言って微笑むシーンがあるんですが、まさにそんな気持ち。

 もうひとつだけ書き加えておきたいのは、この最後の名シーンは、この映画を観た、あるいはこれから観る、多くの人は、多分唐突に感じると思う。筆者自身、このシーンが始まったときは、「あれ?なんで?」って思った。
 けどね、この名演技を見せ付けられたらすべてが吹っ飛び、「美里のこの表情を見れば、もう納得でしょ。省略した展開については、御自由に解釈してください」との佐々部監督の誇らしげな声が聞こえるような気がしたんですよね。
 ってこてで、筆者は納得の大満足。

 はい、拍手喝采のカーテンコール。愛する映画がまた一本増えました。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】伊藤歩/藤井隆/鶴田真由/奥貫薫/津田寛治/橋龍吾/田山涼成/井上堯之/藤村志保/夏八木勲
  • 【監督/脚本】佐々部清
  • 【プロデューサー】臼井正明
  • 【原案】秋田光彦
  • 【音楽】藤原いくろう
  • 【撮影】坂江正明
  • 【美術】若松孝市
  • 【照明】守利賢一
  • 【録音】瀬川徹夫
  • 【編集】青山昌文
  • 【スクリプター】山下千鶴
  • 【助監督】山本亮
  • 【キャスティングプロデューサー】空閑由美子
  • 【製作担当】吉崎秀一
  • 【製作】「カーテンコール」製作委員会(シネムーブ/コムストック/日本テレビ/衛星劇場/ジャパンホームビデオ/マックス・エー/バップ/カルチュア・パブリッシャーズ/山口放送/コード/東京都ASA連合会)
  • 【配給】コムストック
  • 【日本公開】2005年
  • 【製作年】2004年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】111分

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コメント (2)

TB&コメント有難うございます。

無事に退院されて良かったですね。
映画を見るのはやはり健康でないといけませんから、元気で映画を見ていきましょう!

僕も鶴田真由さんの演技に深く感動しました。
同じくそれまであまり役者としては意識していませんでしたが、「こんな演技できる女優なんだ」と再認識しましたね。

「チルソクの夏」の女の子もちらっと出てきましたし、監督も映画と故郷・下関を大事にしている思いが伝わってきました。

こちらこそ、宜しくお願いします。

> やまさんさん
こんにちは。コメントありがとうございます。
役者さん皆さん良かったんですけど、鶴田さんはホントによかったですね。
『チルソクの夏』もいいって噂では聞いてるんですけど、実はまだ観てないんです。ぜひ観たいです。

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