【映画評】暗いところで待ち合わせ (2006)
盲目の女性と殺人事件の容疑者との奇妙な共同生活を描いた心温まるサスペンス。
盲目の女性・ミチル(田中麗奈)は優しい父親(岸辺一徳)と親子二人暮らし。二人の住む家の窓からは小さな駅のホームが見えた。
ホームには、毎日のようにミチルの姿を見つめる青年・アキヒロ(チェン・ボーリン)の姿があった。
ある日、ミチルの父親は病気で急逝。ミチルはこの家に一人で暮らすことになる。
それからまたある日、アキヒロが彼女に気づかれないように、この家に忍び込む。彼は目の前の駅で起こった殺人事件の容疑者として追われていたのだ。
目の見えないミチルは、息を潜めるアキヒロの存在に気づかぬまま、二人の奇妙な共同生活が始まる…。
乙一のベストセラー小説を映画化した心温まるサスペンス映画。
まず設定の面白いストーリーだが、特筆すべきは田中麗奈の圧倒的な好演。一見にこやかに毎日を送りながらも、脆さを秘めた盲目のミチルを見事に演じきっている。
原作とは設定が変えてあるそうだが、チェン・ボーリンも彼女に負けていないぐらい魅力的。
この映画の魅力はこの二人の好演によって支えられていると言っても過言でない。
ストーリー的にはアキヒロが追われている殺人事件にまつわるサスペンスが後半の山場となるのだが、この作品の肝は息を潜めるアキヒロと、最初彼の存在に気づかぬミチルとの間で交わされる心の交流。
生活音がこれほどにまで魅力的に描かれた映画はそうそうない。当初セリフのほとんど無い二人の共同生活は、かすかな物音でサスペンスとなる。
この緊張感の演出もうならせるものがあるのだが、やがて心の交流に変わっていく様が観ている自分の心まで洗われる思いがして感動的。
事件の全貌が明らかになっていく後半のサスペンスは、安っぽいミステリーのようで不満もあるのだが、筆者の場合、この演出の“踏み外した”感が、失敗というよりかえってこの作品の印象を強めた気がする。あばたもえくぼという奴だ。
最後まで二人の関係が、安易なラブストーリーに落ちなかったことも、エンディングの先にある未来を予見させて心地よい余韻を残してくれた。
後半の荒っぽい展開やその演出に未熟さを感じつつも、女優・田中麗奈のうつろな視線と最後に大切なものを見つけた微笑みが目に焼き付いて忘れられない佳作。
他のブログの批評・感想・レビュー - Reactions
- 田中麗奈主演映画「暗いところで待ち合わせ」(ポビーの日記)
- 暗いところで待ち合わせ(ふれいぐらんと おりーぶ)
- 光をなくした女、闇を抱える男。(Cup & Saucer)
コメント (0)