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2008年6 月20日 (金曜日)

【映画評】JUNO/ジュノ (2007)

妊娠しちゃった16歳少女のポップでキュートなビターテイスト青春顛末記。

【満足度:★★★★☆】 (鑑賞日:2008/06/15)

 周囲からちょっと変わり者扱いされている16歳のジュノ(エレン・ペイジ)は、男友だちのポーリー(マイケル・セラ)とのたった一度の興味本位からのセックスで妊娠してしまう。
 彼女なりに思い悩んだジュノは、それを親友のリア(オリヴィア・サルビー)に打ち明け、親に内緒で中絶することを決める。
 一応ポーリーにも妊娠を報告するジュノだったが、彼の困惑の表情を見て決意を固め、ひとり産婦人科クリニックへ向かうのだが…。

 軽妙な会話のやりとりとポップな音楽で綴れられるキュートな青春ドラマ。
 こんな素敵な映画に出会うと自分が英語ができないことにはなはだ歯がゆくなるのだが、しかし本年度米国アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞し、さらに作品・監督・主演女優賞にもノミネートされただけある本作は、活きのいい会話だけにとどまらない気の利いたハートウォーミングな青春映画として高い完成度を誇り、言葉遊びのニュアンスが多少スポイルされたところでその魅力が失われるようなことのない快作。

 とかくスラングを駆使した会話のセンスの良さが持ち上げられる本作だが、映画が始まってすぐの低予算作品なりにセンスよくまとめられたイラストタッチのタイトルバックに続き、評判通りの小気味よいセリフの応酬の合間に見せるジュノの感情を押し殺した微妙な表情に、この映画&主演女優エレン・ペイジがただものでないことを思い知らされる。

 妊娠検査薬の結果で妊娠が決定的となったジュノの、周囲には強がって見せても動揺を隠せず、まさかの自殺なんてことが頭をよぎる、が、でもそんなの一瞬で、マイペースにことを打開しようとする流れとか、彼氏に妊娠を伝えたときの、相手の困惑を瞬時に読み取って、えも言われぬ表情でその場を立ち去る潔さとか、言葉少ないシーンにいきなり魅了された。

 確かに字幕を追いながら「英語が理解できればなあ」と思う瞬間は少なくないが、限られた文字数の中でアメリカでの今どきの風俗・文化的知識の乏しい並の日本人に最大限その魅力を伝えようとする松浦美奈女史の翻訳は充分要求を満たしてくれていたと思う。

 本作の脚本を評価できるのは、正直なところその魅力の半分も理解できていないであろう会話そのものより、ほんの少しずつこちらの予想をかわす展開・構成の巧さ、優しさに満ちた青春賛歌、人生賛歌の方にある。

 妊娠の件はほどなく親たちの知るところとなるのだが、それを聞かされた父親マック(J.K.シモンズ)の反応とか、義理の母親ブレン(アリソン・ジャネイ)との関係性とか、ジュノの学校での振る舞いとか、決して奇をてらった展開をするわけでもないのに、普通考えるであろう「ありがちな10代の妊娠ドラマ」として予想される展開はことごとく裏切られ、観客はいい意味で緊張感を保ちながらジュノ、そして周囲を取り巻く人々のゆく末を見守ることとなる。

 また、直接的な言葉は少ないが登場人物皆から優しさがにじみ出ており、これも観ていて嬉しくなる。
 父親は言うに及ばずだが、義理の母ブレンの立ち位置がほんとに巧い。
 ジュノからは名前で呼ばれるブレンだが、彼女が最後にある人物に言葉を交わすシーンが印象的だ。その言葉には継母である彼女だからこその感慨に満ちていて、この映画の、狭義の青春映画にとどまらない家族の物語としての懐の深さを見せつける。

 先に述べたようにウィットに富んだセリフの応酬と感情のにじみ出た言葉少ないシーンとの緩急の効いた演出もことさら素晴らしい。

 全編を通してジュノは冗舌で、マイペースを性分とする小生意気な大人びた少女だが、彼女が、妊娠という一大事、“自分の大人度では解決できない事態”を経験することによって真の大人に成長していく大団円は、文字通り言葉だけでは表現できない幸福感に溢れていて、爽やかな感動で結ばれる。

 その都度、観客を心地よく裏切ってくれる本作だが、一番意外なのはその結末ではなかろうか。
 予想に反しての、まるで劇的でない落としどころ。
 でもそんな結末だからこそ、人生の苦味、それを乗り越えた先の日常にかけがえのない幸福が浮かび上がる、映画として素晴らしい終幕と感じたが、いかがだろう。

 あ、あと、もうひとりの当事者である“彼氏”ポーリー、彼のその、とてもお年頃の女の子が憧れる青年に見えない冴えないたたずまいがまた、人生のミラクルを物語っていて、冴えないおじさんとしては嬉しいぞ。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】エレン・ペイジ/マイケル・セラ/ジェニファー・ガーナー/ジェイソン・ベイトマン/アリソン・ジャネイ/J.K.シモンズ/オリヴィア・サルビー
  • 【監督】ジェイソン・ライトマン
  • 【脚本】ディアブロ・コディ
  • 【製作】リアンヌ・ハルフォン/ジョン・マルコヴィッチ/メイソン・ノヴィック/ラッセル・スミス
  • 【製作総指揮】ジョー・ドレイク/ネイサン・カヘイン/ダニエル・ダビッキ
  • 【撮影監督】エリック・スティールバーグ
  • 【プロダクション・デザイナー】スティーヴ・サクラッド
  • 【編集】デーナ・E.グローバーマン
  • 【共同プロデューサー】ジム・ミラー/ケリー・コノップ/ブラッド・ヴァン・アラゴン
  • 【録音スーパーバイザー】ピーター・アフターマン/マーガレット・イェン
  • 【音楽】マテオ・メシナ
  • 【歌】キミヤ・ドーソン
  • 【衣裳デザイナー】モニク・プリュドム
  • 【配給】20世紀フォックス映画
  • 【原題】JUNO
  • 【字幕翻訳】松浦美奈
  • 【日本公開】2008年
  • 【製作年】2007年
  • 【製作国】アメリカ
  • 【上映時間】96分

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