« 【映画評】渋谷区円山町 | メイン | 【映画評】20世紀少年 »

2008年8 月30日 (土曜日)

【映画評】闇の子供たち (2008)

阪本順治監督が子供たちを悲劇に陥れる闇の世界を渾身の力であぶり出す問題作。

【満足度:★★★★★】 (鑑賞日:2008/08/23)

 子供の人身売買というこの難しい題材を映画化するにあたって、いい意味で“劇映画”としての適度なエンターテイメント性を加味しつつ、それでいて過度に演出されたお涙頂戴な悲劇や安易なハッピーエンドにしなかった真摯な映画化にまず拍手を贈りたい。

 タイ在駐の日本人新聞記者・南部浩行(江口洋介)は、東京本社からの依頼で日本人の子供を助けるために近くタイで行われる臓器移植手術について調査を始める。やがて元仲介人から聞き出した情報は衝撃的な事実だった。臓器を提供するタイの子供は健康体で、生きたまま臓器をえぐり取られるというのだ。
 一方その頃、若い女性・音羽恵子(宮崎あおい)がアジアの子供たちの力になりたいと、NGO職員としてタイの社会福祉センターを訪れる。そのセンターでは、これまでは勉強に来ていたある少女が姿を見せなくなっていた…。

 『血と骨』などの著書で知られる梁石日(ヤンソギル)の原作を、代表作に『どついたるねん』『KT』『亡国のイージス』などがある阪本順治監督が渾身の力を込めて脚色・映画化した衝撃の問題作。

 大人の性の玩具とされたり、一方的な都合による臓器移植のための商品とされた子供たちの悲劇に憤りを感じずにおれないのは、前情報として作品の概要を知った時点で予想できたことだが、この映画が真に訴えようとしているのは外国で起こっている出来事に対する日本人への当事者意識の喚起であろう。まさかの衝撃のラストがそのことを如実に表している。
 この手の落としどころは、いわゆる娯楽作としてのサスペンス映画ならさして驚くようなオチとは思わないのだが、こんなガチガチに硬派な社会派作品でこういう終わり方をするとはまったく予想していなかったがゆえにあまりに衝撃的で尾を引く。

 宮崎あおい演じる世間知らずの自分探しNGO娘と対を成すこの結末は、口先だけで当事者意識を持ったつもりでいることの浅はかさを浮き彫りにする。
 あるいは、本筋のストーリーとは直接リンクすることなく進行する、エイズに冒された少女がゴミ捨て場から脱出し、文字通り地面をはいずって自力で故郷へ戻るエピソード。そこには日本人キャストが関わらないで完結することからもまた、それらが我々日本人の知り得ない出来事として闇に葬られている現実を象徴しているようでもある。

 阪本順治監督の確かな演出とともに俳優陣の演技も申し分ない。
 子供らが臓器のために売買されている事実に憤りつつも新聞記者として冷静でいようとする江口洋介、あくまで自分の思いに実直であろうとする宮崎あおい、お調子者だが正義感も持ち合わせた妻夫木聡、我が子のためにはたとえそれが不穏なものであってもすがろうとする佐藤浩市、誰も彼もが隙のない演技を見せており、そういう意味でもスクリーンに緊張感がみなぎっている。

 映画一本観たところで問題が容易に解決するはずもない。しかし闇に光を当てる一歩とはなろう。
 安易な気構えで観られる映画ではないが、この紛れもない傑作を一度でいいから観て、そして考えて欲しい。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】江口洋介/宮崎あおい/妻夫木聡/プラパドン・スワンバン/プライマー・ラッチャタ/豊原功補/鈴木砂羽/塩見三省/佐藤浩市
  • 【監督/脚本】阪本順治
  • 【製作】気賀純夫/大里洋吉
  • 【企画】中沢敏明
  • 【エグゼクティブプロデューサー】遠谷信幸
  • 【プロデューサー】椎井友紀子
  • 【アソシエイトプロデューサー】山口敏功/梅村安/相原裕美
  • 【キャスティングプロデューサー】富田敏家
  • 【原作】梁石日
  • 【音楽】岩代太郎
  • 【タイ撮影プロデューサー】唐崎正臣/Surin Cha-Umphanit
  • 【撮影】笠松則通(JSC)
  • 【照明】杉本崇
  • 【録音】志満順一
  • 【美術】原田満生
  • 【編集】蛭田智子
  • 【スクリプター】今村治子
  • 【助監督】小野寺昭洋
  • 【製作補】井川浩哉
  • 【製作主任】小泉朋
  • 【主題歌】桑田佳祐「現代東京奇譚」
  • 【製作】セディックインターナショナル/ジェネオン エンタテインメント/アミューズ
  • 【制作プロダクション】セディックインターナショナル
  • 【配給】ゴー・シネマ
  • 【日本公開】2008年
  • 【製作年】2008年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】138分

コメント (2)

未完の映画評様
「闇の子供たち」評を読みました。核心をついた文章で、読み応えのあるものでした。最近このような現実に対して肉迫するような作品が少ないだけに、阪本順治の志はすごいと感服した作品でした。ラストの描写もその省略の巧さで見せたように思います。ありがとうございました。

>編集部Tさま
コメントありがとうございます。
賛否両論あるラストですが、僕は否定的意見が出るであろうことを承知の上でこの“オチ”を選んだ阪本監督の決断を評価したいです。“目を向けさせる”ために劇映画ができること、その答えのひとつがこの物議を醸すラストだったと思うのです。

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック (8)

この記事のトラックバックURL: ※承認制
http://www.typepad.com/services/trackback/6a0128762d7a9d970c0128762d8966970c

この記事へのトラックバック一覧: 【映画評】闇の子供たち:

» 闇の子供たち (★YUKAの気ままな有閑日記★)
WOWOWで鑑賞―【story】日本新聞社のバンコク支局駐在の南部(江口洋介)は、東京本社からタイの臓器密売の調査を依頼される。同じ頃、恵子(宮崎あおい)はボランティアとしてバンコクの社会福祉センターに到着する。彼女は所長から、最近顔を見せなくなったスラム街出身の少女の話を聞くが、実は彼女は父親に児童性愛者相手の売春宿に売り飛ばされており―     監督 : 阪本順治 『亡国のイージス』     原作 : 梁石日【comment】ずっしりと重い映画で、最後まで目が離せなかった。評判には聞いていたが、... [続きを読む]

» 闇の子供たち (映画、言いたい放題!)
梁石日原作の小説を「亡国のイージス」などの阪本順治監督が映画化。 阪本順治監督の「顔 」という作品が大好きです。(^^) でもこの監督、作品の色のギャップが激しいのです。 この作品は「顔 」とはうって変わってテーマが重い作品です。 日本新聞社バンコク支局で... [続きを読む]

» 「闇の子供たち」ムゴすぎる現実…。 (シネマ親父の“日々是妄言”)
 映画を観終わって、こんなに重い気分になったのは久々ではないでしょうか?「闇の子供たち」(ゴー・シネマ)。『悲しい』とか、『泣ける』とか言う類の言葉では括れない。トンでもない“問題作”です。  日本新聞社バンコク支局の記者・南部(江口洋介)は、東京の本社から『近々日本人の子供が、タイの闇ルートを使って、心臓移植手術を受ける』という情報を入手し、そのネタの調査を依頼される。知人に金を握らせ、臓器密売の元仲介者に接触した南部は、提供者の幼児は、生きたまま臓器をえぐり取られるという衝撃の事実を... [続きを読む]

» 闇の子供たち(2008) (☆☆とりあえずの映画鑑賞メモ☆☆)
“値札のついた命…これは《闇》に隠された真実の物語…「亡国のイージス」の阪本順治監督が、梁石日の同名小説を映画化した衝撃の問題作” というわけで、本日2本目のこの作品ですが、こちらの方は題材的にかなりの覚悟が要るというか、安易な気持ちでは決して観られないと思いました、ずっしり重いです、感想書き溜めているうちに観てからだいぶ時間が経ってしまいましたが、まだまだ、深く澱んだ“おり”のようなものが取れません。 内容は…“タイで横行している幼児売春や臓器密売を巡る闇の実態と、そうした現実にそれぞれの形で... [続きを読む]

» 闇の子供たち◆タブーに切り込む勇気ある一作 (好きな映画だけ見ていたい)
     「闇の子供たち」 (2008年・日本) たしかに重い映画だった。私たちが日ごろ視野の隅に追いやって、無意識のうちに見ることを拒み続けている「あるもの」を、この映画は正面から突き付けてくる。その居心地の悪さは、たとえば日々食卓に上る肉料理の食材たちの、悲しくも惨たらしい運命を見えないことにして生きている罪悪感に少しだけ似ている。私たちが意識にフィルターをかけ、見ることをあえて拒んでいるのは、知恵なき無辜(むこ)の生きものの犠牲の上に、力あるものの生と享楽がおぞましくも成り立っているこの世... [続きを読む]

» 『闇の子供たち』 (いつもこころに)
嵐の夜に書きたい話ではないのですが・・・かといって、晴れてる日でも辛さは変わらないのかな。 誰もがこの感想を筆舌に尽くしがたいことでしょう。 『闇の子供たち 』 観た人にしかわからない。 観た人同士でも感想は様々でしょう。 涙を流... [続きを読む]

» 闇の子供たち  衝撃的映像の連続も、すべってる感あり <ネタバレあり> (もっきぃの映画館でみよう(もっきぃの映画館で見よう))
タイトル:闇の子供たち 製作:日本 ジャンル:アニメ/2008年/101分 映画館:テアトル梅田(90席)19:35〜、満員立ち見あり 鑑賞日時:2008年8月14日(木) 私の満足度:65%(この話題で、豪華キャストで映画化したことで+10%)  オススメ度:50% 梁石日(ヤン・ソギル)原作の「闇の子供たち」。 貧困に喘ぐタイの山岳地帯で育ったセンラーは、生ける屍と化していた。 実父に八歳で売春宿へ売り渡され、世界の富裕層の性的玩具となり、 涙すら涸れていた…。アジアの最底辺で今、何が起... [続きを読む]

» 『闇の子供たち』 (かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY )
児童じゃなくて、幼児なんだ・・・。 バンコク駐在新聞記者の南部は、幼児人身売買の取材をする。人身売買で臓器売買、児童買春。何ともショッキングな物語。これが全くの虚構だったらいいのに・・・。だけど、残念ながら、原作はいくつもの事実をベースに描かれたものであって、私たちの生きる世界にはこんなにも惨たらしいのだということに愕然。このような痛ましいことが地球上で起こっていることを、断片的には俄かに知っていたりはするのだけど、その具体的な場面が映像で再現されるのをこの目で見るのは、やっぱりどうにもこうに... [続きを読む]

このページについて - About This Page

  •  『未完の映画評』は、映像業界で働く現役現場製作スタッフかみぃによる個人的な映画サイトです。
     “自戒としての映画批評”と銘打ち、映画館まで足を運んで観た劇場公開最新作の批評・感想・レビューをメインに、リアルタイムに進行する製作日誌、映画にとどまらない業界全般にまつわる雑談・裏話なども掲載しています。
     詳しくはこのサイトについてをご覧ください。

最近のコメント - Comments

2012年度 満足度評価 - Rating 2012

  • 2011年12月11日(日)~ 公開作品
  • ★★★★★ ≒ 溺愛
  • ★★★★☆ ≒ 秀逸
    | 最強のふたり | おおかみこどもの雨と雪 | アーティスト |
  • ★★★★ ≒ 満悦
    | 崖っぷちの男 | 捜査官X |
  • ★★★☆ ≒ 良好
    | 映画 ひみつのアッコちゃん | HOME 愛しの座敷わらし | バトルシップ | ドラゴン・タトゥーの女 |
  • ★★★ ≒ なかなか
    | トータル・リコール | 幸せへのキセキ | テルマエ・ロマエ | ももへの手紙 |
  • ★★☆ ≒ まあまあ
    | アベンジャーズ | ダークナイト ライジング | BRAVE HEARTS 海猿 | 臨場 劇場版 | 外事警察~その男に騙されるな | ブライズメイズ~史上最悪のウェディングプラン | ライアーゲーム-再生- | はやぶさ 遙かなる帰還 |
  • ★★ ≒ いまいち
    | エイトレンジャー | Another アナザー | ヘルタースケルター | ダーク・シャドウ |
  • ★☆ ≒ つまらん
    | Black&White/ブラック&ホワイト |
  • ★ ≒ ダメダメ
    | プロメテウス | 幸せの教室 |
  • ☆ ≒ ふざけんな
    |

最近のつぶやき - Twitter