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2008年10 月10日 (金曜日)

【映画評】イキガミ (2008)

不条理な死を宣告された若者が残された最後の24時間にとった行動とは?

【満足度:★★★★★】 (鑑賞日:2008/10/03)

 実はこの映画、制作応援という形で一日だけお手伝いしました。品川駅前の群衆シーンです。
 そのときは原作コミックも知らなかったんだけど、その後気になって1巻だけ目を通し、これはひょっとするっと凄いことになるかもと、えらく期待していた作品。

 “国家繁栄維持法”が施行されている某国。それは、国民に死の恐怖を与え、命の価値に対する意識を高めるための法律。
 小学校入学時に児童が受ける予防接種には、1000人に1人の確率でナノ・カプセルが仕込まれている。選ばれた子供は18歳から24歳の間の決められた日時に、肺動脈内でそのナノ・カプセルが破裂、確実に死に至る。
 ナノ・カプセルが誰の体内にあり、いつ破裂するかは国家機密として厳重に管理されているが、死亡予定者には予定日時の24時間前に厚生保健省の役人によって“死亡予告証”、通称“逝紙(イキガミ)”が届けられるのだった。
 この映画は死の宣告人たるそのイキガミ配達員となった藤本賢吾(松田翔太)がイキガミを届けた三人の若者(金井勇太、佐野和真、山田孝之)の最後の24時間を追った物語。

 原作自体とても感動的で、映画化を期待するに十分な内容だったけど、期待した一番の理由は、この映画が瀧本智行監督のデビュー作『樹の海 Jyukai』(2004年)と同様、命にまつわるエピソードを綴った準オムニバス形式だったこと。
 『樹の海 Jyukai』も命のありようを描ききった素晴らしい佳作だったけど、その卓越した演出力に感動のエンターテイメント性も加味されたら凄いことになるんじゃなかろうかと。
 で、期待に胸膨らませて観た結果、期待に応えるどころか、期待を遙かに上回る見事な出来映えでした。

 世界観的には荒唐無稽なマンガそのもののSF。だけど、サイエンスチックな要素はほとんどなくて、架空の世界を舞台にした社会派映画といった趣き。

 まず特殊な世界観を丁寧に提示し、国の横暴による不条理を描いたエピソード1。
 その不条理の裏側に隠された国家の闇を垣間見せるエピソード2。
 そんな国にささやかな抵抗をみせるエピソード3。
 一貫してダークな世界を描きながらも、それぞれが感動的な逸話となっていて、最後には希望の光も感じさせる周到な運び。
 ただ、エピソードの1と3はわかりやすい感動話だが、2つめは風吹ジュン演じる女性議員の意味するところがわかりにくかったように思う。

 不安を煽るザラついた映像に、監視カメラのモノクロ映像。
 そういう裏打ちがあってこその満開の桜がまぶしい。

 淡々と繰り返されるモノレールの映像で異世界感を表現してしまう的確な演出。
 静寂の中の引きずる音、不意の事故にハッとさせられ、エンディングはやっぱりあの歌でしょうという思いに応えるように流れ始める「みちしるべ」。
 いやもう、言うこと無しですよ。
 監督として劇場公開作3作目にしてこんな傑作を世に送り出してしまうなんて、瀧本監督の今後が楽しみな一方、ハードルを上げすぎじゃないかと余計な心配までしてしまう。

 先に「最後には希望の光も感じさせる」と書いた。
 自分は笹野高史演じる課長の最後の言葉を小さな光と感じたが、観る人によっては“個人の無力”ととるかもしれない。
 国家の繁栄のために切り捨てられる個人。
 今住んでいるこの日本の行く末への漠然とした不安と重ねずにはおれない、切り捨てられる側の自分。
 個の犠牲無しに成立しない国家の繁栄は正しいと言えるのか。なんて、しょせん負け犬の遠吠えなのかもしれない。
 いや、そういう弱気こそが不安の正体で、切り捨てる側の思うつぼなのではないか。
 だからこそ、ラスト、藤本は“そこ”に視線をぶつけるのだ。その瞳に光はあると信じたい。

予告編 - Trailer

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】松田翔太/劇団ひとり/浅利陽介/鈴之助/池谷のぶえ/笹野高史/柄本明/塚本高史/金井勇太/りりィ/山崎裕太/徳井優/飯田基祐/松尾諭/ヒロシ/伊津野亮/谷川昭一朗/緒方明/北見敏之/風吹ジュン/佐野和真/永倉大輔/中沢青六/及川いぞう/塩見三省/成海璃子/井川遥/江口のりこ/角替和枝/山田明郷/でんでん/諏訪太朗/森康子/深澤嵐/山田孝之
  • 【監督】瀧本智行
  • 【製作】加藤嘉一/亀井修
  • 【エグゼクティブプロデューサー】濱名一哉
  • 【プロデューサー】佐々木章光/久保田修/黒沢淳
  • 【アソシエイトプロデューサー】大岡大介/樋口慎祐
  • 【原作】間瀬元朗『イキガミ』
  • 【脚本】八津弘幸/佐々木章光/瀧本智行
  • 【音楽】稲本響
  • 【ラインプロデューサー】原田文宏
  • 【撮影】柴主高秀(J.S.C.)
  • 【照明】渡部嘉
  • 【美術】矢内京子
  • 【録音】横野一氏工
  • 【編集】高橋信之
  • 【スクリプター】柳沼由加里
  • 【装飾】沢下和好
  • 【ヘアメイク】井川成子
  • 【衣裳】平尾俊
  • 【助監督】権野元
  • 【制作担当】若山直樹
  • 【音楽プロデューサー】石川光
  • 【主題歌】「みちしるべ」PhilHarmoUniQue [作詞/作曲]五郎川陸快 [編曲]PhilHarmoUniQue&小林武史
  • 【VFXプロデューサー】篠田学
  • 【VFXスーパーバイザー】進威志
  • 【日本公開】2008年
  • 【製作年】2008年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】133分

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コメント (2)

すいません。TBいただいていたのに気がつかなくて・・。原作を知っている映画と知らない映画では、受け取り方に大きな違いがあります。まして、その制作にかかわった方なら思い入れも一入でしょう。

私は、自分があと24時間と言われらどうするかという思いに囚われてしまいました。未だに答えは出ていませんが、そっちが気になって「繁栄維持法」にあまり興味をもてなかったんです。「フリージア」の敵討法の方が面白いかなと漠然と思ったくらいです。

いずれにしましても、不手際なことですいませんでした。今後ともよろしくお願いします。

>Chunさん
コメントありがとうございます。
お返事が遅くなってすみません。

制作に関わったといっても一日だけのお手伝いだったんで、言うほど思い入れがあるわけじゃないんですが(苦笑)
ことこの映画に関しては観る人によっていろんな受け取り方があると思います。
僕のように社会派映画的に観る者もあれば、Chunさんのように究極のシチュエーションものとして観る人もいましょう。泣ける感動映画として観る人もいるでしょうし、出演者目当てのアイドル映画として観た人もいると思います。
それぞれなりに感想があると思ってChunさんの批評もご紹介させていただいたので、意見が違うからといって気にされないでください。

これからもよろしくお願いします。

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