【映画評】MW-ムウ- (2009)
巨匠・手塚治虫が遺した禁断の問題作を映画化した、島民600人の命を奪った“MW(ムウ)”を巡る復讐劇。
手塚治虫原作の禁断の問題作を遂に実写映画化。
という触れ込みだったが、できあがったのは原作の志を骨抜きにされた“悪人ごっこ”映画だった。
16年前、島民が重なるように倒れている沖之真船島(おきのまふねじま)。さらに防護服に身を包んだ者たちが逃げまどう人々を銃殺していく中、二人の少年が見つからぬように逃げ延びる…。
そして現在。沖之真船島から奇跡的に生き延びた少年のひとり・結城美智雄(玉木宏)は殺人鬼という裏の顔を持つ銀行員となり、もうひとりの生き残り・賀来(がらい)裕太郎(山田孝之)は神に祈る神父となっていた。
タイ・バンコクの暑い日差しの中、娘を誘拐されたゼネコン役員の岡崎(中村育二)は犯人・結城の電話の指示に従い一億円の身代金を抱え街中を駆けずり回っている。
その様子を監視カメラで見守っていた東京から来た刑事・沢木(石橋凌)は、ある瞬間犯人に気付き、追跡を開始するが…。
冒頭の追跡劇からしてダラダラダラダラと続いて開始早々飽きさせてくれる。
なんの工夫も気概も感じられないこの導入部ですでにもう、この映画化の失敗は決まったようなもので、作品の方向性としてはノンストップ・アクションを目指したらしいが、監督にとってのノンストップ・アクションとはダラダラと終わらない追いかけっこなのかと言いたくなる。
そもそも「禁断の問題作」を謳うような作品で、“つかみ”を単調な追いかけっこで済まそうとする姿勢がすでに演出的に幼稚。
単純に割り切れない善とか悪とかのありようを、結城の正体を知りつつ彼を想い苦悩する賀来を通して見せなくちゃいけないだろうに、その視点は希薄で、結城はこんな恐ろしいことをやってますよってことばかりに注力しすぎ。
その結城にしても、一瞬でも悪に取り憑かれた彼に観客としてシンパシーを感じるような何かがあるなら、まだ間接的に悪なるものの負の連鎖を体験できそうなものだが、やっていることがただ運のいいだけの“殺人ごっこ”では失笑しか出ない。
実は被害者でもある結城が、悲劇のヒロインばりに「もう時間がない」と何度も言う姿にも悲壮感のかけらもなく、ただのカッコつけの殺人マニアにしか見えないのよ。
原作から表面上カットされた二人の同性愛者としての関係性は、かろうじて演技やセリフからうかがえなくもないが、演出的にそこに踏み込めていないのだから、賀来の苦悩の説得力にはなりえない。
また、もうひとりの主人公とも言うべき、諸悪の根源である“MW(ムウ)”も、本来なら、実はそれが悪の“源(みなもと)”なのではなく、人間に潜む悪意の中でこそ生まれた産物であることを明確に提示しないから、そこから生まれたさらなる悪=結城という負の連鎖が真に迫ってこない。
MWを単なる殺戮兵器という小道具としてしか扱えないなら、この原作で映画化する必要もないではないか。
脇役ながら賀来を慕う少女・美香(山下リオ)の扱いがえらく中途半端だったのも気になった。
役回りとしてはこんなもんでいいとしても、クライマックスで恐怖におののく表情ひとつでも拾ってあげれば全然印象も違っただろうに、まるで通りすがりのエキストラかのような扱いとは、かえって「なんで???」との疑問が浮かんで、不遇な扱いに同情すら感じた。
まあ、それ以前にアメリカ軍の描写があまりにお粗末なのは、結局この映画化自体が、“映画ごっこ”だったという現れか。
劇中では出世の餌に食い付くエリート銀行員やら多勢に流される報道姿勢やら隠匿体質の政治やらと、様々な悪を思わせぶりに垣間見せるが、真の悪は「禁断の問題作」をできそこないのダークヒーロー・アクション映画にしてしまった弱腰の製作姿勢にあると思うのだ。
作品データ - Film Data
- 【キャスト】玉木宏/山田孝之/石田ゆり子/石橋凌/山本裕典/山下リオ/鶴見辰吾/風間トオル/中村育二/半海一晃/品川徹/林泰文/デヴィッド・スターズィック
- 【監督】岩本仁志
- 【原作】手塚治虫
- 【脚本】大石哲也/木村春夫
- 【音楽】池頼広
- 【主題歌】flumpool「MW~Dear Mr.&Ms. ピカレスク~」(A-Sketch)
- 【製作】松嶋澄夫/宇野康秀/白井康介/阿佐美弘恭/堀越徹/李于錫/樫野孝人/松谷孝征/竹内茂樹/久松猛朗/島村達雄/菅野信三
- 【エグゼクティブプロデューサー】橋田寿宏
- 【プロデューサー】松橋真三
- 【アソシエイトエグゼクティブ】小野利恵子
- 【アソシエイトプロデューサー】湯本裕幸/小池賢太郎/筒井竜平/植野浩之
- 【撮影監督】石坂拓郎
- 【Bカメ撮影】迫信博
- 【照明】舘野秀樹
- 【美術】太田喜久男
- 【録音】原田亮太郎
- 【整音】佐藤忠治(C.A.S.)
- 【編集】朝原正志
- 【記録】湯澤ゆき
- 【装飾】竹内正典
- 【スタイリスト】村上利香
- 【ヘアメイク】細川昌子
- 【特殊メイク】飯田文江
- 【VFXスーパーバイザー】田口健太郎
- 【スタントコーディネーター】釼持誠
- 【助監督】戸崎隆司
- 【演技事務】村田淳志
- 【製作担当】本藤雅浩
- 【ラインプロデューサー】平野宏治
- 【タイユニットラインプロデューサー】山口晋
- 【製作】「MW」製作委員会(アミューズソフトエンタテインメント/ギャガ・コミュニケーションズ/小学館/D.N.ドリームパートナーズ/日本テレビ/東亜輸出公司/STUDIO SWAN(IMJ-E)/手塚プロダクション/インターチャネル/衛生劇場/白組/東急レクリエーション)
- 【制作プロダクション】STUDIO SWAN(IMJ-E)
- 【VFXプロダクション】白組
- 【企画】アミューズソフトエンタテインメント
- 【企画協力】手塚プロダクション
- 【配給】ギャガ・コミュニケーションズ
- 【日本公開】2009年
- 【製作年】2009年
- 【製作国】日本
- 【上映時間】129分
- 【公式サイト】http://mw.gyao.jp/
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はじめまして。TBありがとうございました。
禁断の問題作というわりには、終始拍子抜けしたといった内容だったように感じました。特に前半に結城美智雄の残虐な部分に時間を使いすぎて、中盤以降のサスペンス色が薄くなったのがダラダラした展開になり退屈してしまいました。
投稿情報: ワールダー | 2009年7 月 6日 (月曜日) 16:44
>ワールダーさん
こんにちは。コメントありがとう。
あえてこういう原作を映画化するなら本腰入れてやって欲しかったですね。
期待が高かった分、がっかりでした。
投稿情報: かみぃ@管理人 | 2009年7 月 8日 (水曜日) 05:46
初めまして こんにちは [ 弱腰の製作姿勢…]にウン ウンと頷きました。
この映画で賀来役の山田クンが結城との関係を匂わす演技をしてますが…全くいかされてなかった。
結城の殺人マシーンみたいな物語になってますから…
なんでこんな監督や製作スタッフの映画に山田クンが出たのか…なんか悔しい。
投稿情報: kiyo | 2009年8 月20日 (木曜日) 13:33
>kiyoさん
コメントありがとう。
山田孝之さんのファンでらっしゃるのかな?
映画の出来はできてみないとわからないとはいえ、せっかくの役者さんのやる気を削いじゃってますよねぇ。
残念です。
投稿情報: かみぃ@管理人 | 2009年8 月23日 (日曜日) 00:01