【映画評】いけちゃんとぼく (2009)
不思議な存在“いけちゃん”に見守られる少年がたくましく育っていくファンタジー成長記。
わんぱく盛りの小学生と彼を見守る不思議な存在“いけちゃん”の交流を描いた心温まるファンタジー。
『ぼくんち』などで知られる漫画家・西原理恵子による絵本をCMディレクター出身の大岡俊彦監督が実写映画化、
港町で生まれ育った小学生のヨシオ(深澤嵐)には、物心ついた頃から他の誰にも見えない心の友達“いけちゃん”(声:蒼井優)がいつもそばにいる。
ヨシオはしょっちゅう近所の悪ガキたちにいじめられていたのだが、いけちゃんは他の人には関知できないため、ヨシオを優しく諭すだけ。ヨシオにとってはそんないけちゃんが心強い存在だった。
しかし、まるで母親のようにヨシオを励ますいけちゃんには、いつかは彼に話さねばならない秘密があった…。
いけちゃんの正体は映画のクライマックスで明かされるが、実は予告編や映画の導入部でその秘密は察しがついていた。
内容を考えると監督もいけちゃんの正体をことさら厳重に隠してはいないような気もするんだけど、一応クライマックスのネタバレになるのでここでは控える。
ただ、完全に素の状態でこの映画を楽しみたいなら、以降を読むのも鑑賞後にしたほうがいい。直接的なネタバレは文字にしないけど、この映画を語る上で避けて通れない重要な要素もあるので。
まずは“いけちゃん”のとぼけた風貌と、地に足の着いたデフォルメともいうべき作風が愉しませてくれる。
現実世界に異端を放り込むタイプのファンタジー映画は、リアリティのある風景の中にこそ成り立つという原則がしっかりと守られていて、基本的には絵本を元にしたファンタジーらしく“ありえない”お話が展開する一方で、今どきの映画にしては珍しいくらいに小学生たちがちゃんと“無邪気な悪ガキ”していて、ある意味、生々しい残酷さと痛みが、大人の鑑賞に堪えうるリアリティを与えた。
関西弁を話させたいがために関西のオーディションで選んだという子どもたちが醸す、自然な雰囲気もいい。
小学生を主人公にはしているが、この映画は大人視点で観てこその味わいがあるのよ。
監督は、とぼけたいけちゃんの見た目からは想像できない、しっかりとした背景が根底にあってこその大人視点のドラマを見せたいがため、ネタバレ気味のオープニングシーンを入れたんじゃなかろうか。
今、この映画に出てくる育ち盛りの子供がいてもおかしくないくらいの親世代に希求力のある渡辺美里が主題歌を担当しているのも、この映画の狙うターゲット層を物語っていよう。
この映画をヨシオの成長記の側から観れば、いけちゃんは子供の想像力が生んだ「イマジナリー・フレンド」であり、ヨシオの成長とともに、いずれは別れの時が来るのは必然となる。
一方いけちゃんは、いずれ別れが来ることを知った上で、ヨシオが大人になっていく様子を見守っている。
このいけちゃんの姿は、子供が成長するにしたがって親から離れていく大人の寂しさや、大人が掛ける一言一言が子供に与える影響を象徴しているかのようだ。
思えばいけちゃんに限らず、この映画に出てくる大人たちは、「傷が前にあるのは勇気の印」だの、「大きい器は水を溜めるのに時間がかかる」だの、含蓄のある言葉をヨシオに与える。
そういった言葉はすぐに結果を生むわけではないが、そのさりげない積み重ねが少年の人間としての糧となって、やがては次の世代へと影響を与えていくのだろう。
と同時に、この物語はヨシオを想ういけちゃんのラブストーリーでもある。
いけちゃんの声を務める蒼井優の巧さもあって、ヨシオとじゃれ合ういけちゃんの微笑ましさといったらない。
また、彼女がどんな想いでヨシオを見守っているのかを考えると、いつかくる別れに向けて切なさも倍増。
一途にヨシオを想う気持ちから発せられる言葉で彼が強くなっていく。それを喜びに感じるいけちゃん。そんな彼女の純粋な姿に胸を打たれる。
ポイントはこのラブストーリーが叶わぬ片思いの物語ではなく、叶った恋を補う充足の物語だということ。
だからこそ約束された別れに悲壮感はなく、満ち足りた充実感が爽やかな感動をもたらす。
逆らうことのできない別れの時を迎えるとき、人から必要とされなくなったと感じるより、伝えるべきことはすべて伝えたとの満足感と共に旅立つ。そんな人生でありたいと、そんなことにまで思いをはせることができる懐の深い映画なのだ。
作品データ - Film Data
- 【キャスト(声の出演)】蒼井優
- 【キャスト】深澤嵐/ともさかりえ/萩原聖人/モト冬樹/蓮佛美沙子/柄本時生/岡村隆史/吉行和子/江口のりこ/上村響/村中龍人/中村凜太郎/白川裕太/窪田傑之/宮本愛子/山田スミ子/西原理恵子/たくませいこ/ちすん/いとう麻見/ニタ・ニコルソン/山本司/湯治迅人/西花隆弘/徳永優樹/大塚裕也/澤田圭史/小島大輝/松浦慎一郎/山田恋音/西山季陽/峯のぼる/中谷潔一/上松勝寿/北代一也/大谷美香/大木瞳美(高知放送)/池松壮亮
- 【監督/脚本】大岡俊彦
- 【製作】井上泰一
- 【製作統括】小畑良治/井上伸一郎/川城和実/阿佐美弘恭
- 【企画】土川勉
- 【エグゼクティブプロデューサー】井上文雄
- 【プロデューサー】杉崎隆行
- 【原作】西原理恵子「いけちゃんとぼく」
- 【撮影】藤石修(J.S.C)
- 【照明】磯野雅宏
- 【美術】新田隆之
- 【装飾】酒井譲
- 【録音】松本昇和
- 【編集】上野聡一
- 【視覚効果プロデューサー】杉木信章
- 【視覚効果スーパーバイザー】豊直康
- 【音響効果】齋藤昌利
- 【衣装】宮本まき江
- 【スクリプター】小林加苗
- 【助監督】山本英之
- 【製作担当】鎌田賢一
- 【ラインプロデューサー】氏家英樹
- 【音楽プロデューサー】緑川徹(メロディー・パンチ)
- 【音楽】川嶋可能
- 【主題歌】「あしたの空」 [歌]渡辺美里 [作詞]渡辺美里 [作曲]山口寛雄 [編曲]光田健一
- 【製作】角川映画/バンダイビジュアル/NTTドコモ
- 【配給】角川映画
- 【日本公開】2009年
- 【製作年】2009年
- 【製作国】日本
- 【上映時間】107分
- 【公式サイト】http://ikeboku.jp/
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