【映画評】火天の城 (2009)
織田信長に命じられた安土城建築に命を賭ける職人たちとその家族の三年間を追いかけた歴史ロマン。
時は天成3年(西暦1575年)、尾張の豪傑・織田信長(椎名桔平)は、琵琶湖を臨む安土の山をまるごと城にすることを思いつく。信長の構想は、五層の天守に西洋建築のような吹き抜けを設けた前代未聞の巨大な城。
信長は当初、その建築責任者たる総棟梁として宮番匠(宮大工)・岡部又右衛門(西田敏行)に白羽の矢を立てるのだが…。
戦乱の世を舞台としながら、合戦のシーンは一切なし。あくまで巨城建築に携わった職人たちに焦点を絞り、家族や仲間たちの人情話も盛り込みながら、世紀の一大プロジェクトをスクリーンに蘇らせようという意欲作。
山本兼一の同名歴史小説を、『化粧師 kewaishi』(2001年)、『精霊流し』(2003年)の田中光敏監督が映画化。
主演は名優・西田敏行。大竹しのぶ、福田沙紀、椎名桔平らが脇を固める。
戦国時代版プロジェクトXという趣で安土城建築の舞台裏に迫るこの映画、言ってしまえば「ただそこに城を建てるだけ」という地味な内容なのだが、場面展開に工夫が見られ、最後まで飽きることはなかった。
しかし観終わってみると一番盛り上がったのは序盤の山場「指図(図面)争い」(業者に設計案を競わせるコンペ)だったように思う。以降は何かが足りていない。
日本映画にしては大作の部類に入るだろうが、このビッグプロジェクトを再現するにはこれでもまだ予算不足だったと言える。
例えば、VFXを使った大俯瞰の構図では多くの人間が建築中の城の周りで働いていることがわかるのだが、その現場にカメラが降りると、とたんにこぢんまりとする。これはロケ場所の敷地や予算内で呼べるエキストラの数に限界があるからに違いない。
中盤の山場となる敵陣から木曽の檜を手に入れようとするくだりでは、必要なシーンが欠けている印象を受けた。
待ちに待った大雨の日に緒方直人演じる甚兵衛らがどういう作業をしたのかがごっそり抜け落ちている。
省略は映画演出の基本のひとつだとは思うけれど、これはちょっと間引きすぎ。自分が監督なら伐採した巨木を激流の川に流すくらいはシーンとして入れたいと思う。予算とは別に技術的な問題が発生するだろうが。
ラストも拍子抜けするぐらいあっけない。
あれだけ尽力を尽くしてきた職人たちが城の完成を喜ぶシーンがないというのは、城作りを主軸としたこの映画としては致命的な欠落じゃないのか。
クライマックスあたりのシーンの流れが演出的に淡泊なせいで、「ここが最大の盛り上がり」をあまり意識できないうちにピークを迎えてしまったのも拍子抜けした理由なんだが。
俳優陣に目を移すと、主演の西田敏行はさすがの貫禄で申し分なし。
時の風雲児・織田信長を演じた椎名桔平も素晴らしい。これまでの彼の演じた役の中で一番のはまり役じゃなかろうか。
又右衛門の妻・田鶴を演じた大竹しのぶも慎ましやかな良妻を好演。大竹しのぶにしてはおとなしめの演技だったような気がするが、これがまたいい。女優としていい歳の取り方をされていると思った。
演出的な意味でことあるごとに気になったのはヒロイン的存在の又右衛門の娘・凜。
演じる福田沙紀の演技がつたないのはしょうがない。両親を演じる西田敏行、大竹しのぶを筆頭に、周りを固める俳優陣がベテランの演技派中心なのでそれらと比較したらさすがにかわいそう。こういう恵まれた環境が次なるステップへの弾みになればいい。
気になったのはそういうことじゃなくて、撮影の仕方。
なんだかやけに、望遠のワンショットで撮られていることが多く、まるでそのシーンの撮影時、その場にいなかったのをあとから彼女だけ追撮したかのような違和感があった。どういう演出効果を狙っているのか、正直なところさっぱりわからなかった。
売り出し中のアイドルだから、ホントにスケジュールが合わなくてこういう撮影になったのかもしれないが。
あと、唐突だったのが水野美紀が演じた、うねのエピソード。
“そのシーン”自体は、作品にメリハリをつける意味でもあってよかったとは思うんだけど、ワイヤーアクションはちとやり過ぎの感が。それと、こういうことも起こりうるという、なにがしかの伏線は張っておいて欲しかった。
唐突と言えば、石田卓也演じる市造も。これはもう、唐突と言うより、いくらなんでもなご都合主義と言った方がいいが。
最後にまとめると、欲張ってあれこれ詰め込もうとした結果、整理し切れていないところもあるけれど、歴史の一端を担った人々に思いをはせる大人な映画としての方向性は悪くないと思う。
なんだけど、いたるところで予算的、人的、技術的不自由さが見え隠れしているのが惜しまれる。
柱が足りていないのに過剰に部屋数の多い城を建ててしまったかのような、そんな“いびつさ”を感じるのよ。
作品データ - Film Data
- 【キャスト】西田敏行/福田沙紀/椎名桔平/寺島進/山本太郎/石田卓也/裵 ジョンミョン/前田健/上田耕一/水野美紀/熊谷真実/西岡徳馬/渡辺いっけい/河本準一/田口浩正/岸本康太/福本清三/遠藤章造/内田朝陽/石橋蓮司/笹野高史/夏八木勲/緒形直人/大竹しのぶ
- 【監督】田中光敏
- 【ゼネラル・プロデューサー】河端勲
- 【プロデューサー】進藤淳一/藤田重樹
- 【原作】山本兼一
- 【脚本】横田与志
- 【撮影監督】浜田毅
- 【撮影】朝倉義人
- 【美術監督】西岡善信
- 【美術】吉田孝
- 【音楽】岩代太郎
- 【照明】安藤清人
- 【録音】小野寺修
- 【編集】穂垣順之助
- 【助監督】中川祐介
- 【記録】松澤一美
- 【俳優担当】おおずさわこ
- 【デジタル担当】中嶋竹彦
- 【ラインプロデューサー】清水圭太郎
- 【アシスタントプロデューサー】傅野貴之
- 【スーパーバイザー】長岡功
- 【主題歌】「空が空」 [歌]中孝介 [作詞/作曲]川村結花 [編曲]河野伸
- 【製作】イオン化粧品/読売連合広告社/東映CM/フイルムフェイス
- 【制作会社】フイルムフェイス
- 【制作協力】東映京都撮影所
- 【配給】東映
- 【日本公開】2009年
- 【製作年】2009年
- 【製作国】日本
- 【上映時間】139分
- 【公式サイト】http://katen.jp/
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こんにちは。やはり木曽の檜のところは全く同感です。伐採した巨木を激流に流すシーンが有ったなら全然違ったと思います。それこそVFXの出番だったと思います。でも最後の方で城の内部の柱組みのシーンは壮観でしたが、これも大半はCGなのでしょうか?
でもあの御神木で作った柱は妙に細かったですね。
投稿: bobby101 | 2009年10 月11日 (日曜日) (10:19)
>bobby101さん
激流はね、CGでやるにしても、ミニチュアを使った特撮でやるにしても、巨石が転がるなんてのとは比較にならないくらい相当な難物なんですよ。
おそらくもしこのシーンを映像化できたら、それだけで映画のPRに使えるくらい。
そういう事情もわかるから、そのものズバリのシーンは無理にしても、せめて張りぼての巨木を川に放り込む瞬間を入れ込むなどして、省略した部分を想像させる工夫はして欲しかったかなと。
城の内部の柱組みは、おそらく基本的にスタジオ内のセットだと思います。
要所要所でスタジオのスペースの関係で作れなかった端の方だけCGで描き足しているかもしれませんが。
御神木の柱が細く感じたのは、撮り方の問題もあるかなぁ。
巨大な丸木も角材に削ると意外と細くなっちゃうもんなのかと脳内補完しましたが。
投稿: かみぃ@管理人 | 2009年10 月11日 (日曜日) (16:07)