【映画評】エスター (2009)
ロシアから来た一風変わった孤児の少女・エスターが天使のような笑顔の裏で、一家を破滅に陥れるサイコ・スリラー。
正統派ホラーの良作を何本も贈りだしているダーク・キャッスル・エンターテイメントの新作にして、『蝋人形の館』(2005年)のハウメ・コジェ=セラ監督(日本語表記が変わってる。推測だがおそらく名前の綴りの英語読みと、監督の母国スペイン語での正しい発音の違い)による待望の新作スリラー。
『蝋人形の館』は、見た目の残酷さで怖がらせるスラッシャー・ホラーの快作だったが、本作は心理的な怖さに重きを置いたスリラー映画。
手堅い演出もさることながら、子役たちの名演に唸らされた。
三人目の子供を出産目前に死産してしまったケイト・コールマン(ベラ・ファーミガ)は精神的な不安定に陥っていた。
ケイトは夫・ジョン(ピーター・サースガード)との間に息子・ダニエル(ジミー・ベネット)と娘・マックス(アリアーナ・エンジニア)という二人の子宝にも恵まれ、一見幸福そうな家庭を育んでいる。しかし、悪夢にうなされる日々を送るケイトは、産まれてくるはずだった娘のことが忘れられず、もてあます亡き娘への愛情を誰かに分け与えたいと、ジョンと相談の末、孤児院から養子を引き取ることにした。
聖マリアナ女子孤児院を訪れた夫妻は、他の子らと遊ぼうとしないロシア生まれの9歳の少女・エスター(イザベル・ファーマン)と出逢う。伝統的なロシア調のお洒落な服に身を包み、絵と歌を愛する一風変わったエスターを一目で気に入り、彼女を養子として向かい入れるのだが、それからというもの、エスターの周りで不可解な事故が相次ぐのだった…。
ホラー映画ファンにはお馴染みのダーク・キャッスル・エンターテイメント作品だし、かなり心臓に悪かった『蝋人形の館』を撮ったハウメ監督の新作ということで相応の覚悟を決めて観たんだが、思いのほか出血は少なく、拍子抜けした。
とくに前半は、コールマン夫妻に潜むワケありなバックグラウンドとエスターの意味深な振る舞いに重点が置かれ描かれるので、一見普通のホームドラマのような展開。これが後になって効いてくるんだが。
ただ、作品から醸されるダークな雰囲気はやはりホラー映画のそれで、なにげない日常の描写にしても、いちいち恐怖心を煽られる。
一応映倫には『蝋人形の館』と同程度のレーティングR15+指定を受けています。血なまぐさい残虐描写こそ少なめなものの、エスターのやらかしている行為は、かなりえげつないものなので。
この映画は簡単に言うと、オカルト映画の傑作『オーメン』(1976年、監督:リチャード・ドナー)のダミアンのごとき邪悪な娘・エスターの巻き起こす、それはそれは恐ろしい“度を超したイタズラ”に翻弄される家族のドラマ。家庭を舞台にしたサイコ・スリラーであって、いわゆるオカルト映画とは違う。
外見はかわいらしいのに、いったんスイッチが入ると想像を絶する凶行に走るエスターではあるが、彼女はダミアンのような悪魔の子ではなく、やっていることは一応物理的に人間に可能な行為。
ただ、彼女には観客を仰天させる、ある秘密がある。
なんだけども、実は筆者は、鑑賞前にこの秘密に察しがついてしまっていた。ネタバレしたレビューは避けていたにもかかわらず、目にしたすでに観た人の感想から想像ついちゃって。
そんな経緯もあって、ここではネタバレしないよう、細心の注意を払って言葉を選んでいますが、とにかくその驚愕の事実っていうのが、この映画の印象を決定づけてしまうほどにインパクトのある秘密で、それに触れずにエスターを語ることはなかなか難しい。ネタバレしないよう気を遣っている評論サイトや感想ブログであっても、ついついほのめかす言葉で彼女を形容したくなるのもわからなくもない。
そんなわけで幸か不幸か薄々エスターの秘密に感づいた上でこの映画を観ると、最初の方から思わせぶりなセリフがけっこうちりばめられている。
それどころか彼女の不可解な振る舞いも、おおかた合点がいく。知らずに観るとありえないような彼女の言動も、巧妙な脚本で計算された筋の通ったものだとわかるのよ。
それらは本当なら、秘密が明かされた時点で氷解する伏線のはずだったんだけれども、正直なところあんまり怖く感じなかったのもそういった裏打ちを確認しながら観たせいかもしれない。
それほど怖くなく、作品の肝とも言えるエスターの秘密までも気付いていたからつまらなかったかというと、そんなことはない。
ホラー映画らしからぬドラマ重視の脚本のお陰で、それでも面白く観られた。
幼い末娘・マックスには聴覚障害があって手話と読唇術に長けているとか、ケイトにはアルコール依存症だった過去があり、マックスを池で溺れさせかけたことがあるといった、脚本的な仕掛けや工夫が随所に見られ、一家を巧みに操るエスターの悪知恵も、対する家族の心の機微も説得力のあるものだ。
なにより、すべてを根底から覆すようなエスターの隠す驚愕の秘密は、それと感づいていても唸らされる。彼女を演じたイザベル・ファーマンの子役とは思えぬ怪演もあって、今後語りぐさになるであろう。
エスターを演じたイザベルの巧さは評判通り。天使のような笑顔と悪魔のような裏の顔を見事に演じ分ける、末恐ろしい逸材だ。
また彼女に負けず劣らず驚かされたのが、末娘・マックスを演じたアリアーナ・エンジニアちゃんの自然な演技。劇場用パンフによると、実はアリアーナちゃん自身、聴覚に障害をもっているそうで、手話の自然さはだからこそなんだろう。さらにパンフによると、芝居はけっこう場当たり的な演技だったらしく、前日に何をやったかも覚えていなかったというのが子供らしいところだが、そんな彼女の迫真の演技は一見の価値ありだ。
血の気の低さからホラー映画が苦手という人にも薦めたい見所の多い本作ではあるが、惜しむらくは、エスターの秘密が明かされてからの怒濤のクライマックスがずっと薄暗く、彼女の“正体”をはっきりと確認できなかったことが残念。
闇の中に浮かび上がるおぼろげな彼女の姿は、まさしく“それ”で、それを年端もいかぬ子役が演じているという現実も含め、いろんな意味でおぞましい。その姿、もうちょっとしっかり見たかった。
かくも怖いもの見たさで見たくなるのが、女性の素顔でありますから。
作品データ - Film Data
- 【キャスト】ベラ・ファーミガ/ピーター・サースガード/イザベル・ファーマン/CCH・パウンダー/ジミー・ベネット/アリアーナ・エンジニア
- 【監督】ハウメ・コジェ=セラ
- 【脚本】デイビッド・レスリー・ジョンソン
- 【原案】アレックス・メイス
- 【製作】ジョエル・シルヴァー/スーザン・ダウニー/ジェニファー・デイビソン・キローラン/レオナルド・ディカプリオ
- 【製作総指揮】スティーヴ・リチャーズ/ドン・カーモディ/マイケル・アイルランド
- 【共同製作】リチャード・ミリッシュ/デイビッド・パレット/エリック・オルセン
- 【撮影】ジェフ・カッター
- 【美術】トム・マイヤー
- 【編集】ティム・アルバーソン
- 【衣装】アントワネット・メッサム
- 【音楽】ジョン・オットマン
- 【配給】ワーナー・ブラザース映画
- 【原題】ORPHAN
- 【字幕翻訳】小寺陽子
- 【日本公開】2009年
- 【製作年】2009年
- 【製作国】アメリカ
- 【上映時間】123分
- 【公式サイト】http://www.esther-movie.jp/
他のブログの批評・感想・レビュー - Reactions
- #417 『エスター』(伊藤Pのブログ)
- エスター 【称号:良作】(映画細胞~CinemaCell)
- 『エスター』(ラムの大通り)
- エスター(Peaceナ、ワタシ!)
- [映画『エスター』を観た](『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭)
- 「 エスター 」(ドンドン日記)
- エスター(徒然なるままに・・・)
- エスター/ヴェラ・ファーミガ(カノンな日々)
- エスター(王道)
- 「エスター」~シリアスドラマ+古典的スリラー(たぶん、はずれだと思う)

![エスター [DVD]](http://images-jp.amazon.com/images/P/B002SSSUGI.09._SL160_PC_.jpg)

![マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]](http://ec3.images-amazon.com/images/P/B003LJ92EC.09._SL75_SH10_PC_.jpg)
こんばんは^^
コメトラありがとうございます。
かみぃさんの記事を読んでいると変な話ですが、私もある程度察しがついて
いる状態で見れば良かったかなぁなんて思いました。
実は個人的に、この手の子供に転がされる大人たちというシチュエーション
が苦手で、怖さよりも苛立ちが先に来てしまうんです。
「あぁ、ばかだなもぉ!」とか「おまえ何でガキの方信じるかな。」とか…。
知ってれば多分そういう部分も「上手いなぁ…」って観れたと思うんですよね。
もちろん、彼女の秘密を知ったときには驚きましたし、同時にそこまでの数々
のヒントが一気に解けた喜びはあったんですが、それを取るか、観ながら脚本
の上手さを堪能するかどっちかと言えば、私は後者です。
まあ、理屈から言えば、ならもう一回観ればいいってことなんですけどね。(笑)
投稿情報: KLY | 2009年10 月16日 (金曜日) 00:00
>KLYさん
コメントありがとう。
> 「あぁ、ばかだなもぉ!」とか「おまえ何でガキの方信じるかな。」とか…。
少なくともこの映画においては、そういうふうにイライラさせられたのも、監督&脚本家の思うつぼだったかと。そう感じた時点で、100%騙されてますからね(笑)
ほとんど一発ネタといっていいオチから逆算されて構成されたこの脚本は、見かけによらずよく考えられていたとホント感心させられます。
エスターの顔を真っ正面から捉えただけの劇場ポスターですら、映画を観終わってから見ると「これもヒントだったか!」って気付くんですよね。
知らずに観てたら「やられたー」って感じで、きっと僕はもう一回観て大胆にちりばめられていた数々のヒントを確認したんじゃないかな。
投稿情報: かみぃ@管理人 | 2009年10 月17日 (土曜日) 00:03
こんばんは♪
エスター役の子もマックス役の子もむちゃくちゃ上手でしたね。
まさに迫真の演技!
よくあることですが予告がちょっとネタバレしすぎというか、
エスターの秘密に関してなんとなく察しがついちゃう感じの作りだったので
(と言っても、もうちょっとオカルト寄りのオチを予想してましたが)
そんなにビックリはしませんでしたけども、それでもとても面白く観ることができました。
投稿情報: kenko | 2009年10 月19日 (月曜日) 19:15
◆kenkoさん
予告編にもヒントがありましたね~。
子役は皆、ホントに巧かった。この内容で子役の演技がダメだとシラけますからね。
いろんな意味で見応えのある映画でした。
投稿情報: かみぃ@管理人 | 2009年10 月21日 (水曜日) 00:06