【映画評】アバター [3D] (2009)
地球から遥か離れた惑星パンドラを舞台に描かれる、異文化交流アクション超大作。
『ターミネーター』(1984年)、『タイタニック』(1997年)のジェームズ・キャメロン監督、12年ぶりの新作。
「野生の王国~衛星パンドラ編」てな感じの壮大なSFアドベンチャー巨編。
緻密な考証と精細なCGで作り上げられた架空の世界観、息を呑む美しい映像は必見。ただ、本格SFとしては今一歩。
戦闘での負傷のため車椅子での生活を余儀なくされている元海兵隊員のジョイク・サミー(サム・ワーシントン)は、事故で亡くなった双子の兄の科学者トミーの代わりにあるプロジェクトに参加するため、地球から5光年離れた惑星を周回する惑星パンドラへ向かう。
宇宙船での約6年にわたる人工冬眠の末にたどり着いたその星パンドラは地球によく似た環境だったが、その大気は地球人には適合せず、酸素マスクなしでは数分で命を落とすようなところで、この星を覆うジャングルにはどう猛な動物たちが生息している。
地球人たちはこの星に存在する貴重な鉱石“アンオブタニウム”を手に入れるため、鉱山の上に集落を作っている青い肌をした原住民“ナヴィ”の一族を立ち退かせようしていた。
ジェイクに与えられた任務は、ナヴィと人間とのDNAを掛け合わせた肉体“アバター”と意識をリンクさせ、アバターを遠隔操作する“ドライバー”となること。同じDNAを持つ兄トミーの代役としてリンクに成功したジェイクは、自由に走り回れる新しい身体に喜びを隠さなかった。
ある日、この星の植物を研究している科学者グレース(シガーニー・ウィーバー)、ノーム(ジョエル・デヴィッド・ムーア)らを警護してジャングルに入ったジェイクは、思わぬ事故で一行からはぐれてしまう。単身ジャングルに置き去りとなってしまった彼は、夜の闇の中で獣の群れに襲われていたところを原住民ナヴィの族長の娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)に助けられるのだが…。
3D字幕版での鑑賞。運良くど真ん中のベストポジションで観ることができた。
なにはともあれ革命的と言われるその映像面。これはもう完璧で申し分ない。
架空の星の美しい映像がCGによるものとわかるのは、それが「現実には存在しないから」という理由だけで、質感がCGっぽいとか、グリーンバックとのつなぎ目がどうとか、そういった技術的粗探しはまったくの徒労に終わる。
ただ筆者としては、そういう技術的革新は『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003年、監督:ピーター・ジャクソン)ですでに大きな山を越えたと感じていたので、これはその後の成熟と考えた方がいいと思う。
3D映画、すなわち立体映画としても、右目と左目でズラした映像を観るという基本的な仕組みは昔から変わらないものなので、それ自体はとりたてて特別視するものではない。
しかしこれまでと決定的に違うのは、これが新たに専用の撮影機材から開発して撮影された実写映画であること。
実写の立体映画というだけならこれまでにいくつもあったが、専用に機材を開発したことで演出の自由度は格段に高まる。これだけでもそれまでとは一線を画す実写立体映画になり得たと思うが、さらに現代最高のCG技術が組み合わさったのだから、映像としての技術的制約はまったく感じさせない。
そしてこういった技術的裏付けのもとで、名匠ジェームズ・キャメロン監督が思う存分時間を掛けて、立体映画として考え抜いた演出を発揮しているのだから、そりゃもう、身を乗り出してしまうほど、もの凄いものに仕上がってる。
話題の3D版で観ることに越したことはないと思うが、近場の映画館で上映されていないなどの理由でやむなく2D版でしか観られないというならそれも仕方ない。それでもこの映画のもつ映像的凄みはきっと伝わるはずと思うので、とにかく観よう。何年、何十年も先まで語りぐさになる映画には違いないから。
3Dを活かした立体的な映像もさることながら、この映画でなにより驚愕されるのは、舞台となる架空の星パンドラの世界観そのものだ。
SFとは映像だと言わんばかりの迫真の映像世界がそこに広がる。
地形や動植物の造型はもとより、その生態系や習性、原住民ナヴィの生活習慣、独自の言語体系にいたるまで、相当綿密に考証されていることが映画の端々からうかがい知れる。
これまさに「野生の王国~衛星パンドラ編」。「宇宙ウルルン滞在記~衛星パンドラの美しき大自然と寄りそって暮らす素朴な原住民ナヴィに…元海兵隊員ジョイクが出会った」でもいいが。
付け加えると、導入部の宇宙ステーションや基地内の近未来的計器などもはなはだ“らしく”存在して、SF映画の真骨頂。
とまあ、躍動感に満ちた演出も含め、映像的なところはまったくケチの付けようがない素晴らしいもの。
ただねぇ、脚本がちょっと残念な出来でして。
設定はよく考えられているし、エモーショナルな演出にもごまかされそうになるんだけれど、どうも詰めが甘い。
ひとつには予告から予想された通りの平凡なお話ってのもある。
でもそれは米アカデミー賞受賞作『ダンス・ウィズ・ウルブス』(1990年、監督:ケビン・コスナー)に代表される異文化に触れて解り合うお話の王道ってことであって、それだけならそんなに残念てことにはならなかったはず。
キャメロン監督の代表作『タイタニック』は教科書通りのロミオとジュリエット物語だったし、『ターミネーター』だって巻き込まれ型アクションの典型。
このようにキャメロン監督には王道を上手に料理してみせる確かな腕があるし、その実力はこの映画でも遺憾なく発揮されている。
だからそんな大枠は否定しないんだけど、些細な引っかかりの積み重ねが、目に余るアラに感じられてしまった。
シガーニー・ウィーバー演じる科学者グレースはいまひとつ立ち位置がはっきりしなかったのに、いつのまにか“イイもん”になってた印象だし、戦場で生死を賭けて戦っていた元海兵隊員ジョイクが、きっと彼が初めて目にするであろう未知の果実を「食べて大丈夫?」との躊躇もなくすぐさまかぶりついたのも不思議だったし、訳あって閉じ込められたジョイクたちを助け出す面々に「お前ら、いつの間にそこまで仲間意識が強まってた?」と怪訝に感じた。
ヒロイン・ネイティリのクライマックスでのジョイクに対する心変わりも、ん?って感じ。まあ、女心は変わりやすいっていうけどさぁ、あれじゃ展開優先のご都合主義でしょ。
また、SFとしても、架空の星の世界観をよくぞここまで作り上げたなと感心はするんだけれど、一方で、根幹の目的である地球人が命がけで奪おうとする鉱石“アンオブタニウム”の説明はただ高価っていうだけで、なぜその鉱石が凄いのかはまるでわからずじまい。
細かいことを言えば、原住民ナヴィの肌が青いのもSF的になんか理由付けがあるのかもと思っていたんだけれど、それは言及されず。
鉱石については、机の上で浮いていたので、ひょっとしたら『天空の城ラピュタ』(1986年、監督:宮崎駿)に出てくる“飛行石”みたいなものだったのかもしれないけれど、単に地球人側の技術で浮いていただけっていうことも捨てきれない。
ナヴィの青い肌にいたっては、「イエロー・モンキー」ならぬ「ブルー・モンキー」っていう卑下したセリフがあったので、白人、黒人、黄色人種といった、地球上のどの人種にも合致しない色ってことで青が選ばれたんだろう。これなんかSFとしての理由付けはおざなりに、大人の事情で決められたって気がする。
たぶん、これを読んでくださる読者の中には、鉱石や青い肌の設定にケチを付けるのは、アラ探しを通り越して難癖付けてるだけと思われる方もいよう。
でも筆者としては、この映画がSF映画としてよく練られているからこそ、逆にそこが致命的と感じてしまう。
これすなわち「センス・オブ・ワンダー」の欠如。
前段の科学者グレースの立ち位置の変化とか、登場人物の行動に疑問を抱かせるのは、キャメロン監督の手腕の問題。
アクション映画を得意とするキャメロン監督の手腕は疑うべくもない素晴らしいものだと思うけれど、ただそれは「いやおうなしに闘わざるを得ない」という状況下でこそ発揮されるもので、どちらかというと昔から“ドラマを描く”のは苦手としている印象がある。
それはラブロマンスとして大ヒットした『タイタニック』でもそうで、主人公二人の関係がはなから叶えられない状況下にあったからこそキャメロン監督の腕が活きたんだと思う。
一方、鉱石や青い肌については、SF的な突き詰め不足で、センス・オブ・ワンダーの欠落というのは、それこそ感覚的なものなの。筆者がなんでそこに引っかかるのか、わからない人には説明しても理解できないと思う。
別の映画で例えるなら、宇宙を舞台にしたSF映画として今なお絶大な人気を誇る『スター・ウォーズ』(1977年、監督:ジョージ・ルーカス)を、筆者は「ただの、宇宙を舞台にした戦争映画じゃん」としか思わなかった。『スター・ウォーズ』にはSFのくくりでの魅力は感じなかったということだ。
『スター・ウォーズ』が映画として面白いかどうかというのとは別の問題で、SF的魅力は乏しいという感覚を共有できるSFファンは少なからずいると思う。
この『アバター』も「SFは映像」という面ではもの凄く良くできているんだけれど、だからこそ余計に感覚的な不満がつのる。
この映画を観て、映像的には凄いと思うんだけど、でもなんかSF的にもの足りないと感じたなら、直感的にセンス・オブ・ワンダーの欠如に気付いているんだと思ってまず間違いない。
この映画は王道を得意とするハリウッド映画らしく、異文化交流にアクションをミックスした映画としては大変良くできていると思う。
でもSF映画としては、SF的カタルシスを提供するにはいたっていない。
惑星パンドラには、理詰めだけではたどり着けない未知なる領域がまだ残されている。
作品データ - Film Data
- 【キャスト】サム・ワーシントン/ゾーイ・サルダナ/シガーニー・ウィーバー/スティーブン・ラング/ミシェル・ロドリゲス/ジョヴァンニ・リビシ/ジョエル・デヴィッド・ムーア/CCH・パウンダー/ウェス・ステューディ/ラズ・アロンソ
- 【監督/脚本】ジェームズ・キャメロン
- 【製作】ジェームズ・キャメロン/ジョン・ランドー
- 【製作総指揮】コリン・ウィルソン/レータ・カログリディス
- 【撮影監督】マウロ・フィオーレ
- 【プロダクション・デザイナー】リック・カーター/ロバート・ストームバーグ
- 【編集】スティーヴン・リフキン/ジョン・ルフーア/ジェームズ・キャメロン
- 【スペシャリティ・プロップス】WETAワークショップ
- 【シニア・ビジュアルエフェクト・スーパーバイザー】ジョー・レッテリ
- 【ビジュアルエフェクト&アニメーション】WETAデジタル
- 【衣装】マイェス・C・ルビオ/デボラ・L・スコット
- 【キャスティング】マージェリー・シムキン
- 【音楽】ジェームズ・ホーナー
- 【配給】20世紀フォックス映画
- 【原題】AVATAR
- 【字幕翻訳】戸田奈津子
- 【日本公開】2009年
- 【製作年】2009年
- 【製作国】アメリカ
- 【上映時間】162分
- 【公式サイト】http://www.avatarmovie.jp/
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