【映画評】マイマイ新子と千年の魔法 (2009)
空想好きの少女・新子と都会からの転校生・貴伊子が体験するファンタジックな心の交流を描いたノスタルジック・アニメーション映画。
そろそろ今年のベスト映画でも整理しようかと思い始めていたところに突如現れたダークホース。
この感動はトトロ以来の衝撃。完全に心奪われた。
時代は終戦から10年ほどが過ぎた昭和30年代初頭。どこまでも青い空と鮮やかな緑色の麦畑が広がる山口県防府(ほうふ)市・国衙(こくが)。
小学三年生の青木新子(声:福田麻由子)は、おじいちゃん・小太郎(声:野田圭一)からかつて「周防(すおう)の国」と呼ばれたこの地の歴史を聞かされ、当時に思いをはせ、空想の翼を羽ばたかせる無邪気な毎日を送っていた。
ある日新子のクラスに、東京から島津貴伊子(声:水沢奈子)という女の子が転校してくる。
都会育ちの貴伊子はなんとなくクラスで浮いた存在だったが、やがて新子と心通わすようになり…。
筆者は若い頃山口県に住んでいたことがあり、映画の中で交わされる山口弁もすんなり耳にはいるし、舞台になっている防府市にも格別の思い入れがある。
こと、山口を離れた後になって、あらためてそれを調べるために訪れたことのある、同じ山口県の瀬戸内海沿いにある下松(くだまつ)市の地名の由来となった「星が降りた松伝説」をモチーフとした伝承が語られたのには、この映画との出会いに運命すら感じてしまった。
そのため多くの観客とはのめり込み方が半端ないと思うんだけど、それをさっ引いてもこの映画は忘れがたい傑作と言いたい。
正直に言うと、中盤以降ほとんど涙ぐみながらの鑑賞で、終盤は嗚咽をこらえるのに必死だった。
この映画は小学生でもついていける内容(文部科学省選定作品)だが、やはり“昭和”に懐かしさを感じる世代にこそ、真価が伝わると思う。
とりあえず導入部からして、予告編から感じていたイメージと少々違う。
まずは、のどかな田園風景を舞台にし、ノスタルジックな昭和の風情満載の映画でありながら、絶え間なく流れる軽快なスキャットのBGMが予想の斜め上をいくのだが、これが見事にはまっている。
さらに、表向きのストーリーと併行して描かれる新子が思いをめぐらす千年の時を越えた世界に、「そういう映画だったの!?」と面食らった。
この子どもらしいイマジネーションの映像化に、宮崎駿監督の名作アニメ『となりのトトロ』(1988年)を思い出した。
この映画にはトトロや“まっくろくろすけ”のような空想上の生き物は登場しないが、ここに描かれるファンタジックな世界観はまぎれもなく「子どもにだけ見えている世界」だ。
アニメーションとしてのクオリティもジブリ・アニメに負けず劣らずの、さすが『時をかける少女』(2006年、監督:細田守)や『サマーウォーズ』(2009年、監督:細田守)を手掛けたマッドハウスだけあって申し分ない。
日本の原風景とも言える緑豊かな世界が、とにかく動く動く。
家の中でのやりとりなど、もちろん静止画な背景もあるんだが、片渕監督の演出の巧みさゆえか、印象としてはスキャットのノリの良さと合わせて、子どもらの奔放さ、疾走感をそのまま絵にしたかのようなスピード感溢れるもの。1時間半の上映時間、休む間もなく駆け抜けた。
時代感を出すよう、色のトーンは抑え気味だが、子どもたちのまなざしの先にある煌めきははっきりと見て取れる。
昭和30年代というと筆者はまだ産まれていないので、蒸気機関車や氷で冷やす冷蔵庫などはさすがに知らない世代なんだが、ポン菓子やビー玉は経験しているし、どろんこになっての水遊びも当然やっている。道ばたの野草を引っこ抜いて、かじったりもしたっけ。
同級生が持ってくるやたら色数の多い色鉛筆がうらやましかったり、実家が平屋だったので友だちの家の階段が珍しかった記憶も蘇った。
そういった芸の細かい時代を感じさせるエピソードに思わず笑みがこぼれて嬉しくなるのだが、ほんの数十年前の幼少期に思いをはせて懐かしさに胸が熱くなるのは、自分が歳を取って平凡な大人に落ち着いた証だろう。
しかし、たかだか9歳の新子たちは“自分の人生”なんていう、ちっぽけな器に収まってなんていない。
その思いは時を越えて、思いもよらないつながりで千年越しの魔法を解き放つ。
この映画は、伝承の媒体は子どもたちであることを描いている。
おじいちゃんから新子へ、そして新子から貴伊子へ。親から子へ、子から孫へ。
そういった伝承はさりげない日常の中で交わされるものだが、その積み重ねがついには千年の時を越える奇跡となるのだ。
しかし現代、伝承は引き継がれているだろうか。
この映画は数十年前を舞台とし、その時代からなんと千年も前の平安時代とをつなげてみせた。
そして千年前の人々は、さらに太古の時代とのつながりを言及しているというのに、今はどうか。たった数十年前のことすら忘却の彼方に追いやっていないか。
映画のクライマックス、残酷な現実を知り、大人の世界を垣間見た新子は、将来の子どもたちに“伝える”ことを約束する。
しかし、その前にもっと遊ぼう、もう少し子どもでいようとも宣言する。
そう、時代はまもなく高度成長期を迎え、子どもが子どもらしくいられなくなる時代が来ようとしているのだ。
「子どもは遊ぶのが仕事」と言われた時代はいつ終わったのか。
「うちらの明日の約束を返して!」との叫びは、子どもがさっさと大人にならなくてはならない、伝えるべきことが伝わらない現代にこそ向けられている。
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作品データ - Film Data
- 【キャスト(声の出演)】福田麻由子/水沢奈子/森迫永依/秋元環季/江上晶真/中嶋和也/西原信裕/冨澤風斗/世弥きくよ/竹本英史/瀬戸口郁/喜多村静枝/関貴昭/海鋒拓也/小山剛志/川上聡生/奥田風花/脇田美代(山口放送)/阿川雅夫/谷山紀章/千葉翔也/二輪明宏/徳本恭敏/久賀健治/巻島康一/久野道子/諸星すみれ/本城雄太郎/萩原真治/清水美里/鵜沢正太郎/宇山玲加/万代千紗/Jenya/Josh Keller/片淵秋/川上そよ香/永沼幸仁/塚田正昭/野田圭一/本上まなみ
- 【監督】片渕須直
- 【原作】高樹のぶ子「マイマイ新子」
- 【エグゼクティブプロデューサー】丸田順悟
- 【製作】千葉龍平 / 野田助嗣/丸田順悟/岩田幸雄
- 【企画】堀健一郎 / 吉田剛/丸山正雄
- 【脚本】片渕須直
- 【キャラクターデザイン・総作画監督】辻繁人
- 【演出】香月邦夫/室井ふみえ
- 【画面構成/作画監督】浦谷千恵
- 【作画監督】尾崎和孝/藤田しげる
- 【メインアニメーター】川口博史/今村大樹
- 【美術監督】上原伸一
- 【撮影監督】増元由紀大
- 【CGプロデューサー】今村幸也
- 【CGディレクター】矢山健太郎
- 【編集】木村佳史子
- 【音楽】村井秀清/Minako“mooki”Obata
- 【音楽プロデューサー】岡田こずえ
- 【主題歌】「こどものせかい」 [作詞/作曲/編曲/歌]コトリンゴ
- 【録音】小原吉男
- 【山口弁監修】森川信夫
- 【チーフプロデューサー】高谷与志人
- 【プロデューサー】岩瀬智彦/市井美帆/松尾亮一郎
- 【共同プロデューサー】二方由紀子/赤瀬洋司
- 【プロダクションマネージャー】折本全代
- 【製作】「マイマイ新子」製作委員会(エイベックス・エンタテインメント/松竹/マッドハウス/山口放送)
- 【アニメーション制作】マッドハウス
- 【配給】松竹
- 【日本公開】2009年
- 【製作年】2009年
- 【製作国】日本
- 【上映時間】94分
- 【公式サイト】http://mai-mai.jp/
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こんにちは。
このスキャットは新鮮でしたね。
70年代前後の映画にはよくつかわれていたのですが、
まさかこの時代の背景に持ってくるとは…。
でも、それがありがちなアニメ・イメージを打ち砕き、
新子のヴォイスキャストの声とも巧くマッチして、
ノスタルジーとだけでは言いきれない
魅力的な世界観を作りだしていたと思います。
投稿: えい | 2009年12 月 3日 (木曜日) (09:40)
本当に劇中の音楽が良かった。
千年前と50年前、そして今をつないだのは、「音楽の力」だったのでは。
昭和が古臭く観えなかったのも、音楽のチカラ大です。
監督さんと音楽スタッフの、コダワリを感じます。
ニコニコ動画のマッドハウスちゃんねる、で歌の女性のパフォーマンスが見られます。
この女性、凄いですよ。
投稿: なぎ | 2009年12 月 3日 (木曜日) (22:34)
◆えいさん
こんにちは。
70年代にはスキャットもよく使われていたのですか。
具体的にどうってことではなかったんですが、何となく懐かしさの中に新鮮さも感じました。
チラシや予告編から感じていたイメージを、いい感じで裏切ってくれて、独特の世界観を作っていましたね。
◆なぎさん
コメントありがとう。
そうですね、音楽がこの世界観をグイグイ引っ張っていました。
BGMがここまでしっかり印象に残る邦画はあまりなかったように思います。
実は思わず、パンフレットと一緒にサントラも速攻で買ってしまいました。
残念なことに客足があんまり芳しくないようで、早々と上映が終わってしまいそうなのですが、何とか上映期間中にもう一度は観ておこうと思っています。
投稿: かみぃ@管理人 | 2009年12 月 4日 (金曜日) (11:08)
『マイマイ新子と千年の魔法』、往復四時間以上の時間をかけて(高速代は往復¥4000以上)観に行ってきましたよ。
とてもよかったです。
今年最後に観る映画にこれを選んだのは正解でした。
よい作品を紹介していただき、ありがとうございました。
投稿: せぷ | 2009年12 月30日 (水曜日) (00:05)
◆せぷさん
おお、DVDで、とおっしゃっていましたが、遠出されて観られたんですね。
気に入っていただけて良かったです。
この映画にピンとこない方もいらっしゃるようなので、紹介する上で期待を煽りすぎるのは諸刃の剣なところもあったんですが、ホッとしました。
よい一年の締めくくりになりましたね。
自分は今年の最後に何を観ようかまだ悩んでます(笑)
投稿: かみぃ@管理人 | 2009年12 月30日 (水曜日) (02:49)