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2010年1 月 5日 (火曜日)

【コラム】『マイマイ新子と千年の魔法』の“千年の魔法”とはなんだったのか?

 衝撃的だった『マイマイ新子と千年の魔法』との出会いから早一ヶ月。
 新年を迎えても“マイマイ新子”熱は収まる気配がありません。
 困ったことに、『マイマイ新子と千年の魔法』を観て以降の映画があまり楽しめないのです。

 これまで当サイトでは作品に対して比較的寛容な評価をしていることが多かった、つもり。だけどここ最近、かなり手厳しい批評が続いています。
 もちろん、どれもこれもを『マイマイ新子と千年の魔法』と比較して観ているわけではないのですが、どうもその映画の世界観に入り込めない自分があって、些細なアラに目がいってしまう。

 思えば『マイマイ新子と千年の魔法』は作品世界への引き込み方が抜群に巧かった。
 新子の吹く草笛をきっかけにニョキニョキと姿を現す千年前の世界。
 もうそこから心をわしづかみ。それは催眠術に掛かったかのような不思議な体験でした。
 自分にとってはこれこそが“千年の魔法”だったと言ってもよいでしょう。

 ちょっと話が逸れますが、魔法と言って思い出すのが、同世代の人には懐かしいテレビアニメ『魔女っ子メグちゃん』(NET日本教育テレビ(現・テレビ朝日)系列、1974年4月1日~1975年9月29日放送)。
 数ある“魔女っ子モノ”アニメの中でもこの『魔女っ子メグちゃん』が忘れられないのは、全72話のうちの最終回「さようならメグちゃん」のせい。
 その話(わ)のエピソード自体、魔法使いのメグちゃんが魔界に戻ることになって、家族として暮らしてきた人たち(ホームステイみたいな感じだったんですね)の記憶を魔法によって消し去ってしまおうとするのに、一緒に暮らした強い絆の記憶は魔法をもってしても消えなかった、という、子どもながらに印象深いお話でした。
 しかし、なにより強烈だったのは、その最終回でのエンディング曲が終わった後、立ち去っていくメグちゃんが急に振り返り、

メグ「あっ…ととと。大事なこと忘れてた。
 皆さん、長い間ありがとう。お礼に、あなたに魔法をかけてあげるわ。テクニク テクニカ シャランラ!
 ほら、もうあなたは私を忘れないわ。どこかで会ったら、声をかけてね。
 じゃ、そのときまで、さようなら!」

 その筋(どの筋?)では有名な、最後にメグちゃんが視聴者(つまり当時子どもだった自分たち)に掛けた魔法。
 そう、自分はこの時の放送をリアルタイムで観、後世に語り継がれることになるこの魔法を掛けられたのです。
 大人げなく声を大にして言うが、このとき確かに「魔法を掛けられた」。
 だって「当時観ていたアニメにそんなシーンがあった」っていうような生半可な記憶じゃないんだもの。

 今、当時の放映日を調べると、この最終回が放映されたのは1975年9月29日。(自分が観た地方で放映日がずれていなければ)自分は6歳になったばかり。そんな小学校にも入学する前の記憶なんて、ほとんど残っちゃいないのです。
 だけど、このときのメグちゃんのことは、その魔法のとおり、いまだに忘れていない。まさに魔法に掛けられたんだと今でも信じています。

 そして今、新たな魔法を掛けられた。
 閑話休題。話を『マイマイ新子と千年の魔法』に戻そう。
(以降、映画のラストに触れています)

 新子の吹く草笛をきっかけに始まった“千年の魔法”。
 この物語では何度も千年前の平安時代と劇中の現代・昭和30年とを行き来するにも関わらず、魔法の始まりを告げた草笛は最初と最後にしか登場しない。
 つまりこの草笛は、新子たちをその都度千年前に誘うトリガー、魔法の呪文としてではなく、物語の始まりと最後を繋ぐ、表紙と裏表紙のような効果を狙ってのことだろう。
 とある著名な作家さんが言っていたが、こういう最初と最後を対とする演出作法は、最後のページを書き終えて、愛おしむようにリボンを結ぶような、作家にとってそんな愛情に満ちた技法なんだそうだ。

 新子の吹いた草笛は、この映画の最後で貴伊子に引き継がれ、貴伊子は確かに受け取ったと宣言するかのように草笛を新子に手渡し、互いに草笛の音(ね)を交わす。
 草笛によってリボンを結ばれたこの映画は、これで美しく幕を閉じられた、はず。
 が、この映画はそれでは終わらなかった。

 そこで映画が終わっていれば、この映画は新子たちの空想世界をも股に掛けた冒険譚としてきれいに幕を閉じただろうが、新子と貴伊子を繋ぎ、物語の表紙と裏表紙を繋いだ草笛は、さらに千年前のお姫様・諾子(なぎこ)とその友だち・千古(ちふる)によって三度(みたび)吹かれる。

 「うちらが忘れんかったら、いつまでもこの辺におってよ」
 「明日も、あさっても、しあさっても、きっとこの辺におるんじゃね」
 新子らが空想した諾子らのいる千年前の世界は、この映画が描かんとするテーマを象徴する存在だ。

 たとえ新子と貴伊子の草笛で映画が幕を閉じたとしても、そのメッセージは充分に伝わったと想像する。
 しかし新子と貴伊子の草笛で映画が幕を閉じたなら、それが信ずることによって確かに存在したとしても、諾子らの存在は新子らの空想の産物として収まってしまっていただろう。

 この映画はそれでは終わらず、新子と貴伊子の草笛で二人の冒険譚が閉じた後、諾子らの草笛によって、その千年前の世界が確かに“ここ”に存在することを明示する。
 つまりこの印象的なラストカットは、貴伊子が突如千年前の世界に入り込んだことと対を成すように、千年前の世界が“こちら側”に同化した瞬間とは考えられないだろうか。

 「明日も遊ぼうね」、その言葉が意味するのは、互いに交わり続けようということ。またそれは、世界の共有も意味する。
 その結果が、最初の出会いで「ええと、島津貴伊子さん」と遠慮がちに“さん”付けで呼んでいた新子は、輝く天の川の下で、ついには「なにするかぁ、島津貴伊子ぉ」と呼び捨てでじゃれ合い、東京から来た都会の女の子・貴伊子は、最後の登場シーンで、ついに「うん、負けるもんかいね」と、方言でしゃべるに至る。
 単に時系列的な変化と言ってしまえば他愛もないことなのに、この映画の中でのその変化、同化は、やけに感慨深い。

 振り返ると千年前の世界との関わり、その変化は、貴伊子は新子との戯れでその空想と交わり続けた結果として、やがて自然に方言でしゃべりだすのと同じように、自ずとその空想世界と同化した。
 そしてこの映画を観る観客たちもまた、貴伊子の目を通してこの空想世界と戯れる。その結果が諾子と千古の草笛による“こちら側”との同化だ。
 そう、ここでの“こちら側”とは、新子らの住む昭和30年の世界ではなく、私たち観客に向けられている。もうその前のシーンで、新子と貴伊子の物語は幕を閉じているのだから。

 エンディング曲に乗せてエンドロールが流れる間、それまで幾度も登場していたモンシロチョウが、昭和30年と平安時代の両方を背景に、時代の垣根を越えて飛び交う。
 そしてその最後、モンシロチョウはタンポポに止まり、映画は本当の終幕を迎える。
 このときの背景にその時代を示すものは意図的に描かれていない。が、それは、昭和30年でも平安時代でもなく、私たちのいる今現在という気がしてならない。

 後ろ姿で仲良く草笛を吹く諾子と千古が見つめるその先には、未来が見えているに違いなかろう。千年先の“こちら側”にいる私たちの背中が見えているはずなのだ。
 新子の草笛によって始まった魔法の物語は、貴伊子との草笛によってリボンが結ばれた。
 そして今、諾子と千古の草笛によって、新たな魔法の始まりが告げられた。
 彼女らが掛けた“千年の魔法”、そこにどんなリボンを結ぶかは、私たちの手にゆだねられている。

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