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2010年1 月13日 (水曜日)

【コラム】『マイマイ新子と千年の魔法』が捉えた世界のカタチ~アバターは青い金魚の夢を見るか?

 驚愕の3D映像で魅せるSF映画『アバター』が大ヒットしているという。
 『アバター』は説明するまでもなく、『タイタニック』のジェームズ・キャメロン監督が並々ならぬ情熱を注いで作り上げた惑星パンドラの世界を描くスペクタクル・ロマン。
 立体映像としての魅力もさることながら、綿密な科学考証で惑星ひとつを作り上げたと言ってもいい、その世界観が圧巻だ。
 キャメロン監督はその世界感を観客に疑似体験してもらうために“アバター”という舞台装置を用意した。

 『アバター』の主人公ジョイクは惑星パンドラの世界に踏み込むため、アバターという疑似の身体に文字通り身を預ける。その印象的な瞬間が、予告編の冒頭でも流れる、ジェイクが目を見開くどアップ・カットだ。

 『アバター』と『マイマイ新子と千年の魔法』、両方をご覧になった方ならお気づきのように、『マイマイ新子と千年の魔法』にも、そのジェイクとまったく同じ描写が存在する。
 これらの作品をまだご覧になっていない方からすると、昭和30年代の懐かしい田舎の情景を舞台に子どもたちの成長を描いた、と宣伝される『マイマイ新子と千年の魔法』と、未来の遥か遠い宇宙を舞台にしたSFアクション『アバター』に、こんな共通点があることを不思議に思われることだろう。
 しかし、この二つの作品にはこれに限らずいくつか共通点が見られる。それにはちゃんとわけがあり、両作品ともに“その世界観”の提示が作品の軸となっているからだ。

 アバター体となったジェイクは、惑星パンドラの地面を裸足の足でしっかりと踏みしめる。それは人間体のジェイクが、足が不自由という前提があっての描写だが、その設定自体が、未知の惑星で地に足の着いた感覚を観客に味わわせるために逆算された設定だろう。
 一方『マイマイ新子と千年の魔法』でも、裸足で歩く、あるいは走る描写が頻繁に登場する。それは都会から来た貴伊子がこの未知の地に馴染んでいく過程を象徴する。

 また、『マイマイ新子と千年の魔法』のクライマックス、煌めく天の川の下、ホタルの光が乱舞する幻想的なシーンは、『アバター』でのジェイクとナヴィ族のネイティリの出会いのシーン、闇の中で光り輝く“聖なる木の精”が舞う様を彷彿とさせる。
 二つのシーンに共通するのは、目には見えないけれど、忘れなければ“ここにいる”存在、あるいは世界を司る大いなる力が、自分たちを見守っているという世界観だ。

 どんな映画であっても、それぞれの作品には世界観というものがある。ただそれは、その作品における“前提”、あるいは“背景”として通常目立つことはない。
 しかし、遊園地のアトラクションのように「この星を体験する」ことが目的、と、明確に打ち出している『アバター』はそれ自体が作品の魅力となった。ただ“背景”が表立った結果の弊害として、この物語の訴える人間の横暴を憂うテーマが、なんとなく後付けな印象を受けることも否めない。

 一方『マイマイ新子と千年の魔法』は“時空を超越する”、その意味でSF的な世界観自体が、作品のテーマを代弁する。言い換えると、その世界観を観客に明示することが、テーマを明確にすることに直結している。だからこそ、この児童映画に於いても、『アバター』と同じような演出で、観客にこの特異な世界観を疑似体験させようとするのだ。

 ただ、そこで明示しなければならない世界観は惑星パンドラのような具体的なものではなく、宇宙観と呼ぶべき概念的なものゆえ、その表現も抽象的にならざるを得ない。そこがこの映画を難解にさせる要因とも言えよう。

 一般的にフィクションの世界で時間を超える舞台装置と言えばタイムマシンだろう。
 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン、『ドラえもん』の机の引き出しの中、『ターミネーター』の稲光。装置としての形は様々なれど、その背景には「時間は自在に行き来できる」というSF的世界観がある。
 そう言うと『ターミネーター』は過去へ向けた一方向じゃないかと反論されそうだが、それはこの作品の世界観に於ける科学技術がそこまでしか到達していないだけであって、「時間は自在に行き来できる」という前提には変わりない。
 現在の科学技術ではタイムマシンはフィクションであるが、一応科学的にも説明できなくはない、らしい。

 ただ、先ほど「時空を超越する」と書いたが、厳密には『マイマイ新子と千年の魔法』の世界観は時空を飛び越えているわけじゃない。同時進行的に“そこに存在する”重層的な世界観を成している。それゆえ、理屈でこれを理解しようとすると、その辺の並のSF以上の視点を必要とする。

 ここで、概念的なSFというキーワードで映画史を紐解くと、1968年に公開されたスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』を思い出す。この映画も公開当時、難解な映画と評されたそうだが、今ではサイエンス・フィクションとして解釈するとそれほど難しい映画じゃない。
 ものすごく端折って言えば、地球人より遥かに高度に進んだ科学技術を持つ宇宙人が人類の進化の道しるべを担っていた、っていうのがこの映画の世界観。
 神秘的な黒い直方体=モノリスも、なんだかわけのわからない物体だが、人類より遥かに高度な技術を持った文明が作った物だから、人類には理解できなくて当然なのだ。
 この映画には、それほどまで桁外れに進んだ科学技術を持つ宇宙人は、人類から見ると神のごとき存在となる、という主張が込められている。
 それを象徴的に見せたのが、“神の視点”と呼ばれるオープニングの、惑星直列を太陽系の外側から見た描写。

 『マイマイ新子と千年の魔法』に何度か登場する、防府の街=周防の国を見下ろす大俯瞰の描写に、「神様が人々の生活を見守っている」という“神の視点”を感じる人は少なくないだろう。
 実は「昭和30年と千年前が同時に“ここ”に存在する」この映画の世界観は、さらなる大俯瞰からの視点で捉えることで、SF的にも納得のいくものとなる。

 理論上、観測できる地球からもっとも遠い場所、すなわち宇宙の果ては、数百億光年先だそうだ。
 科学的に厳密なところは端折って、もの凄くおおざっぱに言ってしまうと、その数百億光年先の宇宙の果ては、光の速さで向かっても数百億年かかるぐらい遠く離れたところ、ということになる。
 裏を返すと、地球から観測できる宇宙の果てに見える光は、数百億年前の光ということであり、ならば、千年前の人々の姿は、まだほんの千光年先のところから観測できるということなのだ。
 この事実を宇宙の外側の“神の視点”から見ると、人類の歴史はおろか、地球誕生の時期ですら、すべては“ここ”に存在するという結論になる。

 いやいや、それが事実だとしても、千光年先の場所は“ここ”じゃない、と言うなら、こういう見方も出来る。
 厳密に言うと光も星の重力によって曲がってしまい、直進はできない。例えば周防の国を中心として放射線状に飛び立った光も、まっすぐ宇宙の果てに向かうことは実際にはありえない。
 あっちの星で曲がり、そっちの星で曲がった千年前の姿が、やがては最初のところに戻ってきてしまうことは充分考えられる。
 つまり「子どもの頃の父ちゃん」が見えたとしても何ら不思議はないのである。

 と、こんな千年の魔法も、ありやなしや。

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