« 【コラム】続・『マイマイ新子と千年の魔法』 on 阿佐ヶ谷~なぜか今夜もマイマイ新子 | メイン | 【お知らせ】『マイマイ新子と千年の魔法』報道スクラップブックを設けました »

2010年1 月21日 (木曜日)

【コラム】『マイマイ新子と千年の魔法』グリコのオマケを届けに来ました

 『マイマイ新子と千年の魔法』は鏡の中の新子の姿から始まる。“鏡”はしばしば映画の中で、二面性、表裏一体なもの、別世界を示すメタファーとして使われる。
 水の中に落ちた新子が水中から水面を見上げ、そこを走る「緑のコジロー」を“発見”する逸話も、違う視点からの着眼を象徴する。このときの新子の下半身が水の上に出ていることも、日常と非日常を繋ぐ新子の立ち位置を象徴している。

 このように、子どもたちの日常を淡々と描いているだけかのような『マイマイ新子と千年の魔法』の世界は、暗喩・象徴に満ちている。

 非日常な世界の象徴である“水の中”は、一面に広がる“麦の海”という比喩へ引き継がれる。
 この一見平凡な世界は非日常的なものに囲まれており、新子の家はそんな“海の上”に浮かんでいるのだ。

 新子は千年前の世界に住む想像上の女の子・諾子と友だちになりたいと望むが、児童心理学的に考えると、想像上の友だちとは、寂しさを紛らわすための“イマジナリー・フレンド”と捉えられる。
 しかし、この映画の中の新子に寂しさは微塵も感じられない。裏を返すと新子は、諾子を必要とはしていないのだ。

 新子の妹・光子のイマジナリー・フレンドであろうと考えられる、光子が大切にしているキューピーさんを新子が破壊するのも、新子自身がそういった存在を必要としていないことを暗に示しているのではないか。
 この映画の中で、そういった存在を真に求めているのは貴伊子の方。だからこそ、彼女には“見えた”。

 この映画『マイマイ新子と千年の魔法』は、田舎の女の子・新子と都会から来た女の子・貴伊子とのガール・ミーツ・ガール物語であると同時に、空想の世界に生きる女の子・新子と、すでに現実を知ってしまった女の子・貴伊子との出会いの物語でもある。
 幼くして母親を亡くした貴伊子はお盆に母親が帰ってこないことを知っている。それが彼女を少しだけ大人にさせてしまった。
 新子はそんな貴伊子を千年の魔法で子どもの世界に引き戻す。
 また新子は、大人の二面性という現実を知っているタツヨシも子どもの世界に引き戻す。空想の人であった新子が現実を知るという犠牲を払って。

 純粋で素直であるのは子どもの特権だ。一方大人は、表と裏の顔を使い分ける。
 いい人が裏では不道徳を働き、怖い人にも優しい一面はある。
 やがてはそういった大人の不思議を知ることになる新子も、貴伊子との出会いで自分自身もそれを身につけていく。

 この映画では新子から影響を受けた貴伊子の変化ばかりが目立つが、新子も貴伊子、タツヨシを通してささやかな成長を見せる。
 学校に香水なんか付けて行くんじゃなかったとつぶやく貴伊子に対し、新子は「そんなこと、ないよね」と言うが、内心は「そのとおり」だと思っている。が、それを素直には言えない。それは新子なりの心遣いから出た“ウソ”。
 千年の魔法に見切りを付け、ウソをついて家を飛び出した新子は、貴伊子を救うべく同じウソで彼女を迎えに行く。

 ガラスの棚にしまわれた実感のない母親の記憶は貴伊子を無理に大人にさせた。
 貴伊子が胸の内にしまった寂しさは、ガラスの扉に映るもう一人の貴伊子という二面性をもたらす。
 貴伊子が母親の面影をダブらせるひづる先生への思いは、捨てられた色紙であった金魚のひづるに投影され、その金魚もまたガラス瓶に自分の姿を映す。
 その遠回しに暗示された悲恋と死の影は現実のものとなり、貴伊子の秘めた寂しさを露わにする。
 貴伊子は「お父さんから聞いて知っているだけ」と嘆いたが、伝え聞かされることも幸福と知るのにそんなに時間はかからなかった。貴伊子の住む家も、“海の上”に浮かんでいると知っている彼女なのだから。ざぶーん、ざぶーん。

 貴伊子を救うのは、彼女が知らなかった母親の一面であり、新子の一言によって、それは貴伊子自身の中に遺されていることが示される。
 貴伊子の闇に灯された明かりが、かけがえのない宝物を照らした瞬間だ。

関連 - Relation

コメント (0)

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック (0)

この記事のトラックバックURL: ※承認制
http://www.typepad.com/services/trackback/6a0128762d7a9d970c012876f6988c970c

この記事へのトラックバック一覧: 【コラム】『マイマイ新子と千年の魔法』グリコのオマケを届けに来ました:

このページについて - About This Page

  •  『未完の映画評』は、映像業界で働く現役現場製作スタッフかみぃによる個人的な映画サイトです。
     “自戒としての映画批評”と銘打ち、映画館まで足を運んで観た劇場公開最新作の批評・感想・レビューをメインに、リアルタイムに進行する製作日誌、映画にとどまらない業界全般にまつわる雑談・裏話なども掲載しています。
     詳しくはこのサイトについてをご覧ください。

最近のコメント - Comments

2012年度 満足度評価 - Rating 2012

  • 2011年12月11日(日)~ 公開作品
  • ★★★★★ ≒ 溺愛
  • ★★★★☆ ≒ 秀逸
    | 最強のふたり | おおかみこどもの雨と雪 | アーティスト |
  • ★★★★ ≒ 満悦
    | 崖っぷちの男 | 捜査官X |
  • ★★★☆ ≒ 良好
    | 映画 ひみつのアッコちゃん | HOME 愛しの座敷わらし | バトルシップ | ドラゴン・タトゥーの女 |
  • ★★★ ≒ なかなか
    | トータル・リコール | 幸せへのキセキ | テルマエ・ロマエ | ももへの手紙 |
  • ★★☆ ≒ まあまあ
    | アベンジャーズ | ダークナイト ライジング | BRAVE HEARTS 海猿 | 臨場 劇場版 | 外事警察~その男に騙されるな | ブライズメイズ~史上最悪のウェディングプラン | ライアーゲーム-再生- | はやぶさ 遙かなる帰還 |
  • ★★ ≒ いまいち
    | エイトレンジャー | Another アナザー | ヘルタースケルター | ダーク・シャドウ |
  • ★☆ ≒ つまらん
    | Black&White/ブラック&ホワイト |
  • ★ ≒ ダメダメ
    | プロメテウス | 幸せの教室 |
  • ☆ ≒ ふざけんな
    |

最近のつぶやき - Twitter