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2010年2 月21日 (日曜日)

【コラム】『マイマイ新子と千年の魔法』今日も赤い靴はいてた女の子

 今日、19日土曜日に横浜ニューテアトルで片渕須直監督の舞台挨拶が行われました。
 『マイマイ新子と千年の魔法』をずっと追いかけられていて、先日の片渕監督のフランス行脚にも同行された、ほうふ日報の縄田記者も取材に来られていました。
 昨日に引き続いてフランスの映画祭でのエピソードに場内から笑いも起こる、楽しい舞台挨拶でしたよ。

 今までと違って簡単な質疑応答も行われて、片渕監督の幼少期のお話も聞けました。
 原作があるとはいえ、やはり作り手のそういった体験も反映されるのが映画です。
 また、昭和30年を舞台にはしているけれど、それにこだわりすぎないよう、Minako“mooki”Obataさんの“声”によるBGMを選曲したというお話も興味深かったです。

 横浜ニューテアトルではこれで2度目の鑑賞でしたが、ここは昔ながらの雰囲気を残した素朴な映画館です。
 まさに『マイマイ新子と千年の魔法』に出てくる一平の映画館のような懐かしい空間。
 そこで、2度3度とこの映画をご覧になっているリピーターの方へのお薦めは、映画の中の新子たちと同じ、スクリーンに向かって右側二列目の席に陣取って観ること。映画館のシーンになると「あれ!?あれー!?」っとニヤニヤできること請け合いです。
 はい、自分も今日はしっかりニヤニヤしてきましたとも(笑)

 さて、横浜といえば崎陽軒のシューマイ、ではなくて、「赤い靴はいてた女の子」。山下公園に「赤い靴はいてた女の子の像」がありますよね。
 そして映画『マイマイ新子と千年の魔法』で「赤い靴はいてた女の子」と言えば、島津貴伊子さん。

 貴伊子の赤い靴は、新子と一緒にハンモックで揺られているときや、ダム池の脇に揃えてあるのが印象的ですが、基本的に貴伊子は春はずっとこの赤い靴を履いています。
 ただ、三田尻駅に降り立つときの“よそいき”の格好のときは違うブラウンの靴でした。

 最近は“よそいき”という考え方が無くなったので若い人は知らないかもしれないけれど、自分が子どもの頃(1970年代)には“よそいきの服”っていうのがあったんですよ。
 要は“普段よりちょっといい格好”なんですが、別に結婚式とかの“およばれ”に限ったものじゃなくて、田舎のおばあちゃんちに行くときや、日帰り旅行に出掛けるときとかにも着させられました。
 そんなときにはよく「“よそいき”なんだから汚しちゃダメ」って言われたものです。

 逆に言うと、普段着は“汚して帰ってくるもの”、だったんですよね。わんぱく盛りの子どもですから。
 普段着は汚すばかりじゃなく、破れたり擦り切れたりして、母親の裁縫による膝当てや、継ぎ接ぎもいっぱいあった。
 そういうのって最近は無いのかなぁ。

 ところで、そんな“衣裳”に目を向けてこの映画を観ると、不思議なことに気がつきます。
 貴伊子登場時の“よそいきの服”を除き、新子も貴伊子も季節ごとにしか“衣裳替え”していないんですよね。
 “衣裳変え”とは業界用語で文字通り衣裳を替えることです。

 通常、日が変われば衣裳も替わる。“日替わり”(これも業界用語で「日が変わること」)を観客にわからせるのに一番手っ取り早い方法ですから。
 ところがこの『マイマイ新子と千年の魔法』では、小学校の制服はともかく、普段着が毎日同じ衣裳なんですよ。
 季節の変わり目だけは、制服が衣替えするのと同じように、普段着も衣替えしているんですが。

 いくら物的に裕福とは言えなかった時代とはいえ、毎日同じ服というのはあまりに不自然です。
 執拗に下調べして当時の地理や小道具を厳密に再現しているこの映画が、衣裳だけは手を抜いたなんてとうてい考えられない。
 となれば、そこに演出的な意図があると考えた方が良さそうです。

 思うに、千年前からずっと同じように見える川も、そこを流れる水は常に変わっている。「見た目は同じでも実際はそうじゃない毎日の移ろい」を表した表現という気がします。
 観客は見た目が変わらない衣裳に、“日替わり”していない錯覚に陥る。だけれども、衣替えで季節が変わったことは知る。
 そんな曖昧な時間の流れの積み重ねが、千年という“時”の隔たりを越えて、昭和30年と平安時代が重なり合うミラクルに行き着くわけです。

 ただ、ちょっと納得がいかないのは、こんなにも時代考証にこだわって、事実や原作の記述に忠実であろうとするこの映画が、こと日常的な衣裳に関して、衣裳替えをしないという誰の目にも不自然に映る、メタファーを優先した演出に走るだろうか?という疑念です。
 ひょっとしたら、この不自然な衣裳は、この映画にとって“事実”なのかもしれない。
 諾子や千古らの活躍する千年前の出来事は新子の空想から始まりますが、実は新子らの住む昭和30年の方が、あるいは昭和30年も、“空想の世界”なのではないか?
 そう考えた方がこの映画の制作スタンス的には合点がいってしまうのです。

 そこで思い当たるのが、諾子がのちの女流作家・清少納言であること。
 実はこの映画で描かれる昭和30年の世界は「清少納言の“創作”」ではないのか?
 そう考えると、映画の最初の方で、諾子が「わたしのところ“にも”、早く来て」と貴伊子を意識したと思わしきセリフをつぶやくのも、映画のラストが昭和31年の春ではなく平安時代で締められるのも、つじつまが合うと思いませんか?

 まあ、こう言ってしまうと新子だって、のちの原作者・高樹のぶ子さんなわけで、実際に原作小説『マイマイ新子』は、高樹さんの創作物として世に存在するわけです。
 ならば、清少納言と高樹のぶ子、二人の女流作家の創作がメビウスの輪のようにつながっている、とも考えられます。

 貴伊子の履いた赤い靴は、かくも不思議な異国へといざなってくれる。
 さて、実際はどうなんでしょう?

 ちなみに僕は、秋服の貴伊子ちゃんが好みです。

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コメント (2)

“衣裳替え”していないことで、僕は面白い感覚に陥りました。
1日をすごく長く感じたんです。
実際は別の日の出来事なのに、同じ日に起きたように感じていました。
でも、子供の頃って1日はあんな感じで長かったです。

◆silver_copperさん
なるほど、子どもの頃の長い一日っていう捉え方もできますね。
確かに、遊んでばっかいる新子たちにそんな感覚も感じましたわ。

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