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2010年3 月18日 (木曜日)

【コラム】『マイマイ新子と千年の魔法』残す力・伝える心~シエマ読み聞かせの会

 珠玉の傑作ながら一度は上映館の途絶えた映画『マイマイ新子と千年の魔法』でしたが、先週土曜日に上映の始まったシネマ・アンジェリカ(東京都渋谷区)を皮切りに、今週末の20日(土)からは、宝塚シネ・ピピア(兵庫県宝塚市)、THEATER CIEMA[シアター シエマ](佐賀県佐賀市)、長崎セントラル劇場(長崎県長崎市)でも公開が始まり、さらに以降、北海道、愛知、静岡、新潟と、全国規模で公開拡大の勢いを見せています。(詳しくは上映館リストを)

 世間的に話題になったヒット作ならいざ知らず、はっきり言ってしまえば当初の全国公開でコケた映画とは思えないしぶとさ。配給元の松竹も予想していなかった展開じゃないでしょうか。まさに“破竹”の勢い。
 この、よもやの半年におよぶロングランは、不遇の傑作に魅了されたファンたちの熱い応援、そういう映画ならうちで掛けてやるぞと手を挙げてくださった映画館関係者の方々の心意気の賜物でしょう。また、表立っては見えてきませんが、配給関係の方々による、このままでは終わらせないという尽力もあるのでしょう。ありがたいことです。

 今週末から上映の始まる佐賀のTHEATER CIEMA[シアター シエマ]では、3月20日の土曜日に、片渕須直監督、演出の香月邦夫氏による初日舞台挨拶が、また、渋谷・シネマ・アンジェリカの4月2日金曜日、最終上映終了後には片渕監督の御礼舞台挨拶が予定されていますよ。

 そしてまた、片渕監督のTwitterによると、先日防府で行われた「マイマイ新子探検隊」(GIGAZINEによるレポート記事)を、この夏にも開催したいと目論んでいるとのこと。
 もうこれとか、映画のPRって域を完全に越えて、この映画から波及した人々の交流そのものですよね。
 DVDやBlu-layへのソフト化などとは違う方向性で、この映画の唱えるメッセージ「明日も遊ぼうね」の着地点としては、これ以上ない結実のように思います。

 そんな状況の中で、ひとつ注目すべきイベントがあります。
 上映が決まった当初から気にはなっていたんですが、佐賀・THEATER CIEMA[シアター シエマ]で、3月26日金曜日の『マイマイ新子と千年の魔法』上映と併せて催される「シエマ読み聞かせの会」。
 これはいったいなんなんだ、と気になって、Twitterで「地元の方、情報くれ」と流してはみたものの、わかる方がいないのか、誰も興味がないのか、はたまた自分の人望の無さゆえか、まったくのノーリアクション(汗;
 やはり他力本願はいかんと自分で調べたら、どうもシアターシエマで定期的に行われている、絵本の朗読会らしいです。

 シアターシエマは、廃業した映画館をリニューアルして2007年12月に営業を再開した佐賀県唯一のミニシアター。
 廃業する前の「佐賀セントラル」も1985年開館だったとのことなので、戦後の映画全盛期を謳歌したような「古い映画館」というわけでもない。せいぜい角川映画が一世を風靡した後期の頃のスタートで、当時の言葉で言えば「ナウい映画館」だったんではなかろうか。
 しかし近郊に、1996年9月「ワーナー・マイカル・シネマズ上峰」が開業。さらに2001年4月には、より市街地に近い所に「イオンシネマ佐賀大和」も営業を始める。
 シネコン時代到来のあおりを受けた多数の老舗映画館同様、佐賀セントラルはじりじりと客数を減らし、末期には一日に一桁しか観客が来ないという日もあったようだ。
 2006年11月の「109シネマズ佐賀」開業がとどめを刺す形で、その日を待たずして佐賀セントラルは2006年9月3日、惜しまれつつも21年の歴史に幕を閉じる。

 佐賀県全域でも85万人程度の人口(これは横浜市の人口367万人の4分の1にも満たない)で、大規模なシネコンが複数しのぎを削る、さらに言えば、九州一の大都市、福岡にも一時間ほどで行けてしまう佐賀で映画館を経営するのがどんなにシビアなことかは、この地のシネコンの先駆けだったワーナー・マイカル・シネマズ上峰が今年2月末で閉館したことからも想像に難くないだろう。
 そんな激戦区でシアターシエマは、佐賀であまり上映されない単館系の良質な作品を上映するミニシアターとしてだけでなく、映画にとどまらない音楽や文学も含めた文化的な地域の交流の場、憩いの空間を標榜して復活した。

 その一環として、佐賀セントラル時代には三つあった上映ホールのひとつを改造し、映画を観なくても入場できるカフェやギャラリー、イベント・スペースを設けたそうだ。
 定例の「読み聞かせの会」のほか、コンサートやトークショーなども行われているらしい。

 そして今回の「『マイマイ新子と千年の魔法』上映+シエマ読み聞かせの会」。
 先に書いたように、「読み聞かせの会」は定例の絵本の朗読会で、直接『マイマイ新子と千年の魔法』を意識した催しではない。定例の会に、春休みイベントとして『マイマイ新子と千年の魔法』も併せて上映されるということらしい。
 この「読み聞かせの会」、絵本の朗読会ということだから、親子連れを意識しているようではあるが、それに限定されたものでもない。単身で傍聴される大人の方もいるとのこと。

 この会の趣旨は、その読み手の方々からも伺えよう。
 今回は、朝の部がモトアナママブさん、夕の部がピピンさん。

 モトアナママブさんは、長崎・佐賀・福岡を中心に活動されている元アナウンサーのママさんグループ。(公式ホームページ
 親子向けの朗読会、妊婦さんのためのマタニティ朗読会のほか、各種イベントにも参加されている。
 子育て中のお母さん、これからお母さんになられるプレママさんの心強い味方だ。

 ピピンさんは、正確には「子どもの本屋ピピン」と言って、佐賀市内にある絵本・児童書専門の本屋さん。(公式ホームページ
 しかし単なる書店ではなく、「子どもを取り巻く読書(文化)環境を整える」、「子育ての応援をする」を目標に掲げたNPO法人(特定非営利活動法人)として、「絵本の勉強会」や「すばなしの練習会」などの活動もされています。
 その設立の趣旨に述べられている、「ともすると、知育のためだけを目的に読書はなされますが、本の世界にたゆたう時間は生きる力も文化を大切に思う感情も育てます。子どもの豊かな成長を願い、文化の継承を考えるとき、子どもの本屋の必要性を強く感じ、ここに特定非営利活動法人子どもの本屋ピピンを設立します。」(公式ホームページ「子どもの本屋ピピンのおいたち」より)との宣言に、「児童映画」として製作された『マイマイ新子と千年の魔法』に通ずるものを感じるのは自分だけでしょうか。
 またシアターシエマ同様、この「子どもの本屋ピピン」も、20年以上続いた佐賀の子どもの本専門店「こすもす」の廃業を惜しむ有志たちによって復活を遂げた本屋さんというのが感慨深い。

 今、『マイマイ新子と千年の魔法』も、この映画を愛する人たちの支えによって、上映館拡大、さらなる続映という数字として残る形で復活しつつありますが、この「シエマ読み聞かせの会」とセットで上映される映画として選ばれたことは、これもソフト化などとは違う方向での、本来はこうあるべきという、もうひとつの着地点を感じました。
 片渕監督が「この映画は「児童映画」なるものを取り戻そうとする企みです」(劇場用パンフより)とおっしゃった元々の目的が、地方の小都市の小さな映画館で、一度はついえたものを復活させた人々の手によってひとつの実を結ぼうとしている。頼もしくも嬉しいことじゃありませんか。

『マイマイ新子と千年の魔法』上映+シエマ読み聞かせの会
【会場】
THEATER CIEMA[シアター シエマ]
 佐賀県佐賀市松原2-14-16 セントラルプラザ3F
 TEL:0952-27-5116
【日時】
来週 3月26日 金曜日
 朝の部が11:00から、『マイマイ新子と千年の魔法』上映前にモトアナママブさんによる読み聞かせ(上映自体は11:40から)
 夕の部は、16:00からの『マイマイ新子と千年の魔法』上映後、17:50よりピピンさんによる読み聞かせ
【料金】
大人1300円(通常料金1700円のところ、イベント特別料金として割引)
小学生1000円
小学生未満900円
【備考】
※いずれも電話による問い合わせにて確認済み。
・シアターシエマ公式サイトに「ご予約受付中」とありますが、事前申込なしに当日訪れても参加できます。
・「読み聞かせの会」には参加しなくても、通常通り映画のみの鑑賞も可能です。
・その場合も特別料金の1300円です。

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コメント (4)

はじめまして。「マイマイ新子」を知ってから訪問させてもらってます。

ツイッターは使い方が良く分からないので、そのような問いかけがあったとは
気付きませんでした。すみません。
とはいえ、シエマにはオープン当時に一度行ったきりでずいぶんご無沙汰なので
何も情報はお伝えできなかったのですが(どうもああいった小洒落た場所は
馴染めないもので・・・ただのアニヲタですから)。
地元の人間も知らないようなことまで調べていただいて申し訳ないです。

残念ながら26日には参加できませんが、20日の監督挨拶には
2回とも駆けつけます。
地方で最初に再上映に手を上げたのは佐賀ですものね。
監督も意気に感じてくれたんでしょう。ならば応えなければなりますまい。

◆3gouさん
はじめまして。
Twitterでの問いかけは、それでわかれば儲けものぐらいの気持ちだったので、気にしないでください(汗;
実際に自分で調べ始めたら、その作業自体、結構面白かったですし。
20日は自分は赴けませんが、東京から監督らスタッフ以外に、ファンも駆けつけるようですから、ぜひぜひ盛り上げてください。
遠方から指をくわえて羨ましがらせてもらいます。

いってきました舞台挨拶。

来佐されたのは片渕監督のほか、プロデューサーの松尾さんと演出の香月さん。
香月さんは佐賀の出身で、松尾さんは佐賀大学だったそうで
学生時代にはシエマの前身の旧佐賀セントラルその場所で
バイトされていたそうです。
そして片渕監督の父方のご実家が佐賀県西部の杵島郡旧有明町(現白石町)に
現在もお米屋さんを営まれているそうで、もっとも監督は佐賀に来られたのは
4歳の時以来45年ぶりだそうです。佐賀の記憶はほとんど無いそうですが、
どこまでも続く稲(麦かもだとか)の「海」や言葉が通じないことの不安感が
印象に残っており、新子にもその影響が残っているかもしれないとか。
防府には現在麦畑がほとんど残っておらず、そのイメージを埼玉の方で
ロケハンされたのですが香月さんに見せていただいた佐賀の麦畑の写真も
参考にされたということです。

その他フランスで上映した時のエピソードやサントラCDがなぜAVEXから
出ていないのか?(音響監督の村井さんが直接インディーズのような形で
作成されたとか)等といったエピソード。
フランスの人たちに昭和30年代の防府がわかるかどうか悩んだ監督は
「TVが無い時代の話です」と説明。上映後「TVは発明されたんでしょうか?」
と質問を返されたそうです。縁側で新子が読んでいる鉄腕アトムみたいな
漫画が後にTVアニメとなって今に至る、なんだか因縁を感じたとか。

そんな話で一回目の舞台挨拶は終了。

二回目は、上記の佐賀ゆかりの紹介を述べた後、原作には無い千年前の話を
なぜ描いたかという話から。原作にはわずかにお爺さんから千年前のことに
触れられているが具体的なエピソードは無い、そこで千年前の平安時代を
調べ始めたところ千年前の防府に清原元輔がいたことから、清少納言が防府に
来ていたかもしれない。そして新子と同じくらいの年だったかも。
後に長じて中宮定子の話し相手となった清少納言は、
枕草子によると他人を楽しませることが好きな人だったらしい、
ならば新子にも似ているのではないか?原作者の高樹のぶ子さんにも
同意していただき千年の魔法のエピソードとなった。

また演出の香月さんは、今回参考にしたのが昔の松竹映画「張り込み」だった
ことを披露(佐賀を舞台にした松本清張の原作で、昭和30年代の佐賀の風景が
映っている。今回のシエマのすぐ近所がロケ地です)。
監督も、主人公の刑事が東京から佐賀へ蒸気機関車で山陽本線を下ってくる
風景が貴伊子が防府へ来る時のイメージの参考になったとか。
また、往時の佐賀と防府は良く似ていたのではないかと思ったそうです。

そして主題歌の話。実は監督が作詞をしたそうですが、
その際に枕草子を参照にしたこと。EDの画面に雀の子など出てくるのも
その為らしいのですが、分かりにくいので最後まで演出とは揉めたそうです。
防府出身の山崎まさよしさんに主題歌を依頼した方が売れるだろうし、
レコード会社からも圧力wがあったそうですが、監督がコトリンゴさんに
決めたそうです。

最後に「劇中で『もっと遊ぼうよ』という台詞があるが、皆さんもこの映画で
もっと遊んでください」との監督の言葉で2回目の舞台挨拶も終了しました。

帰り際にA4と大き目サイズのアートカードをいただき、
プログラムともども監督にサインをしてもらいました。

◆3gouさん
 詳細な報告ありがとうございます。
 とりあえず初日は満席だったようで、なによりです。
 とても充実した舞台挨拶だったみたいですね。あー、行きたかった。

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