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2010年4 月19日 (月曜日)

【映画評】第9地区 (2009)

もしも宇宙人が難民だったら。

【満足度:★★★☆】 (鑑賞日:2010/04/12)

 今年の米アカデミー賞で作品賞ほか4部門にノミネートされた話題のSF映画。
 宇宙人を難民化させたアイデアは秀逸。ただもうひとひねり欲しかった。

 1982年、突如南アフリカ共和国上空に宇宙人の乗った巨大宇宙船が現れる。
 その目的は不明。そこにいた多数のエイリアンたちは傍若無人に振る舞うが、宇宙船は移動をしたくてもできないらしい。
 人類側もどうすることもできず、宇宙船の真下に難民と化したエイリアンたちの居住区を設けることになる。そこは第9地区と呼ばれた。
 それから数十年が過ぎたが、一向にエイリアンたちが立ち去る気配はなく、不潔なエイリアンと彼らを「エビ」と呼んで蔑む周辺市民との軋轢は限界に達していた。
 そのため政府はエイリアンたちを都市から離れた第10地区に移住させることを決定。それを民間軍事企業MNUに委託する。
 MNUでこのプロジェクトのリーダーに任命されたヴィカス・ファン・デ・メルヴェ(シャルト・コプリー)は、意気揚々と「エビ」たちから移住承諾のサインを集め始めるが、それは形ばかりのいい加減なものだった。
 エイリアンの住むバラックを調べていた折り、ヴィカスは謎の黒い液体を浴びるアクシデントに見舞われ、それが原因で彼の身体がエイリアン化し始める…。

 冒頭から流行の記録カメラのPOV(Point of View、主観ショット)を多用したドキュメンタリータッチのテンポのよい演出でこの作品の世界観を一気に見せる。
 馴染みのない役者陣ということもあって、まさに記録映画の様相で先を予想させない。

 この映画が良質なSFであることは、つまらないうんちくを一切排除し、わからないことはわからないと割り切って観客の想像にゆだねていることからも伺える。
 それでいて、「宇宙人の難民化」という一発ネタといっていいこのアイデアを、差別問題を扱った社会派映画にまで昇華させた煮つめも怠らない。

 ヴィカスはヒーローではない。ありきたりの小市民だ。
 人間の醜さも内包した平凡さが、より差別問題の根深さを浮かび上がらせる。

 とは言うものの、そんな小難しい映画ではなく、あくまでエンターテイメントに徹したバランス感覚も素晴らしい。
 社会的な裏付けがあっての、SF的お遊び映画。お遊びっていうのは、むろんいい意味で。

 そんなわけで、エイリアン相手に差別する側のヴィカスが被差別側に転じる中盤まではワクワクさせられた。
 もちろん、映画の中での差別的な行いは観ていて楽しいもんではないのだが、次はどんなアイデアを見せてくれるんだろうという映画的、SF的期待感に胸が高鳴るのだ。

 しかし、その期待は終盤に向けて落胆に変わる。
 普通のSFアクションとしてはなかなか見応えのあるクライマックスなんだが、前半の才知に満ちたセンス・オブ・ワンダーに比べると、少々平凡な落としどころという感が否めない。
 ただ、唯一その終盤で巧いと感じたのは、最終的な結末を、やはり観客の想像にゆだねて終わったこと。

 この映画の結末は、映画の中での決着だけ見ればかなり悲劇的と言えよう。
 ヴィカスがエイリアン化していく様から、懐かしいSFホラー『ザ・フライ』(1986年、監督:デヴィッド・クローネンバーグ)を思い出した。
 この映画は救いのない絶望的な結末だったが、『第9地区』でのヴィカスもそれに匹敵する結末へ向かう。
 しかし、最終的な決着を観客にゆだねたことで、ただの悲劇で終わらせなかった。
 その猶予が与えるのは一抹の希望か、果てしない絶望か。

 ヴィカスは思いとどまった。
 その結果として行き着いた末路と、与えられた時間。
 そこに具体的な時間が示されたことに意味がある。すなわち、いずれその日が来るということ。
 それは言うなれば「審判の日」。

 ヴィカスに残されたのは、交わされた約束への希望なんて生ぬるいものじゃない。
 非道な人間に残された赦しの時間。
 この映画の結末は、贖罪の始まりなのだ。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】シャルト・コプリー/デヴィッド・ジェームズ/ジェイソン・コープ/ヴァネッサ・ハイウッド
  • 【監督】ニール・ブロムカンプ
  • 【脚本】ニール・ブロムカンプ/テリー・タッチェル
  • 【製作】ピーター・ジャクソン/キャロリン・カニンガム
  • 【共同製作】フィリッパ・ボウエン
  • 【製作総指揮】ビル・ブロック/ケン・カミンズ
  • 【共同製作総指揮】ポール・ハンソン/エリオット・ファーワーダ
  • 【撮影監督】トレント・オパロック
  • 【美術監督】フィリップ・アイヴィ
  • 【編集】ジュリアン・クラーク
  • 【音楽】クリントン・ショーター
  • 【音楽監修】ミッシェル・ベンルチャー
  • 【配給】ワーナー・ブラザース映画/ギャガ
  • 【共同配給】ヒューマックスシネマ
  • 【原題】District 9
  • 【字幕翻訳】松浦美奈
  • 【日本公開】2010年
  • 【製作年】2009年
  • 【製作国】アメリカ
  • 【上映時間】111分

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