« 【お知らせ】リニューアルしました | メイン | 【コラム】『マイマイ新子と千年の魔法』もうすぐ大人が童心に帰る夜、まだまだ間に合うマイマイオールナイト »

2010年6 月10日 (木曜日)

【映画評】春との旅 (2010)

老いた元漁師が孫娘・春と共に人生最後の居場所を求めて親類縁者を訊ね巡る、人生を見つめる旅路。

【満足度:★★★★☆】 (鑑賞日:2010/06/08)

 国際的にも評価の高い小林政広監督のオリジナル脚本による人生賛歌。ただ筆者は、小林監督作品は初見。
 名優たちの素晴らしい演技とともに、スクリーンからみなぎる映画らしい見応えある演出も一見の価値あり。

 まだ寒い北海道の四月。
 ひなびた漁場の年老いた元漁師・忠男(仲代達矢)は憤慨した様子で家を飛び出す。困惑しながらそれを追う19歳の孫娘・春(徳永えり)。
 片足が不自由で漁ができなくなった忠男。彼の面倒をみていた春も職を失った。
 忠男は春を自由にさせるべく、生活が立ちゆかなくなった自分を引き取ってもらおうと、疎遠だった姉兄弟の家を訊ね歩くのだが…。

 お話としては、わがままで頑固者の老漁師が孫娘と一緒に親類縁者を訪ねて廻るだけの、ペーソス溢れる素朴なロードムービー。
 それぞれの家庭を通して、過疎や不況が影を落とす兄弟の確執、かけがえのない家族のつながりが丁寧に描かれる。

 望遠レンズで捉えられたいきなり家を飛び出すセリフのない冒頭に始まり、名優・仲代達矢と対等に渡り合うまだ若い徳永えり、最初に訪れた先の兄・重男を演じる大滝秀治と仲代達矢の長回し撮影の長ゼリフ、と、緊張感に満ちた画面にしょっぱなから引き込まれた。
 ときに可笑しくもある市井の人々の生きる姿を優しい視点で拾いながらも、この心地いい緊張感は最後の一瞬まで途切れることがなかった。

 映画の中での個々の出会いと別れには大仕掛けなドラマがあるわけじゃない。大変でも辛くても、それでも生きていくことへの真摯なまなざしが、やがて感情のうねりとなって大きな感動を呼ぶ。

 訪れる先の家庭はいずれも何かしら問題を抱えている。それは老いの問題だったり、不景気だったり、不器用な生き方だったり。しかし皆、今を生きることに前向きだ。
 身勝手に生きてきた忠男を軽くあしらいはしても、厳しさと同時に優しさも忘れない。
 オルゴールの音色のような飾りっ気のない人間ドラマが心に響く。

 忠男と春が最後の訪問先のあとに見せた軽やかな歩み。
 忠男が見つけた人生の終着駅、春が選んだ人生の門出。

 この映画を観ると、離れて暮らす家族、疎遠になった人たちに想いをはせずにおれない。
 家族、そして人と人との絆の大切さを説いた秀作だ。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】仲代達矢/徳永えり/大滝秀治/菅井きん/小林薫/田中裕子/淡島千景/山本哲也/長尾奈奈/柄本明/美保純/戸田菜穂/香川照之
  • 【原作/脚本/監督】小林政広
  • 【エグゼクティブプロデューサー】與田尚志
  • 【プロデューサー】紀伊宗之/小林直子
  • 【アソシエイトプロデューサー】脇田さくら/小林政広
  • 【制作担当】川瀬準也
  • 【アシスタントプロデューサー】萩原直人
  • 【音楽】佐久間順平
  • 【撮影監督】高間賢治(JSC)
  • 【照明】上保正道
  • 【美術】山崎輝
  • 【録音】福田伸
  • 【編集】金子尚樹
  • 【助監督】石田和彦
  • 【音響効果】瀬谷満
  • 【装飾】鈴木隆之
  • 【衣装】宮本まさ江
  • 【ヘアメイク】小沼みどり
  • 【制作主任】棚瀬雅俊
  • 【タイトルデザイン】山田英二
  • 【小道具】細谷恵子
  • 【製作】『春との旅』フィルムパートナーズ(ラテルナ/東映ビデオ/アスミック・エース エンタテインメント/毎日新聞社/札幌駅総合開発/北海道新聞社)
  • 【制作】ラテルナ/モンキータウンプロダクション
  • 【配給】ティ・ジョイ/アスミック・エース
  • 【宣伝協力】フレスコ・エンタテインメント
  • 【日本公開】2010年
  • 【製作年】2010年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】134分

コメント (0)

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック (15)

この記事のトラックバックURL: ※承認制
http://www.typepad.com/services/trackback/6a0128762d7a9d970c013483b52006970c

この記事へのトラックバック一覧: 【映画評】春との旅:

» 『春との旅』'10・日 (虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映...)
あらすじある日、突然、ひとりの老人が家を捨てた。孫娘、春があとを追った・・・。解説ロカルノ国際映画祭4冠の『愛の予感』や『歩く、人』の小林政広が監督脚本を務め、毎日映画... [続きを読む]

» 【映画】春との旅 (【@らんだむレビューなう!】 Multi Culture Review Blog)
『春との旅』(2010年・監督:小林政広) 『愛の予感』(2007年・ロカルノ国際映画祭グランプリ)で、ワタシたちに衝撃を与えた小林政広監督の最新作。 その『愛の~』では、中学生によ [続きを読む]

» mini review 11521「春との旅」★★★★★★★☆☆☆ (サーカスな日々)
足が不自由な元漁師の祖父と仕事を失った18歳の孫娘が、疎遠だった親族を訪ね歩く旅に出る姿を描いたヒューマンドラマ。『愛の予感』などで国際的にも高い評価を受ける小林政広監督の8年越しの企画となる作品で、高齢者問題を切り口に生きることの意味を問いかける。主演...... [続きを読む]

» դȤι (to Heart)
ҤȤϷͤȤΤƤ ¹̼դ Ȥɤäġ ǯ 2009ǯ ǻ 134ʬ б ã/... [続きを読む]

» ■映画『春との旅』 (Viva La Vida! <ライターCheese の映画やもろもろ>)
仲代達矢、大滝秀治、淡島千景といった日本を代表する往年の名優たちが素晴らしい演技を見せる映画『春との旅』。 死ぬまでの人生を、誰と、どう生きるか…。 高齢化社会となるこれからの日本で、多くの人がこれから体験するであろう問題を、真っ向から描いた力作です。 動... [続きを読む]

» 【映画】春との旅 (新!やさぐれ日記)
▼動機 キャストと予告編を見て ▼感想 今年になって初めて映画を観たと思った ▼満足度 ★★★★★★★ まんぞく ▼あらすじ 足の不自由な元漁師の忠男(仲代達矢)と仕事を失った18歳の孫娘・春(徳永えり)は、忠男の生活の面倒を見てもらおうと疎遠だった親類縁者を訪ね歩く旅に出る。親族との気まずい再会を経るうちに、忠男はこれまで避けてきた過去と向き合わざるを得なくなる。そんな祖父の葛藤(かっとう)を間近に見ていた春にも、ある感情が芽生えていく。 ▼コメント 予告編の段階からこの映画... [続きを読む]

» 春との旅 (映画的・絵画的・音楽的)
 『春との旅』を吉祥寺バウスシアターで見てきました。  実は、公開直後に同じ映画館に出向いたのですが、同時に「爆音映画祭」を開催していて音漏れがありますなどと言われてしまったので、見るのを遅らせたものです。  実際のところも、実に静かでしっとりとした作品ですから、音漏れのない環境で見ることができてよかったと思いました。 (1)さて、映画の方ですが、出演者には名だたる俳優が目白押しといった感じで、それだけでも十分に見ごたえがあります。主人公・忠男は仲代達也、その兄弟に大滝秀治と柄本明、姉に淡島千景... [続きを読む]

» 「春との旅」:亀沢四丁目バス停付近の会話 (【映画がはねたら、都バスに乗って】)
{/kaeru_en4/}家庭センターかあ。一緒に暮らすことを兄弟に拒否された老人の相談にも乗ってくれるのかなあ。 {/hiyo_en2/}ここは、子どもに関する相談に乗るところみたいよ。 {/kaeru_en4/}じゃあ、「春との旅」に出てくるような老人は、身の振り方をどこに相談すればいんだ? {/hiyo_en2/}小林政広監督の「春との旅」は、19歳の孫娘と北海道の漁村で暮らす老人が、孫娘を独り立ちさせるために、自分は兄弟のところに身を寄せようと道内や東北を回るが、行く先々で煙たがられるとい... [続きを読む]

» 春との旅 (ゴリラも寄り道)
<<ストーリー>>足の不自由な元漁師の忠男(仲代達矢)と仕事を失った18歳の孫娘・春(徳永えり)は、忠男の生活の面倒を見てもらおうと... [続きを読む]

» 『春との旅』 手帳の住所は正しいか? (映画のブログ)
 【ネタバレ注意】  観客の年齢層は高かった。  老人が自分の居場所を探す『春との旅』について、読売新聞では「頑固老人と家族の絆」... [続きを読む]

» 春との旅 (とりあえず、コメントです)
北海道から東北を舞台に、祖父と孫娘の居場所を探す旅を描いた作品です。 チラシの写真がとても印象的で、観てみたいなあと思っていました。 主人公の二人や彼らが訪ねる人々の人生がとても切なく感じる物語でした。 ... [続きを読む]

» 「春との旅」 (お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法 )
2010年・日本:ティ・ジョイ=アスミック・エース配給原作・脚本・監督:小林 政広 「バッシング」(05)、「愛の予感」(07)で知られる小林政広監督が、10年前から企画を温め、8年かけて脚本を仕上げ... [続きを読む]

» 春との旅 (映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子公式HP)
海外の映画祭でも評価が高い小林政広監督の新作は、祖父と孫が一緒に旅をするロードムービーだ。北海道に住む、元漁師の忠男は、失業したため東京に働きに出ると言う18歳の孫娘・春と共に親族を訪ねる旅に出る。目的は忠男の生活の面倒を見てもらうこと。二人は今まで疎遠だ....... [続きを読む]

» 『春との旅』 (京の昼寝〜♪)
□作品オフィシャルサイト 「春との旅」□監督・原作・脚本 小林政広 □キャスト 仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、菅井きん、小林 薫、田中裕子、淡島千景、柄本 明、美保 純、戸田菜穂、香川照之■鑑賞日 5月29日(土)■劇場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★★☆(5★満点、☆は0.5)<感想> 人は、生きていく過程において、他人にかけた苦労や迷惑は、どんな誠意を持ってしても、許されるものではない。 ただ、同じ血が通う人間同士としては、親子兄弟の垣根を超えて、言葉にできない歩み寄りを持つ心は存在... [続きを読む]

» 春との旅・・・・・評価額1700円 (ノラネコの呑んで観るシネマ)
頑固爺さんと孫娘の旅を描くロードムービー。 終の棲家を探す淡々とした描写の中に、人間たちの絆と、社会全体の老いという日本社会にのしか... [続きを読む]

このページについて - About This Page

  •  『未完の映画評』は、映像業界で働く現役現場製作スタッフかみぃによる個人的な映画サイトです。
     “自戒としての映画批評”と銘打ち、映画館まで足を運んで観た劇場公開最新作の批評・感想・レビューをメインに、リアルタイムに進行する製作日誌、映画にとどまらない業界全般にまつわる雑談・裏話なども掲載しています。
     詳しくはこのサイトについてをご覧ください。

最近のコメント - Comments

2012年度 満足度評価 - Rating 2012

  • 2011年12月11日(日)~ 公開作品
  • ★★★★★ ≒ 溺愛
  • ★★★★☆ ≒ 秀逸
    | 最強のふたり | おおかみこどもの雨と雪 | アーティスト |
  • ★★★★ ≒ 満悦
    | 崖っぷちの男 | 捜査官X |
  • ★★★☆ ≒ 良好
    | 映画 ひみつのアッコちゃん | HOME 愛しの座敷わらし | バトルシップ | ドラゴン・タトゥーの女 |
  • ★★★ ≒ なかなか
    | トータル・リコール | 幸せへのキセキ | テルマエ・ロマエ | ももへの手紙 |
  • ★★☆ ≒ まあまあ
    | アベンジャーズ | ダークナイト ライジング | BRAVE HEARTS 海猿 | 臨場 劇場版 | 外事警察~その男に騙されるな | ブライズメイズ~史上最悪のウェディングプラン | ライアーゲーム-再生- | はやぶさ 遙かなる帰還 |
  • ★★ ≒ いまいち
    | エイトレンジャー | Another アナザー | ヘルタースケルター | ダーク・シャドウ |
  • ★☆ ≒ つまらん
    | Black&White/ブラック&ホワイト |
  • ★ ≒ ダメダメ
    | プロメテウス | 幸せの教室 |
  • ☆ ≒ ふざけんな
    |

最近のつぶやき - Twitter