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2010年6 月25日 (金曜日)

【コラム】『マイマイ新子と千年の魔法』七日七晩輝いて~下松かなえの松

 ロングラン上映が続いた『マイマイ新子と千年の魔法』(公式サイト)も、通常上映は7月2日(金)まで上映中の川越スカラ座を残すのみとなりました。
 ただし第16回宮崎映画祭の上映作品として、7月4、5、7、9日に宮崎キネマ館で上映されますのでこちらもお忘れ無く。
 いずれにせよ、一ヶ月後の7月23日(金)には待望のDVDも発売されますし、映画館で観られる機会はひとまずこれらで最後になりそうです。


《2010/06/25 14:50追記》
と、この記事をUPした直後に、またまたあのラピュタ阿佐ヶ谷で、7月17日(土)~23日(金)にレイトショー上映されるらしい、という非公式情報を見つけてしまった。公式発表を待て!

 そこでちょっと個人的に原点を振り返ってみたくなりました。
 今でこそ半年以上のロングラン上映が続き、AmazonのDVD予約ランキングでも一時ベスト5に入るほどの勢いも見せる話題作となりましたが、自分にとって『マイマイ新子と千年の魔法』って、昨年暮れのガラガラの客席に通った新宿ピカデリーが忘れられないんですよね。

 初めて観た12月2日(水)こそレディースディで女性を中心に結構お客さんも入っていた印象でしたが、その次に観た4日(金)以降は115席のスクリーン10に、いつも10人前後のお客さんだったと思います。少ないときには4~5人程だった気が。
 でもいよいよ上映の最終週、目に見えて状況が変わっていきました。上映時間は朝9:40からの一日一回こっきりになったのに、お客さんが明らかに増えていた。最終日の17日(木)にはスクリーン8の157席の8割方は埋まっていたんじゃないでしょうか。
 最後の上映を終えて席を立つと、廊下には関係者と思わしき方たちが何人もいらしてた。こんないい映画なのにガラガラって状況が哀しく、ただ一席でも埋めたいとの独りよがりな思いもあって通い詰めていたのですが、あのときは「関係者もこの状況を気にしてたんだ」って、当然といえば当然のことに妙に感心したものです。
 その後のラピュタ阿佐ヶ谷での伝説的なレイトショー「大人のためのマイマイ・ナイト」には事情があって行っていません。連日満員札止めの状況を伝え聞くに、自分の知っている『マイマイ新子と千年の魔法』とは違う映画の話かと思うほどの盛況ぶりにただただ驚くほかなかったです。
 新宿ピカデリーでの最終週にもその片鱗は見えていましたが、あの輝ける成果こそがその後の快進撃の口火を切ったことは疑いようもない事実でしょう。

 閑話休題。思い出話はこのぐらいにして、映画の話。

 地元も団結して山口県防府市を舞台にした御当地映画と大々的にアピールされたこの『マイマイ新子と千年の魔法』。
 自分に防府との接点があったことは何度か触れたと思うけど、もう一つ個人的に絶対に外せないエピソードが、劇中で多々良権周防介の口から語られる流れ星の伝説。
 この映画の初見時、最初に書いた映画評ですでに述べているのだけれど、自分にとっては防府市から少し東の、山口県下松(くだまつ)市の“星の降りた松”伝説をモチーフとしたこのエピソードこそがこの映画への溺愛を決定的にしたわけですよ。

 映画の中で語られる流れ星のエピソードが下松由来のものであることは劇場用パンフレットでも、

ロケハン雑記(劇場用パンフレット14頁より)
「防府の風景を再現する」
●映画の中で多々良山の向こうに落ちた流れ星は、西暦595年、山口県下松市に降ったといわれている流れ星がモチーフになっている。この星は松の木の枝にかかって7日7晩輝き続け、この星を目指して百済から渡って来た琳聖太子が多々良氏の祖先となった、という伝説がある。

とはっきり言及されている。
 にもかかわらず、Twitterやあちこちのブログでのマイマイ談義を読む限り、防府の数々のロケ地や、新子の家の参考にされた昭和のくらし博物館、貴伊子の社宅のモデルとなった江戸東京たてもの園の「田園調布の家」などは目にするのに、こと下松の伝説のことはまるで目にしたことがない。
 下松市にあるMOVIX周南でも、山口県限定先行上映含め全国的に見たら結構長い期間上映していたんだから、相当数の市民が観ていらっしゃるはずなんだけど、「防府の映画」という前提もあってかこのエピソードの御当地・下松の方はあんまり気にとめられなかったのだろうか。
 自分はたまたまこの伝説を知っていたのですぐ下松に思い至り、ただ、もしかしたら防府市にも同じような伝説があるのかもという可能性も否定できなかったから、初見時にパンフを買って真っ先に確認したのがこの流れ星の件でした。

 そんなわけで、自分の原点を振り返る意味でも、この下松の“星の降りた松”伝説について改めて調べてみた。
 で、僕の手元になぜか昭和55年(1980年)初版発行、昭和63年(1988年)一部改訂再発行の『下松市の民話・伝説と民謡』(下松市教育委員会編集・発行)なんて古い書籍がある。
 実はこのロマンティックな伝説のことはもうずっと以前から気に入っていて、記憶が確かなら平成7年の夏に地元広島に帰郷した折、そのために下松まで足を延ばしてこの本を購入した。地元に行けばまだあるのかな?ひょっとしたら今はもう古本屋でしか手に入らないかも。
 ただ自分の持っているこの本も恥ずかしながら保管状態が最悪で、表紙とか結構ボロボロだったりするのだが。

 それはさておき、A5版全168頁のこの本には、57編の下松市に伝わる民話・伝説、33曲の民謡・わらべ唄などが収められている。
 そして冒頭の伝説3編が下松の地名の由来となった“星の降りた松”にまつわるものなので、ちょっと長くなるがそれを紹介しよう。

下松市の民話・伝説(『下松市の民話・伝説と民謡』12~14頁より)
1 下松の地名のおこり(下松地区)
 今からおよそ一三〇〇余年前には、今の下松を青柳浦(あおやぎのうら)とよんでいた。時の天皇は推古(すいこ)女帝で聖徳太子が攝政(せっしょう)であった。下松妙見さまの旧記によると、この天皇の三年(五九五)九月十八日、都濃郡鷲頭庄(つのぐんわしずのしょう)青柳浦の松の木(下松駅北のかなえの松)の上に、大きな星がおりて、七日七夜の間目もくらむばかりに光り輝いた。里の人びとは、「これはただごとではない。」と恐れおののいた。その時、占いをする人に神のお告げがあって、「われは北辰(ほくしん)の精である。今より三年の後、百済(くだら)の国の王子がこの国を慕って来朝されるので、その守護の為、ここに天降ったのである。」と告げた。神を祭ることを生活の中心としていた里の人びとは、いそいで社を建ててその星を祭り、土地の役人はこれを天皇に伝えたという。そこで、北辰の精が松の木に降ったというので、青柳浦を降松と改め、その後、今の下松と書くようになったといわれている。
 この百済の国の王子を琳聖(りんしょう)太子といい、大内氏はその子孫と伝えられている。ちなみに大内氏では、この北辰の降ったのを、推古天皇の十七年(六〇九)としている。

2 妙見(みょうけん)さまの星まつり(下松地区)
 推古天皇の御代に、青柳浦の松の木、七星の降臨があった三年の後、その予言の通り来朝した百済(くだら)の琳聖太子(りんしょうたいし)は、里びとのお祭りしたお社を、桂木(かつらぎ)山(宮の州(す))にうつし、百済から持ってきた北辰尊星(ほくしんそんせい)の神体をまつり、太子みずから星供養をした。これが日本における星まつりのはじめといわれる。今でも、下松の妙見宮では、毎年この星まつりが盛大に行われ、遠近からの善男、善女でにぎわっている。
 この妙見菩薩は、別名、北斗菩薩尊星王ともいわれ、北斗七星を神格化したもので、これを念ずれば、国土を守り、災いをとり除き、平和を招き、人々に長寿、延命、福徳をもたらす霊験があると信じられている。

3 かなえの松(下松地区)
 下松駅の北口、北斗町の町中に立っている一本松を、「かなえの松」という。下松発祥の伝統を秘めた七星降臨の松といわれ、その木の下に、降臨の星を祭ったという金輪社(かなわしゃ)がある。松の木のそばには、「下松発祥の地 七星降臨鼎(かなえ)の松」という、自然石の大きな石碑が建てられている。むかしここに、三株の大きな松の木があって、鼎の足の形になっていたので鼎松といい、これに七星が降臨したということである。

 『下松市の民話・伝説と民謡』から引用した文中にもあるように、この流れ星が降りたという“かなえの松”(の子孫)は現存していて、下松市観光協会のホームページにも写真が掲載してあります。ただし、現存するかなえの松の子孫は写真にある一株だけじゃなくて、何世代かの株が市内のあちこちに移植されているようです。
 千年前の諾子が思いをはせた、それからさらに数百年前の流れ星の生き証人が、時代を超えて今なお生き続けている。なんという歴史ロマンでしょう。

 ところで、下松市観光協会のホームページにもありますが、下松の地名の由来は、この伝説から伝わる「降松」とは別に、「百済津(くだらつ)」からだという説もあるようです。

 また補足説明で、「3 かなえの松」で言われている「鼎の足の形」ってどんな形だかわかりますか?歴史に疎い自分はわかりませんでした。
 調べるとWikipediaにの写真がありました。見れば、ああこれか、ってわかると思います。

 星の予言通り百済からやって来た琳聖太子の子孫が、下松の伝説では「大内氏」となっているのですが、映画のパンフでは「多々良氏」となっています。
 これはどちらも間違いではなく、飛鳥時代に百済から来た琳聖太子が日本に帰化して名乗った姓が多々良、すなわち映画では平安時代の多々良権周防介にとってのご先祖様で、さらにその末裔が南北朝時代以降にこの地方で一大勢力となる大内氏だとされているのだそうです。

 さて、ここまでこの伝説に関して防府の地名が出てきません。
 映画は単に、防府のご近所、下松のこの伝説をアイデアとしていただいただけなのでしょうか?
 いえ、もう少し調べてみると、ちゃんと繋がりがありました。琳聖太子が多々良を名乗ったのも偶然ではないようです。

 防府市教育委員会文化財課の運営する防府Web歴史館というサイトの用語辞典で「琳聖太子」を検索するとそのヒントが出てきました。
 ※参考:同じデータですがWeblio辞書の方が見やすいです「琳聖太子とは - 日本史辞典 Weblio辞書
 三陸書房のサイトにある、末兼正純氏によるコラムも参考になります。

 なんと、かの聖徳太子に謁見するために百済から海を越えて来た琳聖太子一行が立ち寄ったのが、周防の多々良浜、すなわち防府の三田尻港だったのです。
 そして琳聖太子は聖徳太子への謁見後、この地にちなんで多々良の性を賜り、この地に帰化したとのことです。(厳密には山口市あたりの盆地を賜ったらしい)

 まとめると、歴史考証をしっかりやっている『マイマイ新子と千年の魔法』らしく、この伝説に関してもかなり正確。
 下松の伝説ではその下松に流れ星が降りてきますが、もしそれが防府から見えたとすると、山の向こうに流れ星が落ちた、となるのです。
 年代的にも諾子の時代から見て数百年前という、劇中のセリフとぴったり当てはまっています。
 さらに、流れ星に導かれるように百済からやって来た琳聖太子は実際に多々良氏の先祖であり、三田尻港から上陸しているのです。
 正直なところ下松の流れ星のことしか頭になかったので、多々良権周防介のご先祖様である琳聖太子が、まさか本当に防府に上陸していたとは思っていませんでした。てっきり下松に上陸したんだと思い込んでいたので、そりゃもう驚きましたよ。

 最後にひとつ蛇足。
 実はここまで書いておいてなんですが、琳聖太子は実在の人物かどうか怪しいそうです。
 ※参考:多々良大内氏の野望 朝鮮貿易意識した系譜 : こだわり歴史考 : 教育 文化 : 九州発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 まあ、ここでは厳格な歴史の勉強をしたいわけじゃないので見なかったことにします。(笑)
 そういうことを言ったら、松に降りて七日七晩輝いたという流れ星の方がよっぽどかあれですし。(苦笑)

 そんなこんなで、『マイマイ新子と千年の魔法』が関東の映画館で見られるのもあと7日間。川越スカラ座で7月2日(金)まで!(6月29日(火)は定休日なので注意)
 明日6月26日(土)には、11:30と13:45の回上映終了後、一日2回も片渕須直監督の舞台挨拶がありますよ。

 さあ、最後の7日間の輝き、とくと見届けましょうぞ。

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コメント (2)

川越スカラ座は一平の映画館そのままの佇まいだそうですね。
星を追いかけて行ってみたい。
お近くの方には、ぜひ最後の輝きを見届けていただきたいです。
そして、願わくば最後はこの地にもう一度還ってきてほしい。

蟋蟀が鳴く頃に…

◆silver_copperさん
とりあえずの映画館での上映もいよいよ大詰めって感じですね。
川越スカラ座って写真でしか見たことないですが、ほんと昔ながらの劇場って感じで、マイマイ新子やってる間に、なんとか行ってみたいです。けど微妙に遠くて、ふらっとは行けないんだよなぁ。

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