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2010年6 月29日 (火曜日)

【映画評】宇宙ショーへようこそ (2010)

山村の小学生5人が、修学旅行として宇宙を旅する奇想天外なジュブナイル・アドベンチャー。

【満足度:★★★】 (鑑賞日:2010/06/28)

 前評判がよいようだったので期待したのだが、確かに見所も多い、けどちょっとこれは辛口になってしまうわ。

 山間の村、村川村。
 夏のある夜、その村のわさび畑で繰り広げられる宇宙人同士の激しい戦闘。やがて敗れた方の一味は、UFOに乗って去っていった。
 一夜明け、そんなことがあったとは露とも知らぬ村人たちののどかな朝。
 村でたった5人の小学生、5年生・小山夏紀(声:黒沢ともよ)、2年生・鈴木周(あまね、声:生月歩花)、6年生・佐藤清(声:鵜澤正太郎)、4年生、西村倫子(のりこ、声:松元環季)、3年生・原田康二(声:吉永拓斗)は、夏合宿でこの日から一週間、小学校に泊まり込むことになっていた。
 子どもたちだけの生活が始まった初日、康二がわさび畑脇の草原にミステリーサークルを発見する。さらに周がその中に倒れている犬を発見。
 しかしその犬のような生き物は、昨夜の戦闘で傷ついた、アニマル星域のプラネット・ワンからやって来た宇宙人ポチ・リックマン(声:藤原啓治)だった。
 ポチは助けてもらったお礼に、願い事を叶えてくれるという。ならばということで、遠いところに修学旅行させて欲しいとお願いする5人。
 その願いを叶えるべくポチが選んだ目的地は、人類が到達した一番遠いところ、月!
 これが夏紀らのひと夏の大冒険のはじまりだった…。

 テレビシリーズ『かみちゅ!』で文化庁芸術祭優秀賞を受賞した舛成孝二監督が劇場用映画を初めて手掛けたオリジナル・アニメーション作品。

 まずは目を惹く煌びやかで美しい美術。
 おもちゃ箱をひっくり返したかのような個性豊かな宇宙人たちのキャラクターデザイン。
 作品世界を盛り上げる壮大で楽しい音楽。
 内容的にもジュブナイル映画として申し分のないストレートな冒険活劇。

 製作者の並々ならぬ意気込みは伝わってくるし、やりたいこともよくわかる。
 なおかつ多くの面でそれらは結実しているとも思う。基本的には賞賛したいほど、よくできたファミリー向け娯楽映画だと思うのよ。
 でも、やりたいことを欲張りすぎで、いろいろと消化不良を起こした。

 とりあえずファミリー向けの単純明快な内容にしては2時間10分超の上映時間は長すぎるよ。
 作り手のそれを入れたいという気持ちは重々承知した上で言わせてもらうと、ミステリーサークルなんてなくてもいいと思うし、旅費を稼ぐためのアルバイトもかなりしつこい。旅は長いんだから、とっとと移動してくれないと。
 ほとんど前情報を入れずに観たおかげで、月の裏が登場したときはそのビジュアルに驚いて、こりゃ凄い映画が始まったと大いに期待したんだけれど、正直なところその月の段階で飽きてしまった。

 観客を愉しませる様々なアイデアが盛り込まれ、いたるところでSFとしての快感=センス・オブ・ワンダーも感じるのだが、どうも細かいギミックにしか目がいっておらず、宇宙サイズでのSFロマンは描けていない。
 異星の異文化を覗き見る愉しさはあるんだけれど、この修学旅行は地球から遥か離れたところへの旅行なんでしょ。その星から星へと移動する移動感が今ひとつ伝わってこない。
 光速より早く移動する“超速”の科学的なまっとう性は適当なファンタジーでかまわないと思うけど、その“移動時間”はちゃんと描いかないと。パッとカットが切り替わって、地図上で「はい、ここに来ました」って言うだけじゃ、その距離感は伝わらない。

 この移動もそうだけど、どうも時間配分が映画的じゃなく、30分の連続テレビアニメ5話ぐらいを一気に観させられたような“いびつさ”を感じるのよ。
 一週ごとのテレビアニメなら超速で出発したところで「続きは来週」となって、次週到着したところで始まれば、その一週間のリアルな時間が移動時間を補うけれど、この映画での描写は、どこでもドアで瞬間移動したかのようで、超速の凄さを表すどころか、宇宙スケールのはずの世界観を結果的に狭くしてしまっていると感じた。
 出発前の村川村や前半の月での、映画としては“雑多なこと”の時間が、全体のバランスから逆算して長すぎでダルい。
 逆に悪役がらみの情報を後半に詰め込みすぎで、わけもわからないうちの急展開がやたら駆け足に感じる。

 クライマックスをこういう展開にするつもりなら、前半でのアルバイトとか完全な寄り道じゃない。
 いや、何度も言うけど、そこで観客に見せたい「子どもたちの体験学習」て趣旨はわかるんだよ。だけどそこは心を鬼にして切り詰めるべきでしょ。
 その一方で後半へ向けた伏線はおざなり。というか、伏線の張り方が下手。

 大勢の宇宙人が誘拐されてるってことを、たった一言の説明ゼリフだけですませるから、突然突きつけられた強制労働はあっけに取られるだけ。
 クライマックスに語られる夏紀の周に対する思いも、それ自体は感動的なんだけど、それまでにそれを気に掛けている描写がろくにないから、これまた説明ゼリフに頼った最低の脚本に映る。

 そもそも子どもたちの宇宙へのロマンや、人々の善良さをめいっぱい肯定的に描いたこのジュブナイルで、悪玉一味の正体がアレってのも夢がない。前半での憧れを裏切っておいて、そのことのフォローは無しなんだ。
 さらにその悪玉のボスとポチとの因縁の対決も全体の流れから浮いてる。双方の思想の対立を腕力に物言わせた決着に落とし込んでいるのも釈然としないし。結局のところ、ただ派手なアクションを見せたかっただけじゃないの?
 子どもらのひと夏の成長記を楽しく描きたいっていうこの映画の目指すところははっきりしているんだから、悪玉に凝る必要無かったんじゃないかな。通りすがりの宇宙海賊で充分じゃん。

 苦言ついでに言うと、余韻を残そうとダラダラ続くラストも蛇足に感じた。こういうエンターテイメント色を前面に押し出した作品はスパッと終わった方が気持ちいいと思うんだけど。
 小学生5人を本当の子どもたちに演じさせたのも、リアリティという意味では功を奏しているものの、舌っ足らずで聞き取りづらいという弊害の方を強く感じた。

 思わず否定的なことばかり並べているけれど、最初に書いたようにアニメーションの自由さ、楽しさを存分に発揮した素晴らしいアニメ作品だとは思うの。
 ただ作り手の思いを制御しきれずに暴走した感が否めない。これでは映画としては力作止まり。

 でもまあ、観ようかどうしようが悩んでいる人がいたら、観ておけって言う。
 この作品から滲み出た「こういう映画を世に送り出したい」っていう思いに、最近じゃなかなかお目にかかれないほどの圧倒的な力を感じたのも本音だから。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト(声の出演)】黒沢ともよ/生月歩花/吉永拓斗/松元環季/鵜澤正太郎/藤原啓治/中尾隆聖/五十嵐麗/小野坂昌也/竹田雅則/宮本充/飯野茉優/江川央生/伊藤和晃/日高のり子/銀河万丈/飛田展男/三木眞一郎/平田宏美/納谷六朗/滝知史/垣松あゆみ/塾一久/林遼威/小田敏充/雪野五月/伊藤美紀/斎藤千和/MAKO/櫛田泰道/菊地祥子/菊本平/勝沼紀義/遠藤大智/琢磨
  • 【監督/絵コンテ】舛成孝二
  • 【プロデューサー】落越友則
  • 【企画】夏目公一朗/勝股英夫
  • 【原作】ベサメムーチョ
  • 【脚本】倉田英之
  • 【キャラクターデザイン/作画監督】石浜真史
  • 【場面設計】竹内志保
  • 【メカニック作画監督】渡辺浩二
  • 【プロダクションデザイン】okama/神宮司訓之/竹内志保/渡辺浩二
  • 【サブキャラクターデザイン】藪野浩二/森崎貞
  • 【演出】畑博之
  • 【色彩設計】歌川律子
  • 【美術監督】小倉一男
  • 【CG監督】那須信司
  • 【撮影監督】尾崎隆晴
  • 【編集】後藤正浩
  • 【音楽】池頼広
  • 【音響監督】菊田浩巳
  • 【音響効果】倉橋裕宗
  • 【録音調整】名倉靖
  • 【ラインプロデューサー】外崎真
  • 【製作統括】植田益朗/越智武/寺田篤
  • 【制作】岩上敦宏/服部洋
  • 【製作】「宇宙ショーへようこそ」製作委員会(アニプレックス/電通/A-1 Pictures)
  • 【制作】A-1 Pictures
  • 【配給】アニプレックス
  • 【日本公開】2010年
  • 【製作年】2010年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】136分

コメント (2)

こんにちは。トラバありがとうございます。
力作のレビューですね。いちいちうなずきながら読んでしまいましたw

こちらもトラバさせてもらいますね。

◆tomoartさん
コメントありがとうございます。
ちょっと大人げないほどに愚痴の羅列になってしまったんですが(汗;
この映画の制作チームの今後には期待したいという思いもあって、ずけずけと言ってしまいました。
次回作は非常に楽しみにしていますよ。

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