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2010年7 月 3日 (土曜日)

【映画評】花のあと (2009)

ただ一度竹刀を交えただけの男のために仇討ちをする女剣士を時代劇初挑戦の北川景子が演じる、藤沢周平原作の時代劇。

【満足度:★★★★】 (鑑賞日:2010/06/30)

 かねてから観たい観たいと思っていたがなかなかタイミングが合わなくて観られなかった本作。公開から半年も過ぎて近所の映画館が上映してくれたので滑り込みで観られました。
 いやぁ、スクリーンで観られてよかった。

 東北の小藩、海坂藩に訪れた春。
 城の二の丸に花見に来ていた以登(北川景子)は、城下一の剣の腕と言われる羽賀道場の若侍・江口孫四郎(宮尾俊太郎)から声を掛けられる…。

 『たそがれ清兵衛』(2002年、監督:山田洋次)や『蝉しぐれ』(2005年、監督:黒土三男)など、続々と映画化される藤沢周平原作の時代劇。

 あらすじは非常にシンプル。
 自身も剣術を学ぶ以登は孫四郎に想いを寄せるも、彼女には家同士が決めた許嫁(いいなづけ)がいた。
 別の家に婿入りした孫四郎は、あるとき城の重鎮の仕掛けた罠に落ち、その失態の責任を取って自ら腹を切る。
 許嫁の協力で以登は事の真相を知り、ただ一度竹刀を交えただけの孫四郎の仇討ちに出る、というお話。

 一歩間違うとただかったるいだけのゆったりとした時間の流れに、中西健二監督の信念が滲む。
 じっくりと時間を掛けて描かれる細やかな所作が、美しい“和”の伝統を伝えるとともに、この時代の厳しさも伺わせる。
 そんな時代を生きる以登が貫いた恋、そして見つけた愛。

 それまでのじれったいほどの時間の流れがあるからこそ、女一人で挑まんとする立ち回りに手に汗握り、ラストシーンのただ歩き続ける姿に感動がわき起こる。
 このラストシーン、ほんとに素晴らしい終幕だと思う。実は予告編にも含まれていたのだが、映画のラストシーンとして観たとき、その見え方がはっきりと違う。
 想いを貫き、それを果たした充実感。新たに見つけた愛の後ろ姿。
 丁寧に一々の所作を捉えた演出はまるで時間が止まったかのような錯覚に陥らせるが、最後の最後で1カットで捉えた延々と歩き続けるその姿には確かな未来が見える。

 正直なところ、時代劇初挑戦の北川景子の芝居はちょっとたどたどしくぎこちない。
 それ以上に相手役の孫四郎を演じた本職はバレエダンサーの宮尾俊太郎の台詞回しが危なっかしくてヒヤヒヤさせられた。
 しかしその危うさを脇で支えるベテラン勢や芸達者らの姿が、劇中で以登を見守るその役柄とダブって、なんだかこちらまで彼女らの拙さを優しく見守ろうという気にさせる。

 特に以登の父・寺井甚左衛門を演じた國村隼と許嫁・片桐才助役の甲本雅裕のふたりが清楚な映画に温かみをもたらす。
 厳しく娘を育てる甚左衛門とひょうひょうとした振る舞いで以登を困惑させる才助、演じるキャラクターは正反対だが、ともに多くを語らずとも以登の思いを汲み取って、静かに見守っているその姿に、理想の男性像を感じずにおれない。
 また、悪役ではあるけれど藤井勘解由を演じた市川亀治郎も、ふてぶてしい存在感でこのゆったりとした映画を締めた。

 映画自体が凛とした美しさを湛え、チャンバラとは違う時代劇の良さを今に伝える。
 咲き誇る桜を愛でるように、ただ静かに日本の良さに感じ入る。
 素晴らしい佳作だ。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】北川景子/甲本雅裕/宮尾俊太郎/相築あきこ/谷川清美/佐藤めぐみ/綱島郷太郎/小野寺夕海/紺野萌花/永峰あや/市川亀治郎/伊藤歩/柄本明/國村隼
  • 【語り】藤村志保
  • 【監督】中西健二
  • 【製作】川城和実/尾越浩文/亀山慶二/遠藤義明
  • 【企画】小滝祥平/梅澤道彦
  • 【原作】藤沢周平「花のあと」
  • 【脚本】長谷川康夫/飯田健三郎
  • 【音楽】武部聡志
  • 【主題歌】『花のあと』一青窈 [作詞]一青窈 [作曲/編曲]武部聡志
  • 【殺陣指導】高瀬将嗣
  • 【エグゼクティブプロデューサー】河野聡/上田めぐみ/大芝賢二/町田智子
  • 【プロデューサー】森谷晁育/芳川透/松井俊之/小久保聡
  • 【アソシエイトプロデューサー】梅澤勝路/若杉類/白石剛/西川朝子
  • 【特別協力】遠藤展子/遠藤崇寿
  • 【撮影】喜久村徳章
  • 【照明】長田達也
  • 【録音】武進
  • 【美術】金田克美
  • 【装飾】中山まこと
  • 【編集】奥原好幸
  • 【衣裳】松田和夫
  • 【スクリプター】森直子
  • 【キャスティング担当】日比恵子
  • 【フォトグラファー】齋藤清貴
  • 【助監督】山田敏久
  • 【製作担当】竹岡実
  • 【製作】「花のあと」製作委員会(バンダイビジュアル/ポニーキャニオン/テレビ朝日/山形テレビ/日楽堂/アサツー ディ・ケイ/朝日新聞社/デスティニー)
  • 【制作プロダクション】デスティニー
  • 【配給】東映
  • 【日本公開】2010年
  • 【製作年】2009年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】107分

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