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2010年7 月11日 (日曜日)

【映画評】孤高のメス (2010)

天才的な技術を持ったさすらい医師が地方の市立病院を意識改革していくヒューマンドラマ。

【満足度:★★★】 (鑑賞日:2010/06/08)

 すごくイイ映画。なんだけど、手堅すぎてちょっともの足りなかった。

 勤め先の片田舎の病院で急逝した看護師の母・浪子(夏川結衣)の葬儀のために里帰りしていた新米ドクターの弘平(成宮寛貴)は、母の遺品の中から古い日記帳を見つける。
 そこには生前の浪子の姿からは想像つかない看護師としての泣き言が綴られていた。そして、有能な外科医・当麻鉄彦(堤真一)との出逢いも…。

 現役の医師・大鐘稔彦のベストセラー小説を原作に、『ミッドナイトイーグル』(2007年)の成島出監督が映画化。

 他の医師が嫉妬するほど有能な外科医・当麻を堤真一が好演。
 対する夏川結衣もちょっとひねた感じがかわいらしく、いい味を出している。
 浪子らのお隣に住む小学校教師・静が後半で重要な役どころになってくるのだが、こちらを演じた余貴美子がこれまた安定した素晴らしい演技を見せてくれる。

 演出的にはリアルに再現された手術シーンが目を見張る。変に隠すことなく、開口部をはっきりと見せる勇気ある姿勢にも驚かされるが、と同時に、神秘的にすら感じる医療行為の“美しさ”にまで迫った演出は、この手の医療モノの作品ではあまり感じたことのない感動で、白眉だった。
 脚本もよく練られており、往年の西部劇を彷彿とさせるエンターテイメントの王道をゆくさすらい医師、必要充分な描写の中でキャラ立ちした登場人物たち、わかりやすく提示される様々な医療問題、ときにユーモアも交えた的確な伏線とその回収、と、どこから斬っても手堅い良作に仕上がっていると言えよう。
 ただ、好みによるのだろうが、ちょっとケレン味が足りない気がしないでもない。

 とにかく堤真一演じる当麻のキャラクターができすぎな感じで、憧れるほど立派なヒーローではあるが人物造形的に完璧な人すぎて人間臭さには欠く。
 そういう意味では敵役となる権威主義者のダメ医師・野本(生瀬勝久)の方が、ひどい奴だが人間味はあると感じてしまうくらい。
 しかしこの野本にしてもあまりに絵に描いたような悪役で、人の命を預かるという微妙な問題を扱った本作では、こういう勧善懲悪的な対立構造は安易すぎないか。
 さらにこの対立構造も、野本が影でコソコソ悪口を言っているだけという印象しかなく、直接対決するわけではない。これも映画的に難しくなりそうなことは避けたという安易さを感じてしまう。
 良くできた脚本だが、巧いがゆえに難しいことからは上手に目を反らしたという気がするのよ。
 逆に言えば、難しい医療問題をわかりやすいエンターテイメント作品として仕上げたという点で評価できるのだが。

 またこれは細かい粗探しになってしまうが、余貴美子が演じたお隣さんの静が、最初から「先生」と呼ばれていて、それが小学校教師を指すということが最後の方にならないとわからず、ちょっと混乱した。医療モノ映画という先入観があって、てっきり地元の開業医なのかと思い込んでいたのよ。なにかセリフを聞き漏らしたのかも知れないが、その点はもうちょっとわかりやすくしてほしかった。
 クライマックスとなる脳死肝移植手術も、最初は「ここでは無理」と言っていたはずなのに、結局いつもと大して変わらないチーム編成でやっちゃってた点も謎。結果的に「こんな大手術」ってのも曖昧になってしまった。

 そんな感じで個人的にはあれこれ不満がないわけじゃないけれど、いい映画だとは思うんです。
 様々な医療問題を浮き彫りにしながら、最後は娯楽映画として心地いい余韻を残す見事な幕引き。
 娯楽映画の良心とも言っていい、文字通りの良作でした。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】堤真一/夏川結衣/吉沢悠/中越典子/矢島健一/徳井優/本田大輔/安藤玉恵/でんでん/菅原大吉/斎藤歩/堀部圭亮/みのすけ/遠山俊也/太賀/建蔵/掛田誠/成宮寛貴/菜菜菜/石井あみ/日向明子/山下容莉枝/宮田早苗/石村みか/松重豊/隆大介/平田満/余貴美子/生瀬勝久/柄本明
  • 【監督】成島出
  • 【製作】中曽根千治/平城隆司
  • 【企画】遠藤茂行/梅澤道彦
  • 【プロデューサー】天野和人/八木征志
  • 【アソシエイトプロデューサー】橋口一成
  • 【キャスティングプロデューサー】福岡康裕
  • 【ラインプロデューサー】木次谷良助
  • 【原作】大鐘稔彦「孤高のメス」
  • 【脚本】加藤正人
  • 【医療監修】川崎誠治
  • 【撮影】藤澤順一(J.S.C.)
  • 【美術】和田洋(A.P.D.J)
  • 【照明】上田なりゆき
  • 【録音】室薗剛
  • 【装飾】湯澤幸夫
  • 【編集】大畑英亮
  • 【音響効果】伊藤瑞樹
  • 【スクリプター】森直子
  • 【助監督】谷口正行
  • 【制作担当】石川貴博
  • 【音楽】安川午朗
  • 【製作統括】生田篤
  • 【製作】「孤高のメス」製作委員会(東映/テレビ朝日/木下工務店/アミューズソフトエンタテインメント/東映ビデオ/読売新聞/幻冬舎/博報堂DYメディアパートナーズ/朝日放送/メ~テレ/東映チャンネル/北海道テレビ/九州朝日放送)
  • 【製作プロダクション】東映東京撮影所
  • 【配給】東映
  • 【日本公開】2010年
  • 【製作年】2010年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】126分

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