【映画評】レポゼッション・メン (2009)
非情な人工臓器の取りたて屋、通称レポ・メンが自身も人工臓器を埋め込まれる悲劇を描いたSFバイオレンス・アクション。
流行なのか、最近多い気がする近未来SF。
これもまた一風変わったアイデアでなかなか面白い。ただちょっと煮つめ不足。
政府が財政破綻した近未来。
人工臓器ビジネスで大成功を収めていたユニオン社は、どんな臓器でも患者に提供していた。重いローンを課すことを条件に。
しかし当然、その高利ローンが支払えなくなる者も少なくない。
ユニオン社の社員、レミー(ジュード・ロウ)は、そんな返済不能に陥った債務者から人工臓器を回収する取り立て屋、通称レポ・メンの一員。親友ジェイク(フォレスト・ウィテカー)と競い合うその仕事ぶりは完璧だった。
患者の体内からの人工臓器の回収、それは多くの場合患者の死を意味したが、「仕事は仕事」と割り切るレミーらは、華麗な手さばきで仕事をこなす。
しかしレミーの妻キャロル(カリス・ファン・ハウテン)はそんな血なまぐさい仕事を嫌い、レミーに販売係への転属を懇願していた。
そんな折、レミーは仕事中の事故で人工心臓の移植を余儀なくされる…。
よくあるSFの世界観を借りたアクションSFかと思いきや、冒頭、いきなり主人公レミーの口から量子力学の思考実験「シュレーディンガーの猫」が語られ、こりゃまた本格的な哲学系ハードSFだわと身構えることになる。
この映画の中で描かれる未来都市も、あちこちに日本語がちりばめられた無国籍な感じの『ブレードランナー』(1982年、監督:リドリー・スコット)を彷彿とさせるもので、そういう面からも一筋縄でいかない予感を受ける。
人工臓器によって人が人ならざる者との境で苦悩し、人間としての自己のありようを見据えるという点では、おおかたそういう目論見を持ったSFだと思うし、結末もそれに沿った落としどころになっている。
近未来SFとしては、「人工臓器に隠された欠陥が!」とかいった安易な科学批判に行かなかったのが面白い。
話は人工臓器そのものではなく、そのローンが払えなくなった者への回収システムを中心に廻る。そんなひねりの利いた作品世界の中で、問題を起こすのは人間の業(ごう)だ。
社会風刺も織り込んだ良くできたSFの世界観だが、しかし高みを目指したこの作品の目論見は、すんでのところでうまくいっていない気が。
この映画、一応、衝撃の結末という触れ込みなのだが、伏線の張り方が下手なので、正直なところまったく驚けなかった。
最初に“あの人”が細工した瞬間からして演出的に不用意で、すぐに先が読める。まあ、そこまでは話としては前段なので、隠すつもりもなかったのかも知れないが、それにしては中途半端に隠している印象で釈然としない。
それ以上に問題なのは、これ見よがしなセリフで“あれ”を説明するから、最後の大どんでん返しも容易に予想がついた。冒頭のセリフが物語るこの映画のテーマから考えても、そこしか落としどころがないんだもの。
でも、これまたセリフによる安っぽい伏線でわかりやすく提示されていた決戦の地の先で行われた“秘め事”は、ちょっと予想できなかった。
表面的には突飛な設定のこのSF映画、人間のアイデンティティを問う哲学的なテーマの一方で、すれ違いの愛を描いたラブファンタジーという側面もある。
それは夫婦愛だったり、親子愛だったり、親友の愛だったり。だが最後までそれらが満たされることはない。
そう考えると、クライマックスに醸し出される場違いなエロティシズムも、身体の一部が人工臓器、すなわち人間として欠けた者同士が互いを認め、足りない何かを与え、満たそうとする“愛情表現”だとわかる。
だが哀しいかな、その“愛のある世界”は“内”も“外”もすべて“自己愛”によるものだったと提示される皮肉な結末。
ただ、そのクライマックスでのエロティシズムを狙った演出もいまいちパッとしない。
狙いほどにはエロスを感じられず、真意の伝わりにくい中途半端さもあるが、どちらかというと「なにやってんだ?」との唐突感にあっけに取られてしまった。
その唐突感が滑稽で、そこを面白いと言えば面白かったんだけど。
結局のところ、いろいろと面白そうな要素はあるのに、どういう見方をしても中途半端だったかな。
哲学SFとしても、バイオレンス・アクションとしても、単純などんでん返しものとしても吹っ切れていない感じで。逃避行の中盤も中弛みを感じたし。
惜しいのよ。もうちょっとで後世に名を残す骨太なSFバイオレンスになれたのに。
ここはぜひ、ユニオン社にお願いして換骨してもらいましょう。ローンはもちろん、出世払いで。
作品データ - Film Data
- 【キャスト】ジュード・ロウ/フォレスト・ウィテカー/アリシー・ブラガ/リーヴ・シュレイバー/カリス・ファン・ハウテン/チャンドラー・カンテベリー
- 【監督】ミゲル・サポチニク
- 【原作】エリック・ガルシア「レポメン」
- 【脚本】エリック・ガルシア/ギャレット・ラーナー
- 【製作】スコット・ステューバー
- 【製作総指揮】ミゲル・サポチニク/ジョナサン・モーン/マイク・ドレーク/ヴァレリー・ディーン/アンドリュー・Z・デイヴィス
- 【撮影監督】エンリケ・シャディアック
- 【プロダクション・デザイン】デヴィッド・サンドファー
- 【編集】リチャード・フランシス=ブルース
- 【衣装】キャロライン・ハリス
- 【音楽】マルコ・ベルトラミ
- 【配給】東宝東和
- 【原題】REPO MEN
- 【字幕翻訳】岡田壯平
- 【日本公開】2010年
- 【製作年】2009年
- 【製作国】アメリカ
- 【上映時間】111分
- 【公式サイト】http://repo-men.jp/
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