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2010年10 月 5日 (火曜日)

【映画評】パンドラム (2009)

6万の民を乗せた巨大宇宙船で冷凍睡眠から目覚めた船員が遭遇した恐怖。

【満足度:★★★】 (鑑賞日:2010/10/01)

 パンドラの箱を開けたのは誰だ。

 西暦2174年、地球上の限られた資源は枯渇し、そのために争いが絶えなかった。そんな折、地球から遥か離れた惑星タニスが地球によく似た星だとわかる。タニスへの移住のため、巨大宇宙船エリジウムは選ばれた6万人の人間を乗せ、宇宙に旅立ったのだった。
 それから何年、何十年が経ったのか、ふいにバウアー伍長(ベン・フォスター)が冷凍睡眠から目覚める。しかしバウアーは、長期にわたる冷凍睡眠の後遺症で眠る前の記憶をほとんど失っていた。
 あたりには人がおらず、どうも船内の様子がおかしいと思う中、彼はペイトン中尉(デニス・クエイド)を目覚めさせ、指揮を仰ぐ。
 宇宙船エリジウムの原子炉の調子が悪いと気づきたふたりは、これを再起動させるため、エンジニアであるバウアーが原子炉へ向かう。が、その途中、見たこともないおぞましいモンスターに命を狙われるのだった…。

 『バイオハザード』(2001年)や『エイリアン VS. プレデター』(2004年)で知られるポール・W・S・アンダーソンが製作を手掛けた宇宙SFスリラー。
 監督はドイツ出身の新鋭クリスチャン・アルバート

 『WALL・E/ウォーリー』(2008年、監督:アンドリュー・スタントン)に出ていた巨大宇宙船の中で繰り広げられる『エイリアン』(1979年、監督:リドリー・スコット)といった趣の本作。最近の作品で言えば、宇宙船とお城と、舞台こそ違うが『いばらの王-King of Thorn-』(2010年、監督:片山一良)がかなり近い。
 『いばらの王』でお城の中のコールドスリープカプセルはノアの方舟に例えられたが、こちら『パンドラム』の巨大宇宙船は文字通りの空飛ぶノアの方舟

 『いばらの王』同様、『パンドラム』でも冷凍睡眠から目覚めた船員たちに謎のモンスターが大挙して襲いかかるのだが、一応そのクリーチャーにも現実的な説明がなされ、最終的に映画のキャッチコピーとなっている「生存とは、罪なのか?」という問いが観客に投げ掛けられる。
 そういう点では、『2001年宇宙の旅』(1968年、監督:スタンリー・キューブリック)も思い出させる。筆者は、『2001年宇宙の旅』でのコンピューターHAL9000の反乱は、人類とコンピューターとの“生存競争”と解釈しているのだが、『パンドラム』で殺戮を繰り返すモンスターの姿はまさに存亡を掛けた人間との生存競争
 そのことは対人間同士にも当てはまる。そこでは善悪のルールは通用せず、生き残った者こそが世界のルールとなり、未来を得ることができる。

 かように、この映画が描かんとするテーマは、問題提起型のSFとして非常に興味深い内容なのだが、いかんせんその志で『エイリアン』的なモンスター・ホラーに比重を置いたのは失敗のように思う。
 なにはともあれ基本的に「原子炉に向かう」ただそれだけの一本調子なストーリーにしては、展開上の工夫が足りない。
 『エイリアン』を模したと思われる、“敵の姿がよくわからない”恐怖演出も、ただ見辛いだけであまり効果を上げていない。
 そもそもモンスターの正体から考えるに、見せないよりもはっきり見せて、なぜそんな姿なのかというミステリー仕立てに振った方がよかったんじゃないかと思うのだが。

 また時折登場する“別の生存者”についても、ほとんど説明要員としてしか機能していないのも気になった。ある人物に関してはオチがついて、そこは面白かったんだけどね。
 一方ですべてを説明せずに、肝心の所は観客の想像にゆだねた演出はなかなかうまい。こういう余白は知的好奇心を刺激して、本格的なSF映画を観た気にさせてくれる。

 タイトルとなっている“パンドラム”とは、宇宙飛行によって引き起こされる精神障害と劇中で説明されるが、恐らく“パンドラの箱”の“パンドラ”からの造語なんだろう。
 あらゆる災いが放たれた箱に最後に残ったのが“希望”という有名なパンドラの箱の神話がこの映画の結末と結びつく。
 パンドラ(=パンドーラー)がギリシャ神話における“人類最初の女性”というのも意味深だ。

 設定がよく似た『いばらの王』と観較べるのも面白い。
 『いばらの王』は“メドゥーサ”、この『パンドラム』では“パンドラ”と、どちらもギリシャ神話が背景にあり、『いばらの王』はコールドスリープの“眠り”を起点に、『パンドラム』はモンスターとの“生き残り”を起点に、それぞれ独自の哲学的視点に話を膨らませている点も共通する。

 全体的に予算が足りていないのが伺えるB級然とした作品なので、あまり期待しすぎると肩すかしを食らう可能性大だが、ストーリーが単調な代わりに無茶な展開はない。それでいて最後はちょっとしたどんでん返しもあって、初心者にも優しい本格派SFの力作。
 ただホラー色は強いので(PG12指定)、そちらが苦手な人は相応の覚悟をしてご覧あれ。
 グッドラック、神のご加護を。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】デニス・クエイド/ベン・フォスター
  • 【監督】クリスチャン・アルバート
  • 【製作】ポール・W・S・アンダーソン
  • 【配給】ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
  • 【原題】PANDORUM
  • 【字幕翻訳】徳植雅子
  • 【日本公開】2010年
  • 【製作年】2009年
  • 【製作国】アメリカ/ドイツ
  • 【上映時間】107分

コメント (6)

TBありがとうございました。

全く期待せずに見たのでそこそこ楽しかったです。ドキドキしました。

◆にいなさん
コメントありがとうございます。
期待せずに観るとなかなか侮れない快作ですよね。
まるでやる気のない宣伝のお陰で、まっさらな気持ちで観ることができました(笑)。

B級の上って感じの作品だと思いました。
まあ、これ以上あれこれ説明を求めても、そこまで深く描いていたら
結構な大作になってますよね。(苦笑)
でも個人的にあの宇宙船なんて良くできてると思いますよ。
スケール感的には。^^;

◆KLYさん
そうですね~。これ以上だといい意味でのB級でいられなくなりそう。
そうしたら船外を映さないというようなストイックな映画ではいられなかったかもしれませんね(笑)

ブログ訪問ありがとうございます。
被災者の方々をなんとかせにゃいかんですね。
ではまた

◆やっちんさん
長いことブログ放置してスミマセンでした。
コメントありがとうございました。

この記事へのコメントは終了しました。

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