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2011年7 月21日 (木曜日)

【映画評】大鹿村騒動記 (2011)

江戸時代から続く村歌舞伎を守る山村を舞台にして軽妙に描かれる原田芳雄主演の人間喜劇。

【満足度:★★★★】 (鑑賞日:2011/07/19)

 原田芳雄入魂の遺作、とくと見届けたで候。

 長野県の小さな山村・大鹿村。この村の誇りは300年以上途絶えることなく続いてきた伝統行事、大鹿歌舞伎。村でシカ料理店「ディア・イーター」を営む風祭善(原田芳雄)はその花形役者である。
 ある日、彼の店になんともワケありそうなアルバイト希望の青年・大地雷音(冨浦智嗣)が訊ねてくる。一見無骨で気むずかしそうな、でも実は人のいい善はなんだかんだ言いながらも雷音を雇い入れる。雷音の前では強がって見せるが善は18年前に女房に逃げられた哀れなひとり暮らしなのだ。
 大鹿村はリニア新幹線の誘致でモメていた。この日も村役場で会議が開かれたが、5日後に公演を控えた大鹿歌舞伎のことで頭がいっぱいの善はそんなことなど二の次に芝居の稽古に皆を引っ張り出す。
 稽古する村民たちには尚も誘致問題がくすぶり不協和音が続く。と、その舞台に、18年前に駆け落ちして逃げたはずの善の妻・貴子(大楠道代)と幼なじみ・治(岸部一徳)のふたりがひょっこり姿を現し…。

 主演を当代きっての個性派俳優・原田芳雄が務め、大楠道代、岸部一徳、松たか子、佐藤浩市、石橋蓮司、小野武彦、三國連太郎といった蒼々たる豪華な俳優陣が脇を固める人間群像喜劇。
 監督は『どついたるねん』(1989年)、『KT』(2002年)、『亡国のイージス』(2005年)、『闇の子供たち』(2008年)などで知られる阪本順治。
 ベテラン荒井晴彦が『KT』以来10年ぶりに阪本と組んで脚本を共同執筆していることも話題。

 阪本順治監督というと硬派なイメージがあるのだが、本作は終始笑いの絶えない軽妙な大人のコメディに仕上がっている。
 しかしあえてベテラン荒井晴彦を指名した脚本だけあってそこは一筋縄ではいかない。
 背景には現代の農村の若者離れ、過疎と外国人就労者、行く末の不透明な公共事業誘致、誰しも避けられない老化の問題、性同一性障害、果てはシベリア抑留の話題まで飛び出し、骨太というか、問題のごった煮というか。
 もちろんそれらは本作の主題ではないから、そこから大きな問題提起などなされるわけじゃない。
 それら現代を映しだした時代背景、それも簡単に答えの出せない問題の数々を提示するからこそ、江戸時代から300年、脈々と続いた人々の営みと共に、民俗芸能が“今”もここにあることの重み、その意味を知ることになる。

 いや、最初にも書いたようにこの映画はそんな堅苦しい内容ではないのだけれど。
 まさに芸達者な熟練俳優たちが丁々発止の掛け合いで観客を大いに笑わす。
 いろんな人間がいろんな悩みや苦労を抱えながら暮らす日常の悲喜交々。
 人間が根源的に抱える“おかしみ”を温かく包み込む日本の原風景たる田園風景。
 村人が守り抜き、村人を見守ってきた地芝居が、昔も今もここにはある。

 しかして、原田芳雄である。

 筆者がこの映画を観たのは7月19日。そう、彼が永眠された日。
 当初よりこの映画は観るつもりで、前日には公式ホームページを見たりしてたんだけど、この日突然の訃報を聞いて日を選ばずすぐさま劇場に駆けつけた。
 享年71歳。俳優としてまだまだ活躍盛りでの早すぎる死に、劇場では本編終了後、自然と拍手が湧き起こった。
 自分も拍手を贈りながら、改めて本作が原田芳雄最後の映画であることを噛みしめた。

 大鹿歌舞伎で映画が撮れないかと持ちかけたのは原田芳雄自身からだそうだ。
 この題材に俳優として感じ入る何かがあったんだろう。

 地芝居は神に捧げられた各地の奉納芝居に端を発するが、それが都市部で流行する見せ物としての歌舞伎となり、さらに旅芝居として地方を巡り、それを観た農民たちが娯楽として自ら演じ始めたのが今各地に残る地芝居、村歌舞伎なんだそうだ。
 原田芳雄は演じる村民の姿に役者としての原体験を見たのであろうか。あるいは長い俳優生活を経て、ここにたどり着く運命だったのか。

 俳優・原田芳雄は、くしくもこの遺作の中で“役者”の役を演じている。
 昨年秋のこの映画の撮影中、すでに病魔との闘いの真っ只中にあったとの報道もあるが、映画の中での彼の表情は喜々として、とてもそれを感じさせない。
 それは役者の役を通して、役者であること、演じることの喜びを最期の力を振り絞って表さんとしているかのようだ。いや、最期まで役者でいられることの喜びを全身全霊で満喫していると言った方がよいか。
 かくして「仇も恨も是まで是まで」の決めぜりふ。

 日常のいかんともしがたい悲喜交々の中で担う芸能の役割。
 いつの世も絶えぬ苦難や哀しみを乗り越えるべく村民が守り続けた地芝居にその答えがあるとこの映画は伝える。
 原田芳雄はさらに身をもって、それを体現してしまった。俺のことなんて笑い飛ばせと言わんばかりに。

 死の間際まで役者をまっとうし、演じることの原点を見せてこの世を去った名優に、合掌。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】原田芳雄/大楠道代/岸部一徳/松たか子/佐藤浩市/小野武彦/小倉一郎/でんでん/加藤虎ノ介/冨浦智嗣/瑛太/石橋蓮司/三國連太郎
  • 【企画/監督】阪本順治
  • 【製作】中沢敏明/山田美千代/堤田泰夫/吉羽治/冨木田道臣
  • 【共同プロデューサー】厨子健介/秋山奈美/重松圭一/服部徹/内田康史/古川一博
  • 【プロデューサー】椎井友紀子
  • 【原案】延江浩
  • 【脚本】荒井晴彦/阪本順治
  • 【音楽】安川午朗
  • 【音楽プロデューサー】津島玄一
  • 【撮影】笠松則通(J.S.C.)
  • 【照明】岩下和裕
  • 【録音】照井康政
  • 【美術】原田満生
  • 【編集】早野亮
  • 【スクリプター】今村治子
  • 【衣裳】岩崎文男
  • 【メイク】豊川京子
  • 【助監督】小野寺昭洋
  • 【主題歌】「太陽の当たる場所」 [アーティスト]忌野清志郎 [作詞/作曲]忌野清志郎 ユニバーサルミュージック アルバム「PUFFY TUFFY」より
  • 【劇中歌】「涙の惜別」 [歌]尾形大作 [作詞/作曲]鳳形大誉 [編曲]藤原いくろう
  • 【題字】原田芳雄
  • 【製作】セディックインターナショナル/パパドゥ/関西テレビ放送/講談社/TOKYO FM/КИНО
  • 【製作協力】ヌーヴェル/野木原一雄/日本映画専門チャンネル/長野県下伊那郡大鹿村
  • 【宣伝・配給】東映
  • 【日本公開】2011年
  • 【製作年】2011年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】93分

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