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2012年8 月28日 (火曜日)

【映画評】桐島、部活やめるってよ (2012)

些細なきっかけで日常が崩壊していく高校生たちのやるせない姿を赤裸々に描いた青春映画の傑作。

【満足度:★★★★★】 (鑑賞日:2012/08/26)

 俺たちは、この世界で生きていかなければならないのだから。

 11月のある金曜日、高校の英雄的存在だったバレー部キャプテンの桐島が突然部活をやめる。
 生徒たちのいつもと変わらぬ日常は、その噂をきっかけに歯車が狂い始め、それぞれの関係もざわめきたつのだった…。

 第22回小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウの同名ベストセラー小説を、『パーマネント野ばら』(2010年)の吉田大八監督が映画化した青春群像劇。
 多感で複雑な思いを秘めた高校生を神木隆之介、橋本愛、大後寿々花、東出昌大らピュアな若手俳優陣が好演。

 映画の冒頭、スクリーンに映し出される“金曜日”の字幕。元映画研究部の僕は「ああ、『メテオ』(1979年、監督:ロナルド・ニーム)方式か」と思う。
 若手俳優陣のやたらリアルな好演が光る高校生たちの姿を観ていると、しばらくしてまた“金曜日”の字幕。視点を変えて繰り返される同じ時間。元映画研究部の僕は「あ、『羅生門』(1950年、監督:黒澤明)だったか」と気を引き締める。
 文化部、運動部、帰宅部、男子、女子、見えてくる級友たちの微妙な関係。元映画研究部の僕は「おもしろくなってきた」とにやつく。
 何度目かの金曜日、菊池宏樹(東出昌大)がふと教室の窓外を見たのにつられるようにして同じ景色に目を向ける後ろの席の沢島亜矢(大後寿々花)。この一瞬で彼女が宏樹に恋していることをわからせる洗練された演出。そしてこの瞬間、元映画研究部の僕は「この映画はアタリ」を確信した。

 僕は元映画研究部。大事なことなので何度も言いました。
 やばいっしょ、この映画。

 一応エンドロールの並び的には神木隆之介くん、橋本愛ちゃんが主演扱いになるけど、文字通りの群像劇で、主要な登場人物はほぼ同じ比重で描かれている。その誰に共感、肩入れできるかでこの映画の印象もかなり変わってしまうような気がする。
 そこでだ、僕は高校、大学と元映画研究部なのである。まさに“クラス内ヒエラルキーの下の者”として学生生活を送った。しかも果てはこれを仕事にしてしまっている。最下層なのは今も変わらずですが。

 仕事にまでしてしまった身のためか、正直なところ自主制作映画やら8mmフィルムやらが登場する映画って実はあまり好きでなかったりする。なんだか楽屋オチ的な臭いがして。
 しかし、この映画は、ここまで真っ正面から突きつけられてしまったら、両手を挙げて降参するしかない。はい、まさにこんな青春時代でしたよ。
 そういうことをやっていたという、うわべだけでなく、その頃に感じていた思いまで、あるいは自分とは違うクラスメイトの風情まで、心当たりのある記憶のヒダを刺激する。苦い思いやら甘酸っぱい思いやら、もう内臓ぐちゃぐちゃな万感で見入ってしまった。

 とりあえず言いそびれる前に言っておく、大好きです、この映画。つうか、好きにならざるを得ないって、こいつは。
 映画部、自主制作映画を扱った映画でこれを越えるものは僕の生きている間にもう出ないんじゃないか、そんな気すらする。

 閑話休題。
 いや、自分のことは抜きにしても、素晴らしい映画でした。

 だいぶ前に予告編を見たきり前情報はほぼ無しで観たもんだから、青春映画にありがちなフォーマットからまるで外れたこの群像劇にはかなり驚かされた。突然何も言わずに姿を消した桐島に翻弄される面々と同じように自分もこの映画に翻弄された。
 驚かされた学園モノという意味では、橋本愛ちゃんが注目されるきっかけともなった『告白』(2010年、監督:中島哲也)に通ずるものがあるんだが、あちらは殺人事件絡みの非日常な復讐劇な上に演出的にもあえてデフォルメしているが故、どこかファンタジーのような趣もあったが、こちらはあくまでもナチュラル&リアル。トリッキーな編集こそされているが、大した事件も起こらず、地に足がついた身近さを感じる。時に赤裸々でこっぱずかしく、時に生々しく苦々しい。
 実はクライマックスには圧巻の幻想的(?)シーンがあるのだが、それとて非現実というより、むしろそれによってその非現実が“半径1メートルのリアリティ”と化す逆説となっている巧みさに唸らされた。彼らは、この世界で生きていかなければならないのだから。

 ここまで書いて気づいたが、具体的なストーリーとか、登場人物たちについてほとんど何も説明してないじゃん(汗;
 最初に映画部にまつわることで盛り上がっちゃってるけど、そういうエピソードもあるけれど、それがすべての映画じゃないですから、念のため。
 あくまでいろんな高校生たちの、徐々に壊れていく日常を丁寧に紡いだ青春群像です。
 壊れていくと言ってもそんなに劇的ではないんだけれど、かといって、淡々とした雰囲気映画でもない。
 その辺をうまく説明できない歯がゆさがあって、まあ、とにかくご覧くだされ。

 主要登場人物だけで10人を超えていながらそれぞれにドラマがあり、とてもここですべてを語り尽くせないのだけども、ひとつ言いたいのは、この映画の中で描かれる重層的なドラマは、もはや学校の中だけでは収まっていないということ。
 青春賛歌という言葉で一括りにはできない、若かりし頃を懐かしむ青春映画という枠を超えて、大人になっても身につまされる人間模様がここにはある、311を経験した今の日本だからこそ、より響き渡るメッセージがここにはある。

 だから繰り返し言う。
 俺たちは、この世界で生きていかなければならないのだから。
 せめてドラフトが終わるまではね。

作品データ - Film Data

  • 【キャスト】神木隆之介/橋本愛/東出昌大/清水くるみ/山本美月/松岡茉優/落合モトキ/浅香航大/前野朋哉/高橋周平/鈴木伸之/榎本功/藤井武美/太賀/一井直樹/栗原吾郎/永井秀樹/猪股俊明/桜井聖/平田伊梨亜/植村純奈/井上沙映/谷相奈瑠美/渡辺雅之/中嶋和也/マーク/岡見雄人/大鶴佐助/佐藤王宝/柳原聖/和田勇輝/西田啓二/久我玄紀/今野陽介/奥野港一/阿部務/奥瀬繁/成瀬労/冨田佳孝/下尾仁/城下秀二/川村慎二/宮下絵馬/シュドーズ直矢/佐藤拓也/坂本伊都/エイバーグ華怜/山脇はづき/石川彩楓/濱田紫乃/奥村知史/岩井秀人/佐伯晃浩/塚田康介/杉木悠真/内田隼人/久保田駿介/中村太亮/大矢剛康/古川裕太/路川あかり/井水優菜/大坪あきほ/森元芽依/杉浦香絵/末廣綾那/堀本雪詠/三宅唯真/向井健/宮本貴美/丸山千晶/山川真理恵/朝日梨帆/藤代真里奈/三谷望/岡田理奈/小園宏美/中山旻/西本宙樹/霜垣健太/大後寿々花
  • 【監督】吉田大八
  • 【原作】「桐島、部活やめるってよ」朝井リョウ
  • 【脚本】喜安浩平/吉田大八
  • 【製作指揮】宮崎洋
  • 【製作】菅沼直樹/茨木政彦/弘中謙/平井文宏/阿佐美弘恭/畠中達郎/和崎信哉
  • 【エグゼクティブプロデューサー】奥田誠治
  • 【Co.エグゼクティブプロデューサー】神蔵克
  • 【プロデュース】佐藤貴博
  • 【プロデューサー】北島和久/枝見洋子
  • 【ラインプロデューサー】仲野尚之
  • 【音楽プロデューサー】日下好明/平川智司
  • 【音楽】近藤達郎
  • 【撮影】近藤龍人(J.S.C.)
  • 【照明】藤井勇
  • 【録音】矢野正人
  • 【美術】樫山智恵子
  • 【装飾】山田好男
  • 【編集】日下部元孝
  • 【VFXスーパーバイザー】西村了
  • 【スクリプター】田口良子
  • 【助監督】甲斐聖太郎
  • 【製作担当】吉崎秀一
  • 【企画協力】集英社/高梨佳苗/信田奈津
  • 【主題歌】「陽はまた昇る」 [作詞/作曲/歌]高橋優
  • 【製作】「桐島、部活やめるってよ」製作委員会(日本テレビ放送網/集英社/読売テレビ放送/バップ/DNドリームパートナーズ/アミューズ/WOWOW)
  • 【配給】ショウゲート
  • 【制作プロダクション】日テレ アレックスオン
  • 【企画製作】日本テレビ放送網
  • 【日本公開】2012年
  • 【製作年】2012年
  • 【製作国】日本
  • 【上映時間】103分

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